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第三話「三味線が鳴く」
いざ勝負
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「よし、トキヒズミ。まずは三味線犬が購入される前に戻ってくれ。トキヒズミの力は本当にすごいからな、頼りにしているぞ」
「ふん、阿呆もなかなかわかってきたではないか」
褒めても結局、『阿呆』と呼ばれるのか。
「これで、解決ですね。彰俊様のもとに来て正解です」
「では早速、行くぞ」
「ちょっと待て、その前に沙紀は帰ったほうがいいと思うぞ。気持ち悪くなるだけだ」
「沙紀様、小生もそのほうがよろしいかと」
沙紀は左右にかぶりを振り「トキヒズミもシャセも気遣わなくて大丈夫よ。だから連れて行って」と懇願した。
トキヒズミが気遣うなんて。そんな一面もあったのか。自分との対応の違いになんだかモヤモヤしたが沙紀のことを思うと気遣われても当然かと納得した。
「沙紀ちゃん、本当に大丈夫。思っているよりもすごく気持ち悪くなるよ」
「平気、平気。気にしないで」
「うむ、これまたアホンダラとは心構えが違う。月とスッポンだな」
まったくどこまで馬鹿にすれば気が済むのやら。
「経験も大事」
アキはボソッと呟き、怖い笑顔を向けてきた。背筋に悪寒が走る。この笑顔だけは、どうにも慣れない。
経験か。どうせ、インセとかいう三味線犬を回収してしまえば仕事完了だし危ないことはないだろう。きっと沙紀も気持ち悪い経験すれば二度と一緒に行くと言わないだろう。
「さてと、もういいかな。時を戻すぞ」
トキヒズミの言葉とともに景色が歪み始める。
気持ち悪い歪の中に迷い込み、時間が巻き戻っていく。景色がグルグルと渦へと吸い込まれていく。ああ、またしても吐き気が。慣れてきたとは言えやっぱり気持ちは悪くなる。
この歪の気持ち悪さがおそらくあのトキヒズミの減らず口を生んでしまったのだろう。そんな気がした。性格がかなり歪んでいるからな。
おや、歪みが元に戻り始めている。もう時が戻ったのだろうか。いつもよりも早い。歪みの渦は完全に消滅して、もとの景色がそこにあるだけだった。なんでだろう。慣れがそう感じさせるのだろうか。
んっ、なんだ変な耳障りな音がしている。
ぶわんぶわんぶわわわん。
いったいなんだ、この音は。歪みとは別の気持ち悪さだ。
「うぅぅ、身体が動かぬ。お、おかしいぞ」
「どうした、トキヒズミ」
トキヒズミの手足が縮んでいき、ピクリとも動かなくなってしまった。いくら呼んでも反応がなく、ただの懐中時計になってしまった。どうしたことだ。
「ふん、おまえらに怨みはないが、俺様の邪魔をするのなら容赦はしない」
「あ、あの者の手にしているものはインセではないか」
「その声は、シャセ。そうなのか」
突如、三味線に手足が生えて頭と尻尾が現れる。犬だ。間違いなく三味線と犬が合体している。
「馬鹿者、俺様の許しなしで変化するな。死にたくはないだろう」
「すみません、立花様」
その言葉でインセはすぐにもとの三味線に戻ってしまった。
いったい何者なのだろうか。『立花様』と呼ばれたようだが、あいつは人間なのか。物の怪なのか。幽霊ってことも。
彰俊が熟考していると、再び耳障りの音があたりに響き渡る。
やめろ、頭が割れそうだ。こうも不快な音色をたてるとは。
「さようなら、彰俊」
何?
小声で呟きアキが踵を返して歩いていってしまった。そうかと思うと、沙紀が「私も、帰るね」と去っていく。トキヒズミは依然として動く気配がない。残ったのは三味線猫のシャセと自分だけ。
「みんな操られてしまったようです。ところで、彰俊様はなんともありませんよね」
「大丈夫みたいだ」
「そうでしょう、そうでしょう。小生の見込んだお人ですから」
「シャセだって大丈夫じゃないか」
「小生とインセは仲間です。同じもの同士ではあの術は利かないのです」
そうなのか。なら、自分はなぜ利かないのだろうか。仲間じゃないし、特別な力があるわけじゃない。
「お主、なぜ利かぬ。もしや人間ではないのか」
「そんなわけあるか。俺は人間だ。見りゃわかるだろう。立花とか言ったか、おまえこそ物の怪なんじゃないのか」
反論したもののなんだか不安になった。
『本当に俺は人間だよな。物の怪か? 幽霊?』
いやいや、そんなはずはない。正真正銘の人間だ。それならなぜ術が利かなかったのだろう。
わからなくなってきた。まさか阿呆には利かないとか。そんな馬鹿なことあるのか。いや、そんなことよりあいつをどうにかしなくては。
「彰俊様、実は小生が操られないよう結界を張ったのです」
「そうだったのか」
彰俊はホッと胸を撫で下ろす。物の怪でも幽霊でもなくてよかった。ホッとしている場合じゃない。
彰俊はシャセに小声で「ところで、あいつを操れるか」と問うた。
「おそらく大丈夫かと。それでは、やらせていただきます」
びゃんびゃんびゃん。びゃびゃびゃぁ~びゃん。
「むむむ、負けてなるものか」
ぶわんぶわんぶわわわん。ぶわぶわぶわわわわわん。
シャセとインセの術がぶつかり合う。そばで聞いているだけでなぜか恐怖心にかられた。気持ち悪さも感じる。イラつきもする。これが所謂、不協和音ってやつか。
ここは我慢だ。この勝負に負けるわけにはいかない。
シャセ、あいつを打ち負かせ。
「ふん、阿呆もなかなかわかってきたではないか」
褒めても結局、『阿呆』と呼ばれるのか。
「これで、解決ですね。彰俊様のもとに来て正解です」
「では早速、行くぞ」
「ちょっと待て、その前に沙紀は帰ったほうがいいと思うぞ。気持ち悪くなるだけだ」
「沙紀様、小生もそのほうがよろしいかと」
沙紀は左右にかぶりを振り「トキヒズミもシャセも気遣わなくて大丈夫よ。だから連れて行って」と懇願した。
トキヒズミが気遣うなんて。そんな一面もあったのか。自分との対応の違いになんだかモヤモヤしたが沙紀のことを思うと気遣われても当然かと納得した。
「沙紀ちゃん、本当に大丈夫。思っているよりもすごく気持ち悪くなるよ」
「平気、平気。気にしないで」
「うむ、これまたアホンダラとは心構えが違う。月とスッポンだな」
まったくどこまで馬鹿にすれば気が済むのやら。
「経験も大事」
アキはボソッと呟き、怖い笑顔を向けてきた。背筋に悪寒が走る。この笑顔だけは、どうにも慣れない。
経験か。どうせ、インセとかいう三味線犬を回収してしまえば仕事完了だし危ないことはないだろう。きっと沙紀も気持ち悪い経験すれば二度と一緒に行くと言わないだろう。
「さてと、もういいかな。時を戻すぞ」
トキヒズミの言葉とともに景色が歪み始める。
気持ち悪い歪の中に迷い込み、時間が巻き戻っていく。景色がグルグルと渦へと吸い込まれていく。ああ、またしても吐き気が。慣れてきたとは言えやっぱり気持ちは悪くなる。
この歪の気持ち悪さがおそらくあのトキヒズミの減らず口を生んでしまったのだろう。そんな気がした。性格がかなり歪んでいるからな。
おや、歪みが元に戻り始めている。もう時が戻ったのだろうか。いつもよりも早い。歪みの渦は完全に消滅して、もとの景色がそこにあるだけだった。なんでだろう。慣れがそう感じさせるのだろうか。
んっ、なんだ変な耳障りな音がしている。
ぶわんぶわんぶわわわん。
いったいなんだ、この音は。歪みとは別の気持ち悪さだ。
「うぅぅ、身体が動かぬ。お、おかしいぞ」
「どうした、トキヒズミ」
トキヒズミの手足が縮んでいき、ピクリとも動かなくなってしまった。いくら呼んでも反応がなく、ただの懐中時計になってしまった。どうしたことだ。
「ふん、おまえらに怨みはないが、俺様の邪魔をするのなら容赦はしない」
「あ、あの者の手にしているものはインセではないか」
「その声は、シャセ。そうなのか」
突如、三味線に手足が生えて頭と尻尾が現れる。犬だ。間違いなく三味線と犬が合体している。
「馬鹿者、俺様の許しなしで変化するな。死にたくはないだろう」
「すみません、立花様」
その言葉でインセはすぐにもとの三味線に戻ってしまった。
いったい何者なのだろうか。『立花様』と呼ばれたようだが、あいつは人間なのか。物の怪なのか。幽霊ってことも。
彰俊が熟考していると、再び耳障りの音があたりに響き渡る。
やめろ、頭が割れそうだ。こうも不快な音色をたてるとは。
「さようなら、彰俊」
何?
小声で呟きアキが踵を返して歩いていってしまった。そうかと思うと、沙紀が「私も、帰るね」と去っていく。トキヒズミは依然として動く気配がない。残ったのは三味線猫のシャセと自分だけ。
「みんな操られてしまったようです。ところで、彰俊様はなんともありませんよね」
「大丈夫みたいだ」
「そうでしょう、そうでしょう。小生の見込んだお人ですから」
「シャセだって大丈夫じゃないか」
「小生とインセは仲間です。同じもの同士ではあの術は利かないのです」
そうなのか。なら、自分はなぜ利かないのだろうか。仲間じゃないし、特別な力があるわけじゃない。
「お主、なぜ利かぬ。もしや人間ではないのか」
「そんなわけあるか。俺は人間だ。見りゃわかるだろう。立花とか言ったか、おまえこそ物の怪なんじゃないのか」
反論したもののなんだか不安になった。
『本当に俺は人間だよな。物の怪か? 幽霊?』
いやいや、そんなはずはない。正真正銘の人間だ。それならなぜ術が利かなかったのだろう。
わからなくなってきた。まさか阿呆には利かないとか。そんな馬鹿なことあるのか。いや、そんなことよりあいつをどうにかしなくては。
「彰俊様、実は小生が操られないよう結界を張ったのです」
「そうだったのか」
彰俊はホッと胸を撫で下ろす。物の怪でも幽霊でもなくてよかった。ホッとしている場合じゃない。
彰俊はシャセに小声で「ところで、あいつを操れるか」と問うた。
「おそらく大丈夫かと。それでは、やらせていただきます」
びゃんびゃんびゃん。びゃびゃびゃぁ~びゃん。
「むむむ、負けてなるものか」
ぶわんぶわんぶわわわん。ぶわぶわぶわわわわわん。
シャセとインセの術がぶつかり合う。そばで聞いているだけでなぜか恐怖心にかられた。気持ち悪さも感じる。イラつきもする。これが所謂、不協和音ってやつか。
ここは我慢だ。この勝負に負けるわけにはいかない。
シャセ、あいつを打ち負かせ。
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