時守家の秘密

景綱

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第六話「怪しき茶壷と筆」

死神長からの命令書

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「まだだ。諦めるな。ボケボケ彰俊」

 耳元で騒ぎ立てるトキヒズミのうるささに重い瞼をゆっくりと開けた。まだ死んではいないようだ。トキヒズミの毒舌が役に立つときがくるなんて思わなかった。けど、死が少しだけ先延ばしにされただけにすぎない。
 死ぬ時ぐらい静かに逝かせてくれ。
 おや、一緒にいるのは誰だろう。目が霞んでよくわからない。

「栄三郎たちの過ちを阿呆が引き受けることなんてない」

 まったくトキヒズミはこういうときも阿呆って言うのか。苦しいはずなのに笑えてきた。

「おい、聞いているのか。諦めようだなんて思っているとしたらおまえは本当の阿呆だぞ。おいらがおまえを救ってやる。だから感謝しろ」

 何が感謝だ。こんな窮地をどう救うっていうんだ。
 胸の痛みを堪えてトキヒズミの隣にいる誰かをじっとみつめた。
 あっ、あいつは。
 んっ、もう一人いる。子供か。

「こらへっぽこ死神、さっさとあいつにそれを突きつけろ。それで終わりだ」
「あっ、はい。すみません」
「小僧、ほらさっさと渡してやれ」
「うるさいな。小僧じゃない」
「おい、そこのおまえらごちゃごちゃとうるさいぞ。おまえらも我に殺されたいのか」
「馬鹿野郎、おいらたちは死なぬ。へっぽこ、早くしろ。このままだとあの阿呆が死んじまう」

 トキヒズミにすねを叩かれて顔を顰めているのは、あのときの死神か。あいつを連れてきて何をしようとしているのだろう。
 ああ、胸が、胸が。もうダメだ。

「お、おい。ヨ。ヨム。お、おまえは、し、死神の任を解かれた。これが死神長の命令書だ。そして、地獄で心を入れ替えろとのことだ」
「ふん、馬鹿なことを言うな。下っ端のサウが偉そうに。死神長がそんな命令書を出すわけが、うっ、うわわ」

 何が起きた。
 あれは……。
 燃えている、ヨムと呼ばれた死神の持つノートが燃えている。ヨムの手から燃え盛るノートが落ちて灰となる。
 あれ、胸の痛みが消えた。どういうことだ。

「ド阿呆、無事か」
「ああ、なんだか痛みが消えてさ」
「そうか、そうか」
「あの、それはヨムの死神ノートが燃えてあなたの死が無効になったからです」

 なるほど、そういうことか。

「ありがとう。死神サウさん」
「おい、それは違うぞ。おいらの手柄だろうが」

 こいつは誰だ。
 小首を傾げていると栄三郎が出てきて「ササではないか。久しぶりだな」とササの頭を撫でていた。
 ササって、どこかで聞いた名前だ。誰だっけ。

「おい、栄三郎。ボケっとしていたくせに何が久しぶりだ。孫を見捨てたのかと思ったぞ」
「そ、そんなことするはずがない。動けなかったんだ。なあ、瑞穂」
「ええ」
「おい、そんなことどうでもいい。おいらの手柄だって言ってんだぞ。なんか美味いもの食わせろ。それでチャラにしてやる」
「食いしん坊小鬼、うるさいぞ」

 小鬼。ああ、思い出した。栄三郎の昔話に出て来た奴だ。

「やめろ、おまえら。我は行かぬ。地獄になど行かぬ。やめろーーー」

 死神ヨムは地獄の門番の大鬼二人に両脇を抱えられて連れて行かれてしまった。

「くそーーー。おまえら覚えていろ。いつか復讐してやるからな」
「だまれ、ヨム。おまえには地獄で厳しい修行が待っている。一から出直すのだ。いや、ゼロからの出直しか」

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