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最終魔戦
灼熱を阻止せよ
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戦いが終わりをむかえそうだ。
……いや、これは戦いではなかったな。
魔族は人ではなく、自然に仇なす有害物質。戦いではなく駆除と呼ぶのが妥当なのだろうか。
例え意志の疎通ができるとしても、存在が有害である以上は叩くしかないのだ。
魔物の軍勢は全て葬った。あとは隊長と勇者達が戻ってこれば、事は終わる。
魔王軍を潰し終えた俺達は、ドワーフの集落に集結していた。集落の被害を少なくするため離れた位置で戦ったのが良かったのだろう、建物の損壊は少ない。
……とは言え、集落の中に突如ゴブリンが出現したらしく、そいつらの惨い遺体がゴロゴロしている。
そして俺は、みんなの様子を確認するため集落を見下ろした。
見た具合では、こちらの被害はかなり少ないようだ。
たしかに犠牲者もいるが、思ったよりも生還者はかなり多かった。
石カブトは唯一アサムが負傷した。命に別状はなかっため、ひとまず安心だ。
「兄さん、お前さんの腰にあるものを少し見させてくれんか?」
「ええ、構いませんよ」
ドワーフ達とニオン副長が、なにやら会話している。
どうやら彼等は、副長の刀に興味があるようだ。
副長は愛刀を一人のドワーフに、そっと渡した。
そのドワーフは恐る恐るとした様子で、鞘から刃を抜き取る。
「見たこともない刀剣だ。……刀のような、少しばかり湾曲し切断力に適した形状……鋭い作りにして、各部位が芸術品のような美しさを持っておる。かなり手間暇かけた品だな。……見ていると、心が奪われそうだ」
「大仙の刀剣です。ドワーフであるあなた方でも、見るのは初めてでしょう」
「ああ……。兄さん、こいつはどんな材質なんだ」
「超高純度マガトクロム。不純物がほぼ含まれてないほどの」
「なんだと! わし等ドワーフでもそんな素材作れんぞ」
「お言葉は分かります。我々の現時点での技術力では、とても作れそうにありません。しかし、大仙にはそれほどの技術を持った人物がいるのでしょう」
会話から察するに、鍛冶を生業とするドワーフ達でも副長の刀は理解できない物なのだろう。
その強度や鋭さは凄まじく人体や魔物は言わずもがな、強靭な物質で肉体を構成されている星外魔獣をも紙切れのごとく斬り裂く程らしい。
……ニオン副長自身も愛刀について色々と調べているようだが、話の内容からして今だにその製造法は分かってないようだな。
そして、ナルミとアサムに目を向ける。
「アサム! 大丈夫なの?」
「はい、心配ないです。出血量が多かったですが、ルナさんのおかげでどうにかなりました。まだ無理は、できないですけど……」
「もう! 無理しないでね。アサムは戦闘担当じゃないんだから」
ナルミは泣き出しそうな顔で、横になっているアサムを見つめている。
……迂闊だった。まさか魔物どもが最前線でない集落に転移してくるとは思いもしなかった。
アサムの危機に気付いたベーンと副長が駆け付けたため、事なきを得たが……。
して、そのベーンだが、いま俺の頭の上にいる。
……いるだけなら、いいのだが。
――クチュクチュヌップヌップ
不快な音が聞こえる。
ベーンの奴、ゴブリンの生首で遊んでいるのだ。切断部に指を突っ込んだり、臭いを嗅いだりしてるのだ。人の頭の上で、そんな遊びしないでもらいたい。
内心、「汚ったないから、捨ててきなさい!」と言いたい。
と、その時声が響いた。
「おーい!!」
オボロ隊長の声だ。
恐らく戦闘が終わったのだろう。
そう思いながら、声のしたほうへ体をむける。
……するとなんと、全裸の隊長が必死の形相で、こちらに走ってくるではないか。
しかもその腕には、弟子のロランと勇者一党を抱えていた。
どういう状況なんだ、これは?
「大変なことになるかもしれねぇ!!」
俺の足下にたどり着くなり、隊長はそう叫ぶ。
それに気がついたのか、ニオン副長とナルミもやって来た。
「どうしたのですか、隊長殿?」
「戦いは終わったんだよね?」
慌ただしい様子で、隊長は返答した。
「ああ。……だが、あの糞女ぁ! 死に際に戦略魔術を行使しやがったみてぇなんだ!」
戦略魔術!
一度の使用で都市が壊滅するほどの破壊力を持つ魔術の総称だ。
隊長が説明を続ける。
「ロランと幹部が戦っていた位置の土壌が異常なほど高温になっている。見た具合では即効性の攻撃ではないようだが……」
それを聞いて俺は触角に意識を集中して、その場所を捕捉する。
集落からだいぶ離れている位置、たしかにそこが異常なほどに高温になっている。しかも温度が上がり続けているのが分かる。
そしてついには、土が溶けて真っ赤な流動と成り果てた。まさに溶岩の海である。
その灼熱の輝きが、夜の空間を赤く染め上げていく。
「いったいどうした?」
「なんだありゃ?」
溶岩の輝きに気付いたらしく、住民達も集落の外に出てきた。
そして、徐々に土壌の融解が拡がっていくのが分かる。
「……そう言うことか」
触角で溶け出した位置の周囲を観測することで理解できた。
そして隊長を見下ろして言う。
「隊長、地中に強力な熱源があるようです」
「なんだと!」
「しかも、それを中心に周辺の土壌の温度も上がり続け、土壌の融解範囲も拡がってきてます。……おそらく、このままだと高熱は集落にも到達して、ここは溶岩に飲まれます」
「……くそ! 最後の最後で!」
悔しがるように隊長は声をあらげた。
気持ちは分かる。
全員が命がけで守った集落だ、こんなところまできて……。
「そ、そんな……」
「ここまできて……どうにかならんのか?」
「ここはワシの故郷だぞ! あきらめられるか!」
と、ドワーフ達が騒ぎ立てる。
戦いには勝ったが、こんな結末になるとは最悪だ。
なにか手はないか?
「隊長! 何とかなりませんか?」
「うーん……そうだな。地中にある熱源をどうにかできれば……」
つまり、発熱を続けている地中の熱源を抑えれば、なんとかなると言うことか。
……まてよ! ならあれが使えるか?
おそらく地中にある熱源とて無限に熱を発することはできないだろう。魔術とて万能ではない、ゆえに有限なはずだ。
「隊長、俺に考えがあります。もしかすると、うまくいくかもしれません」
「お前が? ……分かった、頼んだぞ」
隊長の許可を得て、俺は拡大していく溶岩の海に向かって脚を進めた。
熱源から発せられエネルギーを全て、俺の体内に取り込んでしまえば……。
俺はそう考えて、溶岩の中に飛び込んだ。膝の辺りまで沈みこむ。
普通の生命体なら死んでしまう行動だが、核弾頭にも耐える怪獣の肉体ならぬるいものである。
「怪獣が持つ、熱を吸収して生命活動エネルギーに変換する生体機能を利用すれば、地中の熱源から全てのエネルギーを奪えるはずだ」
最大稼動で熱吸収を始めた。
吸い上げた熱は血液を介して、特殊な器官で生命エネルギーに変換されていく。
周囲に視線を向けると、予想どおり土壌の融解の拡大がおさまっていくのが分かった。そして流体化していた土壌も冷えて発光がおさまり固まっていく。
どれだけの熱量を体内に吸収できるかは分からんが、今はそんな容量の限界など考えず地中から熱を奪うことに専念する。
やがて地面が低温となり凍結し始めた。
そして俺は、冷え固まった地面を砕きながら地中からはい出た。
触角に意識を集中して周囲を確認した。
周囲の大気も、かなりの低温になっている。そして地面から発熱の気配も感じられない。
「地中の熱源は完全になくなったようだ。……成功だ」
俺は集落に視線を向けると、成功を告げるように咆哮を鳴り響かせた。
……なぜかその後、妙に空腹間を感じた。
「フ、フゲェ……」
ふと、頭の上から声が。そういや、ベーンを頭の上から降ろすのを忘れてた。
冷却に巻き込まれたらしく、ベーンは鼻から氷柱を伸ばしている。
……いや、これは戦いではなかったな。
魔族は人ではなく、自然に仇なす有害物質。戦いではなく駆除と呼ぶのが妥当なのだろうか。
例え意志の疎通ができるとしても、存在が有害である以上は叩くしかないのだ。
魔物の軍勢は全て葬った。あとは隊長と勇者達が戻ってこれば、事は終わる。
魔王軍を潰し終えた俺達は、ドワーフの集落に集結していた。集落の被害を少なくするため離れた位置で戦ったのが良かったのだろう、建物の損壊は少ない。
……とは言え、集落の中に突如ゴブリンが出現したらしく、そいつらの惨い遺体がゴロゴロしている。
そして俺は、みんなの様子を確認するため集落を見下ろした。
見た具合では、こちらの被害はかなり少ないようだ。
たしかに犠牲者もいるが、思ったよりも生還者はかなり多かった。
石カブトは唯一アサムが負傷した。命に別状はなかっため、ひとまず安心だ。
「兄さん、お前さんの腰にあるものを少し見させてくれんか?」
「ええ、構いませんよ」
ドワーフ達とニオン副長が、なにやら会話している。
どうやら彼等は、副長の刀に興味があるようだ。
副長は愛刀を一人のドワーフに、そっと渡した。
そのドワーフは恐る恐るとした様子で、鞘から刃を抜き取る。
「見たこともない刀剣だ。……刀のような、少しばかり湾曲し切断力に適した形状……鋭い作りにして、各部位が芸術品のような美しさを持っておる。かなり手間暇かけた品だな。……見ていると、心が奪われそうだ」
「大仙の刀剣です。ドワーフであるあなた方でも、見るのは初めてでしょう」
「ああ……。兄さん、こいつはどんな材質なんだ」
「超高純度マガトクロム。不純物がほぼ含まれてないほどの」
「なんだと! わし等ドワーフでもそんな素材作れんぞ」
「お言葉は分かります。我々の現時点での技術力では、とても作れそうにありません。しかし、大仙にはそれほどの技術を持った人物がいるのでしょう」
会話から察するに、鍛冶を生業とするドワーフ達でも副長の刀は理解できない物なのだろう。
その強度や鋭さは凄まじく人体や魔物は言わずもがな、強靭な物質で肉体を構成されている星外魔獣をも紙切れのごとく斬り裂く程らしい。
……ニオン副長自身も愛刀について色々と調べているようだが、話の内容からして今だにその製造法は分かってないようだな。
そして、ナルミとアサムに目を向ける。
「アサム! 大丈夫なの?」
「はい、心配ないです。出血量が多かったですが、ルナさんのおかげでどうにかなりました。まだ無理は、できないですけど……」
「もう! 無理しないでね。アサムは戦闘担当じゃないんだから」
ナルミは泣き出しそうな顔で、横になっているアサムを見つめている。
……迂闊だった。まさか魔物どもが最前線でない集落に転移してくるとは思いもしなかった。
アサムの危機に気付いたベーンと副長が駆け付けたため、事なきを得たが……。
して、そのベーンだが、いま俺の頭の上にいる。
……いるだけなら、いいのだが。
――クチュクチュヌップヌップ
不快な音が聞こえる。
ベーンの奴、ゴブリンの生首で遊んでいるのだ。切断部に指を突っ込んだり、臭いを嗅いだりしてるのだ。人の頭の上で、そんな遊びしないでもらいたい。
内心、「汚ったないから、捨ててきなさい!」と言いたい。
と、その時声が響いた。
「おーい!!」
オボロ隊長の声だ。
恐らく戦闘が終わったのだろう。
そう思いながら、声のしたほうへ体をむける。
……するとなんと、全裸の隊長が必死の形相で、こちらに走ってくるではないか。
しかもその腕には、弟子のロランと勇者一党を抱えていた。
どういう状況なんだ、これは?
「大変なことになるかもしれねぇ!!」
俺の足下にたどり着くなり、隊長はそう叫ぶ。
それに気がついたのか、ニオン副長とナルミもやって来た。
「どうしたのですか、隊長殿?」
「戦いは終わったんだよね?」
慌ただしい様子で、隊長は返答した。
「ああ。……だが、あの糞女ぁ! 死に際に戦略魔術を行使しやがったみてぇなんだ!」
戦略魔術!
一度の使用で都市が壊滅するほどの破壊力を持つ魔術の総称だ。
隊長が説明を続ける。
「ロランと幹部が戦っていた位置の土壌が異常なほど高温になっている。見た具合では即効性の攻撃ではないようだが……」
それを聞いて俺は触角に意識を集中して、その場所を捕捉する。
集落からだいぶ離れている位置、たしかにそこが異常なほどに高温になっている。しかも温度が上がり続けているのが分かる。
そしてついには、土が溶けて真っ赤な流動と成り果てた。まさに溶岩の海である。
その灼熱の輝きが、夜の空間を赤く染め上げていく。
「いったいどうした?」
「なんだありゃ?」
溶岩の輝きに気付いたらしく、住民達も集落の外に出てきた。
そして、徐々に土壌の融解が拡がっていくのが分かる。
「……そう言うことか」
触角で溶け出した位置の周囲を観測することで理解できた。
そして隊長を見下ろして言う。
「隊長、地中に強力な熱源があるようです」
「なんだと!」
「しかも、それを中心に周辺の土壌の温度も上がり続け、土壌の融解範囲も拡がってきてます。……おそらく、このままだと高熱は集落にも到達して、ここは溶岩に飲まれます」
「……くそ! 最後の最後で!」
悔しがるように隊長は声をあらげた。
気持ちは分かる。
全員が命がけで守った集落だ、こんなところまできて……。
「そ、そんな……」
「ここまできて……どうにかならんのか?」
「ここはワシの故郷だぞ! あきらめられるか!」
と、ドワーフ達が騒ぎ立てる。
戦いには勝ったが、こんな結末になるとは最悪だ。
なにか手はないか?
「隊長! 何とかなりませんか?」
「うーん……そうだな。地中にある熱源をどうにかできれば……」
つまり、発熱を続けている地中の熱源を抑えれば、なんとかなると言うことか。
……まてよ! ならあれが使えるか?
おそらく地中にある熱源とて無限に熱を発することはできないだろう。魔術とて万能ではない、ゆえに有限なはずだ。
「隊長、俺に考えがあります。もしかすると、うまくいくかもしれません」
「お前が? ……分かった、頼んだぞ」
隊長の許可を得て、俺は拡大していく溶岩の海に向かって脚を進めた。
熱源から発せられエネルギーを全て、俺の体内に取り込んでしまえば……。
俺はそう考えて、溶岩の中に飛び込んだ。膝の辺りまで沈みこむ。
普通の生命体なら死んでしまう行動だが、核弾頭にも耐える怪獣の肉体ならぬるいものである。
「怪獣が持つ、熱を吸収して生命活動エネルギーに変換する生体機能を利用すれば、地中の熱源から全てのエネルギーを奪えるはずだ」
最大稼動で熱吸収を始めた。
吸い上げた熱は血液を介して、特殊な器官で生命エネルギーに変換されていく。
周囲に視線を向けると、予想どおり土壌の融解の拡大がおさまっていくのが分かった。そして流体化していた土壌も冷えて発光がおさまり固まっていく。
どれだけの熱量を体内に吸収できるかは分からんが、今はそんな容量の限界など考えず地中から熱を奪うことに専念する。
やがて地面が低温となり凍結し始めた。
そして俺は、冷え固まった地面を砕きながら地中からはい出た。
触角に意識を集中して周囲を確認した。
周囲の大気も、かなりの低温になっている。そして地面から発熱の気配も感じられない。
「地中の熱源は完全になくなったようだ。……成功だ」
俺は集落に視線を向けると、成功を告げるように咆哮を鳴り響かせた。
……なぜかその後、妙に空腹間を感じた。
「フ、フゲェ……」
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