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怪物達の秘話
幼き頃
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幼き頃のオボロは、とある国の辺境地にある毛玉人達の小さな集落で暮らしていた。
母親を早くに亡くし、一目置かれる程の冒険者である父親は多忙のため長期間帰らないことが多かった。
そのためオボロはいつも家に一人だった。
しかし、けして寂しい生活ではなかった。
「さあ来い! どうした? びびってんのか?」
集落から少し離れたところに位置する森の中。
子供のオボロは、一匹のグドレオンと言う魔物と対峙していた。
眼球が存在しない獅子のごとき魔物であるが、極めて鋭い聴覚を持っている。そのため、オボロがどの位置にいるかなど手に取るように分かっている。
視力がないためか恐怖心と言うものを持たない獰猛な獅子で、駆け出しの冒険者などでは手に終えないほどの危険な魔物である。
そんな危険な魔物を相手にしているのにも関わらず、オボロは余裕の表情を見せて挑発するのだった。
「グガァゴォォ!!」
知能が低い魔物ゆえに人との言葉など理解できるはずがない。そのため挑発に乗ったわけではないが、狂ったように咆哮を響かせグドレオンはオボロに襲いかかった。
しかし、あろうことかオボロは突進してきた獅子の両アゴを掴み受け止めたのだ。
その衝撃でオボロの足下の地面がズリズリと削れた。
父親の血の影響と日頃から行ってる肉体鍛練の成果であろう。オボロは六歳にして魔物を取り押さえるほどの腕力を持っていたのだ。
「捕まえたぞぉ! そりゃっ!!」
――ベリベリィィィ!!
オボロは力に任せてグドレオンのアゴを真っ二つに引き裂いた。そして、そのまま力を込めて頚椎を捻り折った。
大人の腕力でも、こんなことはできない。
顎を裂かれ、首を砕かれたグドレオンは呻きもせずに事切れた。
オボロはその死体を軽々担ぎ上げると、集落にではなく近くの小さな街に向かって駆け出した。
倒した魔物を街に持っていき、お金に変換してもらうためだ。そして、そのお金でお菓子を購入し集落へと帰る。
それが彼の日常だった。
「ようし、みんな集まれ! お菓子をくばるぜ」
オボロが集落の広場で大きな声をだすと、子供達が彼の元に集まってきた。
多くの子供達と一緒に立ち並ぶと、非常にオボロは目立っていた。体が他の子達に比べ頭一つ分ほど大きいからだ。
そして、小さいその子達に街で買ってきたお菓子を配るのであった。
集落の暮らしも、けして楽ではない。普通なら子供達が菓子を口にするなど難しい話、だが集落の中で唯一魔物を倒すことができるオボロのおかげで子供達はありつくことができるのだ。
「美味しい!」
「甘い!」
「いつもありがとう、オボロ!」
彼が与えてくれるお菓子は、子供達にとって最大の楽しみである。
そのためかオボロは子供達からだけではなく、その力強さと面倒見の良さから集落の大人達からも大きな期待を寄せられていた。
お菓子をほうばる子供達を見て、大人達は畑仕事をしながら微笑む。これが集落のいつもの風景だった。
しかし頻繁に魔物を狩りに行く、オボロを心配する大人もいた。
「オボロ、いつも子供達のために頑張ってくれるのはいいが、あまり危ないことはしちゃだめだぞ」
「大丈夫。オレは森の様子が分かるから。それに、あんまり奥深くまでは行かないよ」
大人の心配とは裏腹に、集落の誰よりもオボロは森や魔物に精通している。
どんな魔物が住み着いているのか、どの程度の相手なら倒せるのか。
その知識も並の冒険者を越えるものだった。そのため絶対に無謀なことはしなかったのだ。
「オボロ、強くて賢いから、無茶しないよ!」
「みんな、オボロのこと良く分かってる!」
集落の子供達も、オボロのことを良く理解していた。見栄をはって無理なことをする少年ではないと。
しかし彼等には、とある願望があったのだ。
「オボロが魔物を倒すところが見たいなぁ」
「きっと、凄く格好いいんだろうな」
「今度、見せてくれないかな?」
子供達はいつもそんなことをもらすが、オボロはそれを断固として承諾しなかった。
「それだけは、ダメだぞ。魔物はとても危険な奴等なんだ。目に入るものには容赦なく襲いかかってくる」
「……でも、一度でも良いから見てみたいよ」
「ダメだ! 危なすぎるんだ。今日だって森の様子が、おかしかったんだから」
「……おかしかった?」
オボロが子供達に厳しく言い聞かせるのは、それだけ魔物が危険だからであり、そして他の子達を危ない目にあわせたくないからである。
それに魔物を倒すところなど、子供が想像しているような伊達なものではない。
実際は血肉が飛び散り、臓物が異臭を放つ惨いものである。人によっては、その惨状を見ただけで悪夢にうなされる者もいると言う。
そしてオボロは話の続きを始めた。
「今日の森には、なにを見ても怖がらない頭の悪い魔物しかいなかった。頭の良い魔物は、みんな隠れたんだ」
「……どうして隠れちゃったの?」
「頭の良い魔物は自分より強い奴がいると怖がって隠れる。だから今、森の深くないところにとんでもなく強い魔物がいると思うんだ」
今日オボロが森に行ったときは、知能の低い狂暴すぎる魔物しかいなかった。
つまり賢い魔物を見かけないと言うことは、彼等が身を隠すほどの魔物が近辺に潜伏している可能性があるのだ。
その場合、オボロは浅い位置までしか行かないようにしている。
「そいつのせいだと、思うけど。街に行ったとき三人の冒険者が運び込まれるところを見たんだ。身体中が穴だらけで、腹の中を空っぽにされていた」
オボロは、その無惨な死体を鮮明に記憶していた。
街で菓子を購入し、集落の帰路につこうとしたとき、変わり果てた冒険者達が荷車で運び込まれるところを。
身体中を針でメッタ刺しにされたかのように穴だらけで、内臓を食われていたのだ。
その時、オボロは近くの人々の話声を聞いた。運ばれてきた冒険者達の遺体は、森のやや奥の方で発見されたと……。
その話をしたとたん、周囲の子供達の表情が凍りつく。
「お菓子なら、いつでも食わしてやるから、魔物を倒すところを見たいなんか言わないでくれ。なっ!」
「……ごめんね」
「分かりゃ、いいんだよ!」
オボロは、みんなを納得させると彼等の頭を撫で回した。
しかし、そんなオボロに嫉妬心をいだく存在もあった。
オボロが子供達に菓子を渡す様子を物陰から、眺めるツキノワグマの少年がいた。
ふとオボロと、その少年の目が合った。
「おーい! ニコ、そんなところで何してんだ? 一緒にお菓子食おうぜ!」
オボロのその言葉に、ニコと呼ばれた少年は驚いたのかビクンと体を震えさせた。
「ニコちゃんもおいでよ!」
「お菓子、美味しいよ!」
オボロが大声で少年を呼んだため、他の子供達もニコの存在に気づき、自分達のところに来るように促した。
「い、いらないよぉ!!」
ニコは物陰に隠れながら叫ぶ。
彼は集落の長の息子で、オボロとは正反対に背丈が小さく、毛玉人から見れば中性的な見た目をしている。
そのため女の子達からは王子様とか、最悪の場合は姫などと呼ばれることもあるのだ。
しかし、それらの発言は少年の自尊心を痛めつけていた。
自分は男である、男子なら強く不屈の精神を持つのが美徳。しかし、浴びせられる言葉はどれも女の子に言うものだった。
「キレイ」
「可愛い」
「ちっこい」
などなど、どれを言われてもニコにとっては嬉しいものではなかった。
そして彼は、オボロにいつも嫉妬心を持っていた。自分にはない屈強な肉体、そして他の子供達が慕うほどの人格。
それらを併せ持つオボロを羨ましく思っていたのだ。
「オボロ! 今日の昼も、その広場で待ってるからな! 逃げるなよ!」
ニコは、そう叫ぶと立ち去っていった。
彼は毎日オボロに、決闘を仕掛けている。しかし、一度も勝てたことはなかった。
母親を早くに亡くし、一目置かれる程の冒険者である父親は多忙のため長期間帰らないことが多かった。
そのためオボロはいつも家に一人だった。
しかし、けして寂しい生活ではなかった。
「さあ来い! どうした? びびってんのか?」
集落から少し離れたところに位置する森の中。
子供のオボロは、一匹のグドレオンと言う魔物と対峙していた。
眼球が存在しない獅子のごとき魔物であるが、極めて鋭い聴覚を持っている。そのため、オボロがどの位置にいるかなど手に取るように分かっている。
視力がないためか恐怖心と言うものを持たない獰猛な獅子で、駆け出しの冒険者などでは手に終えないほどの危険な魔物である。
そんな危険な魔物を相手にしているのにも関わらず、オボロは余裕の表情を見せて挑発するのだった。
「グガァゴォォ!!」
知能が低い魔物ゆえに人との言葉など理解できるはずがない。そのため挑発に乗ったわけではないが、狂ったように咆哮を響かせグドレオンはオボロに襲いかかった。
しかし、あろうことかオボロは突進してきた獅子の両アゴを掴み受け止めたのだ。
その衝撃でオボロの足下の地面がズリズリと削れた。
父親の血の影響と日頃から行ってる肉体鍛練の成果であろう。オボロは六歳にして魔物を取り押さえるほどの腕力を持っていたのだ。
「捕まえたぞぉ! そりゃっ!!」
――ベリベリィィィ!!
オボロは力に任せてグドレオンのアゴを真っ二つに引き裂いた。そして、そのまま力を込めて頚椎を捻り折った。
大人の腕力でも、こんなことはできない。
顎を裂かれ、首を砕かれたグドレオンは呻きもせずに事切れた。
オボロはその死体を軽々担ぎ上げると、集落にではなく近くの小さな街に向かって駆け出した。
倒した魔物を街に持っていき、お金に変換してもらうためだ。そして、そのお金でお菓子を購入し集落へと帰る。
それが彼の日常だった。
「ようし、みんな集まれ! お菓子をくばるぜ」
オボロが集落の広場で大きな声をだすと、子供達が彼の元に集まってきた。
多くの子供達と一緒に立ち並ぶと、非常にオボロは目立っていた。体が他の子達に比べ頭一つ分ほど大きいからだ。
そして、小さいその子達に街で買ってきたお菓子を配るのであった。
集落の暮らしも、けして楽ではない。普通なら子供達が菓子を口にするなど難しい話、だが集落の中で唯一魔物を倒すことができるオボロのおかげで子供達はありつくことができるのだ。
「美味しい!」
「甘い!」
「いつもありがとう、オボロ!」
彼が与えてくれるお菓子は、子供達にとって最大の楽しみである。
そのためかオボロは子供達からだけではなく、その力強さと面倒見の良さから集落の大人達からも大きな期待を寄せられていた。
お菓子をほうばる子供達を見て、大人達は畑仕事をしながら微笑む。これが集落のいつもの風景だった。
しかし頻繁に魔物を狩りに行く、オボロを心配する大人もいた。
「オボロ、いつも子供達のために頑張ってくれるのはいいが、あまり危ないことはしちゃだめだぞ」
「大丈夫。オレは森の様子が分かるから。それに、あんまり奥深くまでは行かないよ」
大人の心配とは裏腹に、集落の誰よりもオボロは森や魔物に精通している。
どんな魔物が住み着いているのか、どの程度の相手なら倒せるのか。
その知識も並の冒険者を越えるものだった。そのため絶対に無謀なことはしなかったのだ。
「オボロ、強くて賢いから、無茶しないよ!」
「みんな、オボロのこと良く分かってる!」
集落の子供達も、オボロのことを良く理解していた。見栄をはって無理なことをする少年ではないと。
しかし彼等には、とある願望があったのだ。
「オボロが魔物を倒すところが見たいなぁ」
「きっと、凄く格好いいんだろうな」
「今度、見せてくれないかな?」
子供達はいつもそんなことをもらすが、オボロはそれを断固として承諾しなかった。
「それだけは、ダメだぞ。魔物はとても危険な奴等なんだ。目に入るものには容赦なく襲いかかってくる」
「……でも、一度でも良いから見てみたいよ」
「ダメだ! 危なすぎるんだ。今日だって森の様子が、おかしかったんだから」
「……おかしかった?」
オボロが子供達に厳しく言い聞かせるのは、それだけ魔物が危険だからであり、そして他の子達を危ない目にあわせたくないからである。
それに魔物を倒すところなど、子供が想像しているような伊達なものではない。
実際は血肉が飛び散り、臓物が異臭を放つ惨いものである。人によっては、その惨状を見ただけで悪夢にうなされる者もいると言う。
そしてオボロは話の続きを始めた。
「今日の森には、なにを見ても怖がらない頭の悪い魔物しかいなかった。頭の良い魔物は、みんな隠れたんだ」
「……どうして隠れちゃったの?」
「頭の良い魔物は自分より強い奴がいると怖がって隠れる。だから今、森の深くないところにとんでもなく強い魔物がいると思うんだ」
今日オボロが森に行ったときは、知能の低い狂暴すぎる魔物しかいなかった。
つまり賢い魔物を見かけないと言うことは、彼等が身を隠すほどの魔物が近辺に潜伏している可能性があるのだ。
その場合、オボロは浅い位置までしか行かないようにしている。
「そいつのせいだと、思うけど。街に行ったとき三人の冒険者が運び込まれるところを見たんだ。身体中が穴だらけで、腹の中を空っぽにされていた」
オボロは、その無惨な死体を鮮明に記憶していた。
街で菓子を購入し、集落の帰路につこうとしたとき、変わり果てた冒険者達が荷車で運び込まれるところを。
身体中を針でメッタ刺しにされたかのように穴だらけで、内臓を食われていたのだ。
その時、オボロは近くの人々の話声を聞いた。運ばれてきた冒険者達の遺体は、森のやや奥の方で発見されたと……。
その話をしたとたん、周囲の子供達の表情が凍りつく。
「お菓子なら、いつでも食わしてやるから、魔物を倒すところを見たいなんか言わないでくれ。なっ!」
「……ごめんね」
「分かりゃ、いいんだよ!」
オボロは、みんなを納得させると彼等の頭を撫で回した。
しかし、そんなオボロに嫉妬心をいだく存在もあった。
オボロが子供達に菓子を渡す様子を物陰から、眺めるツキノワグマの少年がいた。
ふとオボロと、その少年の目が合った。
「おーい! ニコ、そんなところで何してんだ? 一緒にお菓子食おうぜ!」
オボロのその言葉に、ニコと呼ばれた少年は驚いたのかビクンと体を震えさせた。
「ニコちゃんもおいでよ!」
「お菓子、美味しいよ!」
オボロが大声で少年を呼んだため、他の子供達もニコの存在に気づき、自分達のところに来るように促した。
「い、いらないよぉ!!」
ニコは物陰に隠れながら叫ぶ。
彼は集落の長の息子で、オボロとは正反対に背丈が小さく、毛玉人から見れば中性的な見た目をしている。
そのため女の子達からは王子様とか、最悪の場合は姫などと呼ばれることもあるのだ。
しかし、それらの発言は少年の自尊心を痛めつけていた。
自分は男である、男子なら強く不屈の精神を持つのが美徳。しかし、浴びせられる言葉はどれも女の子に言うものだった。
「キレイ」
「可愛い」
「ちっこい」
などなど、どれを言われてもニコにとっては嬉しいものではなかった。
そして彼は、オボロにいつも嫉妬心を持っていた。自分にはない屈強な肉体、そして他の子供達が慕うほどの人格。
それらを併せ持つオボロを羨ましく思っていたのだ。
「オボロ! 今日の昼も、その広場で待ってるからな! 逃げるなよ!」
ニコは、そう叫ぶと立ち去っていった。
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