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第四話「鏡に映る翡翠色の瞳」
気づけば濁流の中
しおりを挟む「最悪だ……この世の終わりだ……」
『俺は死ぬのか。ダメだ、死にたくはない』
このままだと濁流に吞み込まれてしまう。
どこもかしこも水、水、水。
すべてがこの濁りきった水の底に沈んでしまったのだろうか。もがいたところで何も変わりはしない。奇跡なんてそうそう起こるものではない。流れに身を任せていけば助かるなんてことはないだろう。あのうねり狂った水の化け物はきっと容赦をしない。それでも一縷の望みにかけてみたい。
何かできることがあるはずだ。窮地を脱する方法があるはずだ。
そもそも、どうしてこんな事態になってしまったのだろう。気づけば濁流の中にいた。おかしいだろう。大雨が降っていたか。いや、そんな記憶はない。堤防が決壊したのか。そんなことはない。その前に川のそばにもいなかった。
何かが変だ。それが何なのかよくわからないが、変だ。
どこか違和感を覚えた。
濁流に呑み込まれようとしているはずなのに、どこか現実味がない。なぜだ。死と直面しているこの状況に置かれてもなお冷静でいられるのはなぜだ。流されている。この恐ろしい大自然のうねりの中に間違いなくいる。なら……。
あ、音だ。聞こえるはずの音がない。うねり狂う水の音がない。無音だ。それだけじゃない。
冷たさ、水の匂い、流れる音、何も感じない。
もしかしたら、これは夢なのか。けどそう思い込みたいだけかもしれない。冷た過ぎてすでに感覚を失ったという可能性だってある。触覚、臭覚、聴覚が麻痺をしたということか。あるのは視覚だけ。いや、思考も問題ない。それは、やはりおかしくはないだろうか。
わからない、わからない、わからない。
ただ、わかることと言えばこのままではやがて死ぬということだ。
ダメだ、このままでは。そういえば身体が動かない。かなり衰弱しているようだ。
波打ち荒れ狂う水の流れに木々が勢いよく流されていく。泳ごうにも流れが激し過ぎてどうにもままならない。流れる木々に掴まることが出来れば少しは違う気がするが、無理だ。身体がやはり動かない。まるで身体事態がないんじゃないかと思えるくらい感覚がない。やはり麻痺しているのか。
んっ、音⁉
そう思った瞬間、一気に轟音が耳に流れ込んできた。
聞こる。なぜ、急に聞こえるようになった。いや、今はそんな場合じゃない。悪い予感がする。
この音はもしや滝なんじゃ。そう気づいた時には遅かった。彰俊は真っ逆さまに滝壺へと落下していた。
死ぬ、間違いなく死ぬ。
町のみんなはすでにこの奈落の底とも思える滝壺へ落ちてしまったのだろうか。
「アキ、アキコ、トキヒズミ。誰かいないのか」
叫んでみたところで返答はない。いったい何が起きたというのだろうか。
彰俊は滝壺へと叩き落とされて水底へと潜り行く中、キラリと光るものを見た気がした。
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