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Find a Way
7・α×βは異種間恋愛
しおりを挟む御磨花市、花園地区の 芳羅町にある居酒屋〔葵〕。
桧村自動車からほど近いこの小さな店の奥まった座敷に、桧村良太と桜庭譲二の姿があった。
まずは彼らの定番のビール、唐揚げ、枝豆、冷奴が卓に並ぶ。
「おめでとうってやつだ」
と言って桜庭はジョッキを軽く掲げてみせた。
良太は榊の恋人となったその日のうちに、喜び勇んで幼馴染の桜庭へと報告していたのだった。
アイツ妄想しすぎてとうとう頭がイカれたか?と心配になった桜庭であったが、麗子に聞くところによるとどうも本当に付き合っているらしい。
「今日は俺が奢ってやっからよ」
桜庭は飲み干された良太のジョッキにピッチャーでビールを継ぎ足してやった。
「で、榊さんとはどうよ?つってもまだ付き合って十日ぐらいなんだっけ」
「ああ、鳥居のほうとか、月輪の鈴鬼さんの店とか行ってるよ。つか今日行ったし、月輪」
「デートかぁ」
「デートっつうか、榊さんちのベッドとかソファとかの買い物。二人で使うやつ選んでる」
良太は幸せそうにふやけた顔をした。
「ふーん、じゃマジで付き合ってんのな、妄想じゃなくて」
「現実だっつの。番号も教えてもらったし、アパートにも行ってるし」
「えもう部屋とか行ってんの?」
「うん」
「もうやってるってこと?」
「やってねーし」
我慢してるし!と良太は強調した。
「俺も近々榊さんに挨拶しときたいんだけど。あ、そうだ、俺と絵美とそっち二人であそこ行かね?アキガレ!」
桜庭のいう〔アキガレ〕とはバイク好きの店長が営むライダーズカフェ・アキラガレージのことで、御磨花市から離れた湾岸地区にある店だ。
良太は、今日初めて自分のバイクの後部に乗ってくれた榊の体の重みや、肩や胴に添えられた手の感触を思い出す。
「いいなそれ!俺あとで榊さんに話してみる」
すっかり乗り気な良太だ。
バイクのことやら仕事のことでひとしきり盛り上がって、桜庭の彼女、絵美の話に差し掛かった。
「……で、俺はαで絵美はβだから、やっぱΩのこと警戒しなきゃなんねえじゃん」
「ああ」
「だからさ、俺、絵美にちゃんと告る前に海外のΩ風俗行ったんだよ」
Ω風俗ぅ⁉︎と良太は思わず裏返った声をあげた。
確かにΩが発情期に分泌する性フェロモンは、αを強力に誘引し性行為と項への噛みつきを促す効果があるため、好意のあるなしに関わらず襲ってしまう危険性が非常に高く、警戒する必要がある。
もしも恋人やパートナー、そうでなくても家族や仲間と一緒にいるタイミングでΩの性フェロモンに狂ってしまったらと思うと肝が冷える。
だがそれが海外の風俗ととどう結びつくのか、良太にはよく分からない。
「なんで?っていうか一昨年、海外旅行いったのそれが目的だったのかよ」
「ああ。いくら口先でフェロモンに負けねえとか言ってても、敵を知らなきゃ対策もできねえからな」
「対策?」
「Ωの発情期がどんだけ恐ろしいもんか体験しに行った。ひょっとしたら、俺なら奴らのフェロモンに理性と根性で勝てるかもしれねえって、そう思った。その店は観光客向けらしい割と大きなつくりでさ、Ωが結構な人数働いてるみたいだった。Ωの女、男性型もいたみたいだけど、俺がαだって分かると空気が、なんかこう、ヌメっと変わってさ、他のβの客放っておいてでも積極的にセックスしようと迫ってきた。まあ金欲しさやお国柄もあるんだろうけどな」
良太の脳裏には、淫靡な赤いネオンに照らされた異国の売春宿で、厚化粧の小さな女達に群がられる桜庭の姿が浮かんだ。
「Ωって普段からβに比べて性欲強いらしくてよ」
「そうなんだ」
「俺らαはそのΩを満足させられる精力があるって思われてる。で、その店のシステムは通常の料金にプラスして金払えば、発情促進剤でヒートになったΩとやれるんだ」
発情になったΩを見てみたい、ヤってみたいと思うβの男性客は多いのだとか。
「どう、だった?」
と窺うように良太が訊けば、桜庭はがっくりと肩を落としてこう言う。
「結果は惨敗だ。あれはなんつうか人間に対しての、例えばこいつイイ女だなとか、可愛いヤツだな、エロくて堪んねえなっていうような感情が一切無いのに身体だけが反応する。頭の中は麻酔薬でもぶち込まれたみたいに麻痺するっていうか、周りの音が遠ざかって隔離される感じ。そんで目の前が真っ白になって……でもやけに首輪の下の項が赤くはっきり見えててさ、無意識に首輪に噛みついてた」
怖い話を聞く子供のように固まる良太を、さらに煽るかのように桜庭は続けた。
「そんで好意なんか無いのに強烈に、これは俺のモノだ!みたいな独占欲が湧いてくる。なんでそんな気分になるかは全然わからねえ。知らねえ奴なのに、それしか頭に無え状態になる。そんで制限時間いっぱいまでただ腰振ってた。終わった後の気分は最悪」
「チンポはギンギン、頭はグチャグチャになっちまうってことか」
「ああ。俺は薬やったことはないんだけどよ、あんな感じなのかなって」
「それって発情したΩのフェロモンのせいなんだよな」
「マジで厄介。だから発情してなくてもΩを発見したら逃げるが勝ちだ」
とはいえ良太はΩに興味がないので、Ωの姿形を映したドラマやAVなども見たことはないし、実際に会った記憶もなかった。
「でもこの辺でΩって見たことねえよな、パッと見エロいの?」
「Ωの特徴的な顔立ちや体型ってあるだろ、目がデカいとか低身長だとか。まんまあんな感じ。最近若い女の間でオフェロメイクだの整形だのが流行ってるから、顔はΩみたいなβの女も居る。背が低い奴だと見分けが難しいよな。胸も豊胸とかしてんだろうし」
「何そのフェラなんとかって」
「オメガフェロモンメイクだってよ。なんか、Ωになりたい女ってのが結構いるらしい」
「ふーん、好みじゃねえな」
「まあ俺らのためにやってるわけじゃねえしな、女も。流行りだろ」
桜庭はすっかり泡が消えてぬるくなったビールで喉を潤し、
「俺がわざわざ海外に行ったのは、風俗だけが目的じゃなくってさ」
と胸の内ポケットから丸いライターのような、片手で握り込めるくらいの金属製の筒を取り出して卓の上に置いた。
「むしろこっちがメイン」
「なにこれ」
「Ωには発情の抑制剤てあるだろ?でも俺たちαにはそういう薬って、少なくとも日本で市販はされてない」
「ああ」
「でも海外の一部の国ではα向けの抑制剤に相当するものが出回ってるらしいんだ、ただしその国でも医薬品として認可はされてない」
「じゃ、これがその?」
「たぶんな。俺が行ったその店では客がαだってわかると、支配人みたいなオッサンがこっそりこれを売り込んでくる」
Ωの発情フェロモンの威力に打ちのめされたαに対し、予期せぬ場所でΩと番にならずに済みますよ、と謳い文句で売買の交渉を持ちかけてきたのだという。
「薬を手に入れるためにはαだって証明する必要があって、発情したΩとやらなきゃならなかった。店にとっては通常料金とそれに上乗せしたヒート料、加えて抑制剤まで売れりゃ随分な儲けになるんだろうな」
「セット販売みたいなもんか」
「でな、これを注射すれば瞬時に意識を失って、発情したΩとのセックスを回避できるって話だ。ヤらなければ番にもならないし、不同意性交罪で犯罪者にならずに済む」
「不同意ってんならむしろ俺らの方が同意してないんだけどな」
「まあな、でも、意識は無くても体はフェロモンに反応しちまってる。勃ったもんにΩが跨ってヤり始めたら、それでも俺らα側がレイプしたってことになる可能性はある。だから急激に血圧を下げるかどうかして、そっちに血液が行かないようにする成分も入ってるらしい」
「おお!」
「ただし、これは現地でもかなりヤバいって判断されてて、表立っては流通してない。気絶してそのまま死んだαもいるし、後遺症が残る人もいる。何よりαが自分に使うだけとは限らねえからな」
しかも高えんだよコレ、と桜庭は顔を顰めた。
「でもΩと番になるよりはマシだ。俺は絵美と結婚して家庭を持ちたいと考えてる。Ωに邪魔されたくねえ。だから護身用にこれを手に入れるために海外行った」
「護身かぁ……」
榊と恋人になったあの日、彼は良太に番ができるまでは恋人でいる、と条件を提示した。
これまで良太のイメージしていたΩという人種は、小さくか弱くて、常に首輪で項を守り、発情期にはαに襲われないように怯えている可哀想な人たち、であった。
だがもしも桜庭の言うように、ただでさえ性欲が強いΩが自らのフェロモンを武器に突撃してきたら?もしΩの発情期にあてられて性交した際に偶然首輪が外れ、あるいはΩ自らが首輪を外し、番になってしまったら?
自分たちαの運命はΩの胸先三寸で決定されてしまうものなのではないか。本来Ωとは、そうした恐ろしい生き物なのではないかと良太は怖気だった。
己の身を守ることが榊との関係を続ける上で必須になる。しかも拳で解決できる類のものではない。
良太は桜庭の話を聞いて問題の難しさを噛み締めた。
「良は間近で成人したΩを見たことってないんだよな」
「うーん、大人は無いなあ。でもガキの頃だったら確か、小学校の時にクラスに一人いなかったっけ?」
「いた。でも中学上がる前に東京に引っ越したよな。お別れ会もやった」
「思い出した」
人口全体に占めるΩの割合は十パーセントだが、国や地域によってかなりの偏りがある。
特に治安のあまり良くない花園、鳥居、月輪ではもともと五パーセントを下回る。数年前に御磨花市を中心に暗躍した人身売買組織〔JOKER〕のターゲットに番を持たぬ若いΩが含まれていたことも、現在のΩ数の減少に拍車をかけた。Ωを家族にもつ家庭は引っ越すか、Ωだけをどこか安全な場所へ避難させたのだ。
「俺が花園の一年ん時の話なんだけどさ」
「ああ」
「実は遠い親戚にΩがいてさ、血は繋がってねえけど。向こうの親が是非うちの娘と桜庭さんちの息子を番にって、一回お見合いしたことあんの」
「お見合い⁉︎」
「もちろん断ったけど」
桜庭と親戚のΩの見合いは、御磨花市を遠く離れた向こうの地元の料亭で行われたのだという。
見合い相手となったそのΩは幼児のような顔立ちで、小柄なわりにアンバランスなほど胸と尻の大きな女性だった。もともと気合の入った強い女が好みの桜庭にとっては、彼女の外見に全く惹かれる要素は無い。
だが、料亭のこぢんまりとした一室に入り、先に待ち構えていたそのΩと会った瞬間に「押さえつけたくなった」のだという。
それは恋や情からくる愛おしさの衝動ではない、強制された肉欲の発露といっていいものだった。もっというなら、腕力で締め付けて床に押し倒し、豊かな肉と脂肪をひねり潰してやりたい、この体を傷つけて滅茶苦茶に穢してやりたい、という加虐の欲望でもあった。
桜庭は本能的に、こいつはヤバい、と悟った。自分がまともな人間ではなくなると。
そして向かい合ったその女から漂ってくる、生々しいΩのフェロモンをはっきりと嗅ぎ取ったとき、自らの敗北を確信した。
Ωはまるで巨大な触手の塊のような、人ならぬ異様な存在感を放っていた。そいつは粘液でぬらぬらと濡れて蠢き、何度引きちぎっても永遠に再生し、いずれこちらの脳を、理性を喰い尽くして性の奴隷にするだろう。
こんな怪物に人間は勝てない。
桜庭はΩと同じ部屋にいる間中、ねばつく甘い毒を鼻腔から喉に延々と流し込まれるような感覚と、皮膚の上を数千本の触手が這い回るような凄まじい不快感に苛まれた。
このΩがもし発情期になったらどんなに恐ろしいことになるか、想像もつかない。
とにかくこのバケモノの前から逃げ出したい。
こいつは捕食者だ。
もう俺の負けでいい。
早くここから解放してくれ!
桜庭は見合いが終わるまで脂汗をかきながら、助けてくれ、と念じていた。
「だから俺、Ωには見合いと風俗で二回も負けてんの。特にお見合いの方のΩ、ありゃ無理だって。海外の奴らに比べても段違いでヤバい奴だった。リベンジすら考えられねえ」
今もなお、吸い込んだ空気にうっすらとあの毒が溶け込んでいるような錯覚に陥るときがある。
その度に、どこか近くにΩが潜んでいるんじゃないかと怯えてしまう。もちろんそんなはずはないのだが、そういう時は何をしても気が晴れない。
「前々から思ってたんだけどよ、榊さんっていいよな」
「あ?狙ってんのか」
たとえ親友であっても恋敵となるなら容赦しない、と敵対心に火をつけそうな良太を、
「違ぇよ、そういう意味じゃねえ」
と桜庭はたしなめる。
「なんかこう、周りの空気が清涼感あるっつうか。真夏のプールとか、綺麗な水の中みたいな感じ」
「よく分かんねえけど」
不思議なことに見合いのあった日以降、学校で先輩の榊龍時を前にすると、あのおぞましい触手の粘液が洗い流されていくような清々しさを覚えることに気が付いた。
「Ωのフェロモンで汚れたところを浄化してくれるっていうかさ」
この感覚はΩと間近で「対戦」したことのない良太にはわからないものであるらしい。
「いつか、良も分かるときがくるかもしれねえよ」
それはきっと良太が成熟したΩに遭遇し、αとして対峙した時だ。
「あのさ、この薬のことだけど」
桜庭が金属の筒を指し示し、爪で上から数回小突いた。
「二本買ってある。もし、お前に一本譲るか、売ると言ったらどうする」
異国で買ったα用の抑制剤は二本だった。
「いや、それは譲のだ。俺が使うわけにいかねえ。譲と絵美ちゃんの将来のためのもんだ」
聞くまでもなくわかりきっていた回答だ。幼馴染で親友の良太であれば、そう言うと確信していた。
「でもよ、さっきの俺の話聞いたろ?Ωの発情期には勝てねえ。それに奴らの容姿なのかフェロモンなのか分からねえけど、こっちにもの凄く嫌な感覚を持たせる力を持った、バケモノみてえな種類の奴もいる。そういうΩに対する欲求を認めたら多分、人間として終わりだ。俺はお前にそうなって欲しくは無えんだ」
この日、桜庭が良太を飲みに誘ったのは、今まで黙っていたΩへの敗北と、この薬の存在を知らしめるためだ。
一昨年まではこの薬を現地で手に入れようと思えば決して不可能ではなかった。しかし現在その国は内政状態や近隣諸国との関係が悪化し、もう日本の一般人が旅行できるような場所ではなくなっているのが現状なのだ。
「……いや、やっぱダメだ」
「なんで」
「二本しかないんだろ。この先、発情したΩに会うかどうかはわからねえけどよ。一本は絵美ちゃんのため、もう一本は自分のためじゃねえか」
「けどよ……」
「いいから」
俺は俺でいろいろ調べてみる、と良太は言った。
「じゃ、これからさ、俺と良とで情報交換していこうや」
「もちろん」
「ノーオメガの店とか教えるから」
「それってΩは立入禁止ってこと?」
表向きはごくありふれた喫茶店や飲み屋だが、実はΩの入店を拒んでいるという店があるそうだ。
「ただし、Ω出禁って堂々と看板掲げて営業してると苦情が来るらしいから、ぱっと見は普通の店だな」
「なんで苦情がくんだよ。Ωの発情とかフェロモン避けなんだろ?」
「差別するなってさ。でもよお、それって一部のΩが発情期にわざとαの集まる場所でフェロモンアタックかましたり、馬鹿なことやってるから出禁になってんだけどな」
「そういうことする奴いんのか!つーかαの集まりにΩ一人だと乱交になんねえの?」
「なるんだろうな。去年、悪揃市のクラブでニ人のΩが発情促進剤使ってαの会合に乱入、Ωを奪い合ってα同士殴り合いの乱闘、さらに複数プレイで店内メチャクチャになったって。幸いαの中には何人か番持ちが居て、そいつらは難を逃れたらしいが」
αは一度でもΩを番にしてしまえば、発情期の性フェロモンに耐性がつくといわれている。
「こわ……、てかいったん番持ちになっちまえば、他のΩの発情期は我慢できるようになるんだっけ」
「らしいな。だから俺、耐性つけるために適当なΩと番になって、それを隠して絵美と付き合うって方法も考えなかったわけじゃねえんだが……そりゃ流石にな……」
「ああ……」
桜庭はこの他にもΩに関するさまざまな情報を良太に教えてくれた。密かにΩ立入禁止として営業している会員制の店も紹介してくれるという。
居酒屋〔葵〕を出た後、良太と桜庭は帰路の途中〔紅蘭〕というラーメン屋に寄った。飲んだあとはそこで締めの醤油ラーメンを食べるのがいつものコースであった。
春とはいえ夜はまだまだ冷える。良太の実家、桧村自動車と桜庭の実家、桜庭建設へ至る分かれ道の丁子路。突き当たりに設置されてある赤い自販機で、二人は温かい缶コーヒーを買った。
街灯と自販機の明かりに照らされ、白い息を吐きながら桜庭はこんなことを言う。
「人間じゃないのかもな、俺らαと、Ωってやつは」
「ふーん、人間じゃねえとしたら、宇宙人とか?」
「そりゃ知らねえけどさ」
桜庭は空缶をゴミ箱に投げ入れた。一つ欠伸をしながら両腕を上げて伸びをし、はやく人間になりたい、と何かの物真似のように言った。どこかで聞いたような台詞だ。
「αとβって異種間恋愛だよな。大変だよな、お互い」
ま、頑張ろうや、じゃお疲れ、と桜庭と良太は別れた。
良太は異種間恋愛というのが何のことか分からなかった。
自宅への道のり、桜庭はこう考えていた。
Ωに対して強烈な独占欲や加虐心が芽生えるのは、強者に対する弱者の怯え、恐怖、自己肯定感の低さ、嫉妬、嫌悪によるものなのではないか。
Ωはひとたび発情しようものなら、そのフェロモンの効力によってαよりも絶対的に強者だ。あれをまともにくらって意識を保てるαなどいないと、身をもって知ってしまった。
あの怖しいΩを腕力で押さえつけ、犯し、屈服させ、こちらが強いと証明しなければ恐怖を払拭できない。危険なΩをものにして手元に置き、攻撃してこないよう管理と支配をすることで安心を得るべきだ。意のままにコントロールして自分の優位性を確立しなければ、とてもじゃないがあの生物とは共存していられない。
そういう切羽詰まった弱者の余裕のなさが、Ωへ向かう欲望の全ての根源ではないか。Ω以外のものに対する愛情や恋慕の表出としての執着心や庇護欲とは根本が違う。
しかしΩという生き物は、そうしたαの弱さのあらわれである性欲、束縛、加虐、依存といった行動を、「こんなにも愛されている」と好意的に受け取ってしまうもののようだ。
ΩのSNSやブログ、体験談をもとにした小説、漫画、映画、そのどれを見てもαの性欲と束縛が強いほど〔運命の番〕などといって蕩けたピンク色の表現を晒している。αの方もまたそれで喜ぶΩを〔運命の番〕と称して悦に入っている。
Ωとαの運命、桜庭にはどうしてもそれが、まともな人間同士の所業とは思えないのだ。
彼らは[#ruby=側_はた#]から見てどんなに醜い関係であっても、犠牲者が何人いようとも、互いのフェロモンさえあれば全てを肯定できる。フェロモンが倫理を凌駕するのだ。
人間は動物だ、でも獣になっちゃいけない。
しかしαとΩのそれは人の枠から逸脱した、まさに獣の所業ではないか。ゆえにαとΩは──αの自分は、もともと人間以外の生き物なのでは?と不安になる。
交際中の彼女、絵美はβだ。例えαという種が人間でなかったとしても、自分がΩのフェロモンを退け、人としての道を踏み外さなければ一緒にいることができると信じたい。
αとβの間柄、その脆さと危うさ。榊と付き合い始めた良太もまた、自分と同じ悩みを抱えることとなるだろう。
つまり一緒に戦える仲間ができたってことか。
良太。
運命なんか蹴散らして行こうぜ!
桜庭は揚々とした気分で夜空を見上げた。満点の星空であった。
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