満月招き猫

景綱

文字の大きさ
9 / 29

不思議なカラフル招き猫

しおりを挟む

「どうです。築四十五年ですがリフォーム済みですから綺麗でしょ。売り主さんもなんでここを百万という破格値にしたのかわかりませんけどね。招き猫に認められた方っていうのも変わっていらっしゃるし」

 確かに綺麗だ。築四十五年とは思えない。二LDKか。両親と自分が暮らすには十分だろう。日当たりもいいし静かな環境だしバス停も近くにある。バスの本数もそれなりにあるようだ。駅とショッピングモールの途中になるからだろう。
 両親も気に入っているようだ。
 問題は売り主が売ってくれるかどうかだ。
 招き猫の姿は目の前にある。二階の部屋の出窓のところに鎮座している。本当にあいつが住人を決めるのか。小型カメラでもついているんじゃないのか。

「ここに住みたいですね」

 父は微笑みそう呟いた。

「そうでしょう。そうでしょう。けど、住んでいいかどうかは招き猫次第」
「権田藁さん、本当に招き猫が決めるんですか」
「ええ、本当ですよ。まあわたくしもよくわからないのですが、不思議なことですよ。あの招き猫はどんな仕組みになっているのやら」
「不思議か」
「ええ、不気味でもありますけどね。まあそれは置いておいて。判定してもらいましょうか」

 ごくりと生唾を呑み込みじっと招き猫を見遣る。
 判定ってどうやってするのだろう。やっぱり話すのか。そうだとしたらどこかにスピーカーがあるはず。見た感じどこにでもありそうな陶器製だ。ただ違うのはカラフルだってことだ。
 招き猫をじっとみつめて待つこと数分。
 何も起きないけどこれってここに住むに値しないってことなのだろうか。それともまだ判定されていないのだろうか。

「あの権田藁さん。判定はまだでしょうか」
「ええ、まだですね。いつもよりも考えているようです」
 考えている。権田藁もおかしなことを言う。まさかとは思うが売り主はこの権田藁なのではないだろうか。そんな考えがふと湧いた。そうだとしたらしっくりくる。

 権田藁を見ているとガタリと招き猫のほうから音がした。

「えっ、今の何」
「母さんも見たか。動いたよな。招き猫が動いたよな」
「ええ、どうなっているの。もしかして権田藁さんが」
「いえいえ、わたくしは何もしていませんよ」

 招き猫が動いただと。くそっ、見逃した。
 賢は招き猫に一歩近づき「どうなんだ。判定は」と訊いた。答えるだろうか。どこかで答えてほしいと思っている自分がいた。

 ガタリ。

 おっ、動いた。そう思ったら招き猫から紙がひらりひらりと舞い落ちた。
 いったいどこから紙が。
 拾いに行くと、その紙には『ここに住むのは息子だけだ。他の者は住めぬ。もちろん金は息子が出せよ。それでないと住むことは認めぬ』と記されていた。
 自分ひとりだけ。しかも百万円払うのも自分が。払えるけど、親の金も当てにしていたこともあり少しショックだった。けど住める。ここに住める。
 あっ、また紙が。

『ここに住むにあたり毎朝吾輩にお供えをするように。お供えはなんでもよい。何もなければ水だけでもよい。それが条件だ』

 お供えか。
 それなら問題ない。
 何気なく両親の顔を見ると残念そうな顔つきに見えた。

「あのさ、たまには親をここへ連れて来てもいいだろう」

 賢は招き猫にそう問い掛けると紙がひらりひらりと。

『たまに来るのはよい。だがここに泊まってはいけない』

 泊まっちゃダメなのか。そう両親に伝えるとニコリとしていた。それでもいいようだ。それにしてもこの招き猫はどういうシステムになっているのだろう。ファックス機能でもついているのか。

「あの招き猫を手に取って見てもいいですか」
「いや、それはどうでしょうね」

 あっ、また紙が出てきた。

『ダメだ。吾輩に触れるな』

 そう言われると余計に触りたくなる。というか確認したい。絶対に何か機械的なものが備え付けてあるはずだ。そうでないと説明がつかない。どこかで操作している人がいるはず。そう考えたらどこかに盗聴器のようなものもあるのではないか。それは困る。どうしたものか。ここに住もうと思ったけど考えてしまう。

「権田藁さん、もしかしてここって盗聴されていたりカメラとかで監視されていたりします。
「まさか。それはないですよ。気になるのであれば調べてもらってもかまわないですよ」

 権田藁さんを信じるのならあの招き猫から出てくる紙はいったいどういう仕組みになっているのだろう。

『おまえ疑い深い奴だな。吾輩はただの招き猫ではないぞ。生きているのだ。それだけの話だ』

 そうなのか。生きているのか。って納得するな。そんなわけがあるか。
 なるほど、こんな奇怪な招き猫があるから百万円という破格値なのか。

「賢、そんなに深く考えることはないだろう。家を持てるんだぞ。いいじゃないか」

 父の言葉にそれもそうかと納得した。もしかしたら楽しいかもしれない。変わった猫がいると思えばいいのか。猫か。そうだ、パンはここで飼ってもいいのだろうか。

「権田藁さん、猫は飼ってもいいんですかね」
「それは招き猫のほうに訊いてください」

 招き猫にか。招き猫に目を向けるとまたしても紙がひらりひらりと。

『いいぞ。猫ならば問題はない』

 そうなのか。よし、この家を買おう。

「権田藁さん、ここ買います」
「おっ、契約成立ですね。わたくしも嬉しいですよ。ここの物件にどんな人が住むのかと常々気にかけておりましたから」

しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

ベイロンドの魔女

路地裏の喫茶店
ファンタジー
ベイロンドの森に人知れず暮らす『ベイロンドの魔女』 その魔女の塔に若くして塔主コリネロスと姉役リィディと暮らす魔女ランは、啓示を受け魔女としての仕事を果たしに初めての街へと向かう。 異世界ファンタジーの冒険物、主人公の成長記。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

「私は○○です」?!

咲駆良
児童書・童話
マイペースながらも、仕事はきっちりやって曲がったことは大の苦手な主人公。 一方、主人公の親友は周りの人間を纏めるしっかり者。 偶々、そんな主人公が遭遇しちゃった異世界って?! そして、親友はどうなっちゃうの?! これは、ペガサスが神獣の一種とされる異世界で、主人公が様々な困難を乗り越えていこうとする(だろう)物語です。 ※まだ書き始めですが、最後は「○○○だった主人公?!」みたいなハッピーエンドにしたいと考えています。 ※都合によりゆっくり更新になってしまうかもしれませんが、これからどうぞよろしくお願いいたします。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

焔の龍刃

彩月野生
ファンタジー
秋葉原に愛犬と一緒に住む二次元オタクの月折夕都は、高校生カップルを助け、眼鏡の眉目秀麗な男――司東朝火に捕まってしまう。古より日本を護り続けてきた影の組織“神無殻(かむから)”に属する朝火いわく、夕都は最後の“スサノオの童子”であり、“龍神”の化身たる運命を担うのだという。夕都は、記憶が混沌としており、朝火を知っていると確信する。 ブロマンス×純愛×現代アクションファンタジー。古から繋がる想いの物語。 この物語はフィクションです。劇中に登場する個人名・団体名などはすべて架空のものですが、一部は史実や神話に基づき参考にしております。 また、独自の設定を加えており、実際の史実、神話とは異なる部分が多数ございますので、ご理解ご了承のほど宜しくお願い致します。

処理中です...