大怪獣異世界に現わる ~雇われ労働にテンプレはない~

轆轤百足

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超魔の目覚め

黒き蛮竜の製造

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 物心がついたときから全てが地獄だった。いや、自分が産まれる前から、この地獄は続いていたのだろう。
 幼少期の記憶だ。小さな檻に入れられ、不気味なマスクと白衣を着た人間達に観察されていた。
 そして、今の自分には意味の分からないことを口にしていた。

「交配実験が成功したぞ。産まれたこの蛮竜には高い知能が備わっている」
「あとは我々が主人であることを教え込み、ある程度成長したのち改造手術を施せば運用可能となるだろう」
「……しかし、わずか一頭では心もたない。もっと生み出すべきだ、より効率的かつ確実性を高めるため交配実験を続けるぞ」

 その実験を目にしたとき、本能で理解できた。自分の母は、美しい体毛で覆われた人の言葉を話せる竜なのだと。
 だがその雌竜は日々絶叫を響かせていた。
 
「いやあぁぁぁ!! やだやめて! ……痛い痛い」
「ギュアァァァ!!」

 そして母の悲鳴がかき消されるほどの咆哮が響き渡る。
 若き雌竜を狂ったように犯しつくす、その竜の容姿はあまりにも醜いものだ。
 単眼、ヌルリとした白い表皮、大きく裂けた口には針のごとき牙がズラリと並び腐臭の息を吐く。
 ほぼ毎日その光景を見ていた、謎の薬を射たれて興奮状態に至った蛮竜が母を犯す、幼い自分には意図が分からない実験を。
 しかし恐ろしいことであることは理解できていた。
 そして、それが自分と同じ生物を製造するための実験だと。

「もうやめてぇ!」

 泣き叫ぶ母はそのおぞましい竜に汚され、美しい体毛が日に日にと血と汚濁で変色していった。
 そして、ある日……。

「この個体が産まれて以降、良いデータが取れんな」
「蛮竜は制御がきかんからな。……それを統率できる知性を持つ蛮竜の開発。初めから、この計画が間違っていたのか?」
「いずれにせよ、このまま良い結果が得られなければ、エネルギーや労力の無駄だ。根本的から生体兵器開発計画の見直しとなるだろう」

 人間達が各々に難しい言葉を口にしながら、自分が生活する(とは言え檻の中)実験生物保管室に入ってきた。
 子自律駆動の檻に入れられた母を伴いながら。そして、その檻は自分の傍らに停車し、人間達は部屋を後にした。
 母の姿を間近で見るのは、初めてであった。
 血と汚物で体毛が汚れてはいるが、それでもやはり美しい竜である、見とれてしまうほどの。
 しかし母とは違い自分には美しい体毛はない、きっとまだ成長してないからと思っていた、いずれ自分も母と同じ美しい姿になれると信じていた。
 初めて母と会話できる距離、最初は戸惑ったが意を決して彼女に声をかけた。

「……汚らわしい。よらないで!」

 しかし返ってきたのは、自分を嫌悪する言葉であった。
 暗い部屋の中で母が涙を流しながら、睨み付けてくる。

「お前は私の子供なんかじゃない。……私から産まれた、ただの醜い化け物なんだ!」

 その言葉で理解した。母は自分に向けて何の愛情など持ってないと。
 逆にあるのは恨みのみ。自分は凌辱と苦痛と憎悪によって産まれたのだと。
 そして一月程したとき、母は死んだ。
 交配実験。その中身は薬物で精神と精力が逸脱した蛮竜と呼ばれし醜い化け物に犯し続けられると言う拷問。
 耐えられるわけがないのは当然。しかし人間達は他の生物など権利などない実験材料としか見ていないのだから、論理などどうでもよいのだろう。
 たやすく壊れるものなど無用とばかりに、母の亡骸は処理され、いよいよ自分を用いた実験の最終段階へと至った。
 ある程度成長した自分にも、地獄の施術が行われた。
 人工物の移植手術、一種のサイボーク化。
 もちろん人間達は彼を実験体としか見ていない、暴れぬよう機械装置で拘束され、麻酔なしでの切開、移植、縫合。
 長きに渡る体の中をいじり回される激痛で、何度死んでしまいたい、こんな苦痛を受け続けるなら殺してほしいと思っただろうか。
 おそらく母も、同じ気持ちであっただろう。
 何度も何度も繰り返される移植手術、そして拒絶反応による苦痛。
 もはや精神は砕かれ、怒りも恨みもなかった。
 ……そして最後に待っていたのは、廃棄処分であった。

「よもや移植したインプラントがまったく機能せんとは。製造に問題があったか」
「拒絶反応もひどく、肉体の各所で壊死が起きていますな。移植した装置も機能せず、これでは実戦で使うどころではありません」
「……コストと時間を費やして開発した蛮竜の全うな運用方の確立になると思っていたが、やはり蛮竜は役には立たんか」
「仕方あるまい、実験材料を全て処分し、この施設も遺棄する」

 そして人間達は施設を実験材料も、手間隙かけて製造したその竜も火炎放射器で焼き払った。
 施設内は灼熱の業火で焼かれ、凄まじい熱量と酸欠が実験生物達の生命を奪っていく。
 全身が焼かれる痛み、部屋の中をのたうち回ったが炎と煙のせいで逃げ場など分からず、意識を手放していく。
 しかしそれには安堵した。やっと苦痛から解放されるのだと。
 あれからどれだけ経過しただろうか?
 意識は飛んだが、死ぬことはできたなかった。
 熱さはあまり感じない。火がおそまったのだろう。

「……どうして……俺は……死ねない」

 目が焼け、気道もひどく損傷してるのだろう。
 何も見えず、息苦しく、言葉も発しにくい。
 だがおかしい全身焼かれたのなら、生物であるならもう死んでるはずだ。
 全身が焼けたせいで、身体中に痛みがはしる。
 そして喉が酷く渇いていた。
 とにかく外に出るため、まともに機能しない体で這いずり出口を探す、散らかる硬いものや廃棄物とおぼしきものにぶつかりまみれ。
 全身を焼かれたためか視力はない、それでも狭い通路を必死にあがき回り外を目指す。
 そしてあがき回り、引きずる腹に今までにない感触を感じた。
 ワサワサとした感覚、これは草なのか?
 ……そして出口の探索でわずかな体力がつきたのだろうか、さすがに限界なのか意識がまた遠のいていくのを感じた。
 するとザッザッと足音らしきものが聞こえ、何者かが近づいてくることが理解できた。

「愚かな下等生物が生み出した生体兵器か。なんと脆弱で低能なものか」

 それは人の声だった。彼を劣等な存在だと言いつけるかのような発言であった。

「……しかし利用はできそうだな。醜い怪物よ、貴様の肉体を修復し、そして本来求められていた機能を与えてやろう、蛮竜を操る機能と惰弱な魔術などと言う力をな。その見返りに、蛮竜を使いこの星の全生命を補食するのだ。まあ私が言わずとも、憎悪のはてに実行するだろうがな」

 それだけ聞こえて意識は完全に消え去った。



「……ん、俺は?」

 そしてまた覚醒した、しかし今までとはまるで違う。全身に力が入り、まるで生まれ変わったように気力が高まる。
 全身を焼かれて、絶命寸前だったはずだ?
 だが体を見渡しても火傷のあとはない、以前と同様の黒い表皮へと元通りになっていた。
 ふと近くに池があるのを気づいた。喉が渇いていたため、本能に任せ近づき水面を覗きこんだ。

「……ふふ、そうか。そうだったのか」

 水面に写る、初めて見る己の顔。
 母を凌辱していた、あの醜い化け物とまったく同じ。
 
 母のように美しくなれると思っていたが、自分はあの醜い怪物と同類であることに気づいた。
 母が自分を何故に化け物と呼んだが、理解できた。
 こんな化け物だから全身を焼かれても、なかなか死ねなかったのだろう。
 ……自分は何故、こんな化け物として誕生したのか?
 何故にこんなに苦しまねばならなかったのか?
 こんな仕打ちを受けるくらいなら、生まれたくなかった。

「……この苦痛と恨みを、この世の全てに味あわせてやる!」
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