大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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超魔の目覚め

殲滅完了、そして不穏な影

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 全ての蛮竜どもがここに集結してくれていたおかげで、一気に方をつけることができたのは幸いか。
 もし国中をバラバラに行動されていたら、対処はてこずっていただろう。
 俺は現状況を確認して任務完了を悟る。
 強力であるとは予想していたが、実際その破壊力を目にすると中々の驚愕ものである。
 周囲に目をやり、その規模が把握できた。

 「周囲に人がいないことは分かっていたが、とは言えだ……やりすぎだ」

 確かに蛮竜どもを一編に葬ることはできた、が。
 俺を中心に、半径数キロ圏内が更地になって巨大なキノコ雲が立ち込める。
 おそらく遠く離れた都市の一部分も破壊されているだろう。
 俺が使用した、自由空間蒸気雲爆発を用いた攻撃。早い話、大規模気化爆弾。
 明らかに既存の通常兵器を凌駕している、威力と規模であった。
 もちろん一匹を除いて、蛮竜の姿形はどこにもない。あれだけの破壊力、奴等が粉微塵と化したのは言うまでもなくだ。
 ……肉体を分子レベルから操作することで身体強化だけでなく多種多様な生体武装や生体機能を自己内で生み出せるが、背鰭の高周波電波放射だけでなくこのように危険すぎる能力を構築してしまうこともできる。
 それこそ、その気と時間と情報があれば理論上一撃で世界を終わらせられるような力の獲得も可能だろう。
 その危険性ゆえに、やはり先が思いやれると同時に荷が重く感じるし、扱いにも悩まされるものだ。
 現状、怪獣の肉体の主導権を持っている俺は、しょせん十八程度の小僧。
 それだけの能力を操るには精神面も思考力だって未熟すぎるだろう。

「……帰ったら、副長に報告しないとだな」

 だからこそ、今はもっとも理解してくれ信用できるニオン副長が存在こそが頼みだ。
 俺一人で抱え込むには、あまりにも大きすぎることだからな。

「それと、引き出した情報もな」

 俺は右手を広げ、その上で虫の息さえ出せない半殺し状態の生物に目をやる。
 あるのは首と頭だけの黒い蛮竜。首を切断されても、すぐには死なない生命力は中々に薄気味悪いものだ。
 だがこうなると哀れだ。勝手に生み出され、さんざん利用され、失敗作と言う理由で投棄、それが後にこれほどの災害を引き起こす鍵となる。

(お前の脳内から全ての情報を引き出した。……最初から俺に殺されるのが目的だったのか)

 死にかけてる黒い蛮竜に精神感応による交信を送りつけた。
 奴には胴体がない、つまり肺もないためもう言葉を発することはできない。

(……脳内の記憶や情報の探査と読み込み、それに加えこんなテレパシー機能まで持っているとは、その気になればお前だって蛮竜を洗脳できたんじゃないのか? まったく恐れ入る、俺のような生体兵器の出来損ないとは真逆だ。やはり究極の生命、俺もそう産まれたかった)

 妬むような言葉が帰ってくるが、どちらかと言えば諦めと虚無のような感情が伝わってくる。
 まるで自暴自棄としか言いようがないような。

(だからこそ俺を味方につける目的が挫折した場合、俺に殺されることが願望だったわけか)
(……俺の頭の中から全情報を引き出したんだろ? 記憶やら思考やら何から何まで、だったらもう何の会話も必要ねぇだろ。いい加減、殺して楽にしてくれよ。早くこのろくでもねぇ世界から解放してくれっ、てっ言ってんだ)

 ……蛮竜。
 かつて大仙ではびこっていた秘密組織の一団が大陸に逃亡し、その後に生体兵器として用いるために製造された生命体。
 しかし知能は低く凶暴性が強すぎたために制御がきかず兵器としての利用計画は停滞。
 しかし、どうにか利用できんかと生み出されたのがこの黒い蛮竜だ。
 知能を有した蛮竜に脳波増幅装置を埋め込むことで他の蛮竜どもを制御並びに統率し、一糸乱れぬ竜の軍団を創設するのが目的だったのだ。
 しかし計画は全て失敗。そしてこの蛮竜が投棄された結果、今までの蛮竜の災害へとつながったわけだ。

「どうにか生き延び復活したお前は、血眼でお前自身を製造した組織の科学者や構成員を見つけ出し、ゆっくりと時間をかけて殺した」

 そう言って俺は、黒い蛮竜の憎悪で狂った単眼を見つめた。
 不気味ながらも、しっかりと自分の意思をもち感情を暴走しているのが分かる。

「だが結局それでも恨みは収まらず、その捌け口として蛮竜どもを洗脳して全人類の抹殺に及んだ」

 そして怪獣、つまり俺と言う存在を知り、仲間にするか、拒絶されて殺されるか、の選択に至った。
 この黒い蛮竜が望んでいたことは、人類の滅亡、そして死による解放と言うわけか。
 どうせ殺して解放してくれるなら、この世の全てを超越したような存在に命をたたれたいと言う、死へのこだわりゆえに。
 普通の動物ではありえない考えだ。人並の知性を有したがために、そのような感情にいたりこの災害は長くつづき犠牲が増える結果となったのだろう。
 ……黒い蛮竜の事情も分からんでもないが、しかし多くの無関係の人々を殺し、人類滅亡を企てた。
 許されることではない。
 仮に許されたとしても、こいつに生きていける場所もない。
 悪いのはこいつら生体兵器か、それともそれを開発した一部の人類の方が遥かに凶悪か。

(……今、息の根を止めてやる。だが一つ聞くぞ、死にかけたお前を再生させた、アレはいったい何者だ?)

 そして読み込んだ記憶の中で、もっとも謎の部分を精神感応で問いかける。
 そう黒い蛮竜の記憶を探っときに見た、声だけ聞こえた謎の存在。
 こいつが死にかけの時に、唐突に姿を表し復活させ、あげくには本来求められていた能力も発現させた謎の者。
 秘密組織の技術力をもってしてもできなかったことを、得体の知れない力でいとも簡単にやってのけた。
 ……ありゃあいったい。

(分からん。ただ俺に全人類を食い殺すことを命令したのはたしか。……人類を滅ぼしたいと思ってるのは、俺だけじゃなかっただけじゃないのか? 俺と同様にそいつも人類の殲滅を願望していたんじゃないのか? そのために俺を利用した)

 やはり知らないか。いずれにせよ、調査対象にはなるだろうが、また仕事が増えるな。

(だがな俺はけして奴の命令で人類抹殺をはかったわけではない。自分自身の意思で行ったんだ! それとこれは覚えておけよ、お前は数千の蛮竜を殺したが、俺はその何倍もの人間を蛮竜の餌にしてやったぞ! 俺は思うがままに暴れてやったぞ!)

 黒い蛮竜から叫ぶような思念の言葉が返ってきた。
 人類の殲滅と言う目的は達成できなかったが、しかし無念はまるでないようだ。
 ただ好きなだけ人間を恐怖させ食い殺せたことに満足しているのだろう。

「……あばよ」

 俺はそう呟き右手を握りこみ、黒い蛮竜の頭部をグシャリと潰した。
 これでもう蛮竜の災害はおきないだろう。

× × ×

 そこは暗い部屋であった。
 しかし、真っ暗と言うわけではない。
 テーブル設置されたモニターが発光しているがゆえに。
 そして、その画面に映し出されるのは草原をモクモクと探査する人々。
 しかしその姿はみな装飾された剣を腰につけた者達。国家直属の精鋭騎士と言える出で立ち。

「……ちっ! この厄介者どもめ」

 そう舌打ちしモニターを見ながら長身の男が忌々しげに言葉をはっした。

「このままでは、時期に研究室が突き止められる。何か手を打たねば」

 そして男がテーブルのコンソールを操作すると、画面が切り替わり、そこには騎士達に指示を出すガスマスクで顔を隠した男の映像が映し出された。

「……こやつは、やはりあの男か。大仙が統一された数十年後に行方不明になったとは聞いていたが」
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