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甘い時間は永遠に1
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「ロイはいらっしゃる? 」
懐かしい高級娼館ローレンスの応接室。
この場所こそが、マチルダの運命を変えた場所だ。
ローレンスの主人と勘違いされているのをわかっていながら、ロイはマチルダの依頼に乗っかり、関係を繋いだ。
ロイがすやすやと寝息を立てていたソファを眺めながら、マチルダはついここ一年ばかりの怒涛の日々を思い起こしていた。
「やあ、奥さん」
ローレンスの主人ミハエルは、相変わらずぬいぐるみのクマのような愛らしい笑顔でマチルダを迎えた。
「ロイなら今、手洗いに」
「もう! こんなときに! 」
早くロイに会いたくて仕方ないのに。
同じ屋根の下に住んでいるのだから、後、三時間ばかり辛抱すれば良いだけのことだが。
それでも、マチルダは待ち切れなかったのだ。
「どうしたんだ、奥さん? 今日は随分と焦って」
ロイが金曜日の午後にローレンスを訪ねて、外国産の清酒で乾杯し合うのは、最早、決まりごととすらなっている。
男同士、妻の惚気と愚痴を交わす、その砕けた時間を細君らは尊重してくれていたが。
「何か良くないことでもありましたか? 」
不意打ちの来訪は、只事ではない。
「逆よ」
マチルダは静かに首を振った。
「果てしなく良いことがあったのよ」
ここ一年のうちに氷のようにツンケンした結界は薄れて、マチルダは誰しもが見惚れる柔らかさを手に入れた。
氷の悪女だの、悪役令嬢だの、男を手酷く振る女だの、悪い噂はすでに過去のこと。
社交界に出れば、たちまち男共が羽蟻のように群がっては、自分達をアピールするのに躍起になる。時には殴り合いの喧嘩にまで。
すでに彼女には、独占する男がいるとわかっていながら。
そんなわけで、ロイの独占欲はますます強くなり、スマートな恋愛を楽しんでいた放蕩者を別人に変えてしまった。
「マチルダ! 」
応接室のドアを開けた途端、ロイは素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたんだ? こんな場所に来て? 」
ロイも、ミハエルと同様のことを思ったらしい。
「こんな場所で悪かったな。文句があるなら帰れ」
ミハエルは不服そうに横入り。
「ちょっと黙ってろ。ぬいぐるみ」
いらいらとミハエルに目線を送ったロイは、マチルダに向き直ったときはもう不安で眉を下げている。
「確か今日はドレスの採寸で、バリー夫人の店に行ったんだよな」
朝、出かけの一言はちゃんと覚えている。
「何だって、こんな場所にいるんだ?」
ロイは顔を強張らせるや、何かを思いついたのか、その目がこれでもかと見開いた。
「まさか」
彼の声が引き攣った。
懐かしい高級娼館ローレンスの応接室。
この場所こそが、マチルダの運命を変えた場所だ。
ローレンスの主人と勘違いされているのをわかっていながら、ロイはマチルダの依頼に乗っかり、関係を繋いだ。
ロイがすやすやと寝息を立てていたソファを眺めながら、マチルダはついここ一年ばかりの怒涛の日々を思い起こしていた。
「やあ、奥さん」
ローレンスの主人ミハエルは、相変わらずぬいぐるみのクマのような愛らしい笑顔でマチルダを迎えた。
「ロイなら今、手洗いに」
「もう! こんなときに! 」
早くロイに会いたくて仕方ないのに。
同じ屋根の下に住んでいるのだから、後、三時間ばかり辛抱すれば良いだけのことだが。
それでも、マチルダは待ち切れなかったのだ。
「どうしたんだ、奥さん? 今日は随分と焦って」
ロイが金曜日の午後にローレンスを訪ねて、外国産の清酒で乾杯し合うのは、最早、決まりごととすらなっている。
男同士、妻の惚気と愚痴を交わす、その砕けた時間を細君らは尊重してくれていたが。
「何か良くないことでもありましたか? 」
不意打ちの来訪は、只事ではない。
「逆よ」
マチルダは静かに首を振った。
「果てしなく良いことがあったのよ」
ここ一年のうちに氷のようにツンケンした結界は薄れて、マチルダは誰しもが見惚れる柔らかさを手に入れた。
氷の悪女だの、悪役令嬢だの、男を手酷く振る女だの、悪い噂はすでに過去のこと。
社交界に出れば、たちまち男共が羽蟻のように群がっては、自分達をアピールするのに躍起になる。時には殴り合いの喧嘩にまで。
すでに彼女には、独占する男がいるとわかっていながら。
そんなわけで、ロイの独占欲はますます強くなり、スマートな恋愛を楽しんでいた放蕩者を別人に変えてしまった。
「マチルダ! 」
応接室のドアを開けた途端、ロイは素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたんだ? こんな場所に来て? 」
ロイも、ミハエルと同様のことを思ったらしい。
「こんな場所で悪かったな。文句があるなら帰れ」
ミハエルは不服そうに横入り。
「ちょっと黙ってろ。ぬいぐるみ」
いらいらとミハエルに目線を送ったロイは、マチルダに向き直ったときはもう不安で眉を下げている。
「確か今日はドレスの採寸で、バリー夫人の店に行ったんだよな」
朝、出かけの一言はちゃんと覚えている。
「何だって、こんな場所にいるんだ?」
ロイは顔を強張らせるや、何かを思いついたのか、その目がこれでもかと見開いた。
「まさか」
彼の声が引き攣った。
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