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第五話「猫神様がやってきた」
猫神であり小説家でもあり
しおりを挟む今日もカチャカチャと軽快な猫式ブラインドタッチの音が部屋に響いている。ネムの新たな物語が紡がれている証拠だ。だが、突然ネムの手が止まって顔を上げてきた。
「真一、ちょっといいか」
「どうした、ネム」
ここ最近は家にいるときだけ話してくれるようになった。パソコンとの会話は面倒になったのだろう。
「実はおかしな夢を見たんだが、どうにも気にかかるんだ」
「夢?」
「なになに、なにぃー。私に黙ってふたりでお菓子食べるつもりなの。真一、黙って食べるなんて百年早いわよ」
思わず真一は吹き出してしまった。
「あっ、なによ。真一の分際で馬鹿にするの」
「ミコ、誰もお菓子など食べていない。『お菓子』ではなく「おかしな夢」と言ったんだ」
「えっ、そうなの。なーんだ。あっ、私忙しかったんだ。じゃあね」
ミコは顔を赤くして外へ駆けて行ってしまった。
まったくミコの奴は。食い物のことでも考えていたんだろう。可愛いっちゃ可愛いけど。
「で、おかしな夢っていうのは?」
「そうそう、それなんだが。昔、知り合った慈艶とかいう方位磁針の付喪神がいるんだが、突然出て来てある家に連れて行かれたって夢なんだ。ただ、なんとなくあの家に妖気が漂っていた気がしてな」
「夢なんだろう。気にするなって」
ネムは唸り、考え込んでしまった。
そんなに気になるのか。ネムが気になるってことは単なる夢じゃないってことか。まさかとは思うが何かが起きる予兆なのか。
「真一、すまないがちょっと出掛けてくる」
ネムはそう口にすると、玄関へと足を進めた。ネムは猫だが普通の猫とは違う。猫神だ。開いていない扉など関係ないとばかりに突き進み通り抜けてしまった。便利な身体だなと感心せざるを得ない。
「あっ、ネム。〆切は今月末だからな」
「ああ、わかっている。問題なしだ」
扉越しからそう声が届いた。ネムがそう言うのなら問題はないだろう。〆切に間に合わなかったことはない。ネムは猫神なのだがベストセラー猫小説家でもある。何の因果か一緒に暮らすことになったが、編集者として大助かりだ。あんな面白い小説を書く猫神だものな。
猫の街で繰り広げられた事件というか陰謀とうかが遠い昔のことのようで懐かしい。あのときはどうなることかと思ったが今こうしていられるのもすべてネムのおかげだ。
ネムがいれば大丈夫だ。
それよりもネムの話していた夢のほうが気にかかる。気にするなとは言ったがネムがあれほど気にしているということは何かあるはずだ。
*****
*ここで登場するネム、真一、ミコは別の物語『小説家眠多猫先生』からの特別出演です。
気になる方は『小説家眠多猫先生』をご覧ください。
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