時守家の秘密

景綱

文字の大きさ
19 / 53
第三話「三味線が鳴く」

三味線犬インセの行方

しおりを挟む

 次の日。

 沙紀の叔母のもとを訪ねたのだが、残念ながら例の犬の三味線はなかった。一か月前に人手に渡っていた。
 一ヶ月前といえば放火魔が現れた時期と合致する。まさかとは思うが、人を操る力を持ち合わせていたと知っている人物がいたのだろうか。真の犯人は三味線の購入者なのかもしれない。たとえそれが真実だとしてもその者が逮捕されることはないだろう。
 それならばどうしたらいい。いや、まだ購入者の仕業かどうかわからない。早合点するな。三味線犬独断での犯行かもしれないじゃないか。

「おい、そこで頓馬とんまが悩んでいてもはじまらないぞ。考えるだけ無駄だ」

 な、なに。頓馬だと。

「トキヒズミ、俺は……。んっ、頓馬ってなんだ。どうせ悪口だろうけど」

 トキヒズミが溜め息を吐き「やっぱり頓馬だ。言動にぬけたところがあるのを頓馬って言うんだ。ドドドドド阿呆、覚えておけ」と言い放った。

 なんだっていうんだ。『ド』が多過ぎだろう。そこまで阿呆じゃない。ぶん殴ってやろうか。彰俊は握り拳を振り上げようとしたのだが沙紀がスッと間に入り込んできた。

「まあまあ、ケンカはそこまで」
「おい沙紀、おいらはケンカなどしていないぞ。ただこのどうしようもない奴に教えてやっているだけだ」
「はい、はい、そうですか」
「もう、いい加減にして。そんな場合じゃないでしょ」

 そのとき突然、びゃんびゃんびゃんびゃ~と三味線が鳴った。

「シャセ、驚かすなよ」
「こりゃ失礼しました」

 んっ、あれ。今、なんで怒っていたんだっけ。沙紀もキョトンとした顔をしている。トキヒズミはというと首を傾げているように見えた。トキヒズミの首がどこにあるのかわからないがそんな感じに思えた。
 まあいいか。

 何はともあれ、沙紀の叔母が真犯人でないってことには一安心だ。だが、問題は解決したわけじゃない。早いところ放火魔をどうにかしなくてはいけない。
 三味線犬のインセだか知らないがそいつをみつけなくてはいけない。購入者をみつければいいのだろうが簡単にはいかないだろう。運良くみつかったとしてそこからどうする。犯人はあいつですと警察に通報すればいいのか。

 人を操る三味線があるなんてことを誰が信じる。立証など出来やしない。バカにするなと警察に怒鳴られるのがオチだ。
 ならば、やることはひとつ。

『俺たちが解決するしかない』

 視線を感じてそっちへ目を向けるとシャセがびゃんびゃんと三味線を鳴らして「任せなさい」と豪語した。
 人を操れるシャセのことだ。きっとうまくいくだろう。

「で、シャセは三味線犬インセの行方がわかるのか?」
「彰俊様、私の嗅覚で探しましょう」

 鼻をヒクつかせてインセの居所を探そうとする。

「どうだ、わかるか」
「おかしいですね。どうにも、匂いが辿れないようなのです」
「アキも、ダメ。わからない」
「ふん、猫の嗅覚では無理のようだな。まあ、そうだろうな。一ヶ月前のことでは無理なのは当然だ」
「面目ない」

 シャセとアキは項垂れていた。

「もうあんたら役立たずね。あたいが……。うーん、あたいもダメみたい」

 そりゃそうだろう。アキがダメなのだからアキコも無理だろう。アキコは悔しそうな顔をしてスッと姿を消してアキへと人格が戻った。

「ねぇ、彰俊くん。過去に戻って捕まえたらどうなの」
「それだ」

 彰俊はパチンと手を打った。

「ほほう、沙紀は賢い。どこかの誰かさんとは大違いだ」
『どうせ俺は阿呆ですよ』

 彰俊は心の中でぼやき、腹立たしさを胸の奥へと押しやった。

しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 クリスマスイブの夜。  幼なじみの圭太に告白された直後にフラれるという奇異な体験をした芽以(めい)。 「家の都合で、お前とは結婚できなくなった。  だから、お前、俺の弟と結婚しろ」  え?  すみません。  もう一度言ってください。  圭太は今まで待たせた詫びに、自分の弟、逸人(はやと)と結婚しろと言う。  いや、全然待ってなかったんですけど……。  しかも、圭太以上にMr.パーフェクトな逸人は、突然、会社を辞め、パクチー専門店を開いているという。  ま、待ってくださいっ。  私、パクチーも貴方の弟さんも苦手なんですけどーっ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月
キャラ文芸
「皇帝になったら、迎えに来る」幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。今度会ったらぶん殴ろうと思う。皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。……だというのに。皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...