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湖畔にて
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湖畔で甘ったるい雰囲気を醸し出していた両親が忽然と消えている。
ティーテーブルも、セットの椅子も。
馬車すら、跡形もない。
「あの二人がいないわ」
ロイとの話に夢中になる余り、馬のいななきすら耳に入ってこなかった。
ロイは白樺の木に凭れて、面倒臭そうに欠伸をした。
「ああ、先程帰って行った」
「私を置いて? 」
「君は私が連れて帰る。最初からその手筈だ」
「さ、最初から? 」
つまり、仕組まれていた?
ロイと素敵な夜を過ごすために?
マチルダのヒステリックは、男達を畏怖させる。少しでも彼女の可愛らしいところを見せておこうとする魂胆か。
湖畔で再会するといったロマンチックな演出は、あの母が好みそうなもの。
新婚夫婦の距離が一層深まるなら、手間を厭わない二人だ。特に、見返りの大きさにほくそ笑んでいる父は。
まんまと両親にしてやられた。
ロイは欠伸を噛み殺すと、ニヤニヤと意地悪い笑みをマチルダに寄越す。
「君、案外、来年あたりに弟か妹が出来るんじゃないか? 」
ロイは今しがたの両親を、しっかりと目撃していた。
「卑猥なこと言わないで。あなたじゃあるまいし」
「いやいや。あのお父上は、どうやら私と同類……痛っ! だから急に殴るな! 」
「両親を侮辱しないで! 」
マチルダは憤慨し、ロイの脇に肘鉄をくらわせる。
「わかった、わかった。もうこの話は仕舞いだ」
マチルダがヒステリーを起こし始めたため、ロイは早々に幕引きを図った。
マチルダがロイの扱い方法を呑み込むように、彼もまたマチルダの扱い方を心得ている。
マチルダの喉がひくりと動いた。
ロイの手が宙空を彷徨ったかと思えば、マチルダの豊かな胸をいきなり揉んだからだ。その意図は見え見えだ。
「ま、まさか。こんな場所で? 」
「当然」
「外よ」
「そんなこと、バカでもわかる」
偉そうに応えたかと思えば、その指は虫のようにマチルダの皮膚を這い回し始めた。
「嫌よ! 不健全だわ! 」
白樺に囲われた湖は、春は雄鳥が雌を呼ぶために美しい鳴き声を奏で、夏になれば青々した葉が繁って大地の生命力を見せつけ、秋はしっとりと赤く色づき安らぎを与える。冬になれば白鳥が飛来して湖畔一面が真っ白に染まる。さすが国王の所有物として王鳥扱いとなるだけあって、その群勢は圧巻すらある。
そのような湖畔で、ロイは今まさに、絶佳を踏みにじろうとしている。
「アークライトのムッツリは結婚してすぐだったし、ジョナサンも最近、仮面舞踏会の最中に噴水前で致したらしいぞ。ローレンスの話はいつも耳を塞いでいるから聞いていない」
「だから、いちいちそんなつまらないことで張り合わないで! 」
「つまらないとは何だ。私の威厳を保つ大事なことだ」
「それがつまらないと言うのよ」
マチルダは白い目を向けた。
それでも、ロイの淫猥な指遣いは止まない。
マチルダは真正面の厚い胸板を両手で押し退ける。
「ま、待って。もし子供が出来たら」
「何だ、今更か? ついこの間は」
「とにかく、駄目なものは駄目なの! 」
「何か問題か? 」
「あなたのご親戚が許さないでしょ」
「何故だ? 」
「だ、だって。私は貧乏子爵家出身よ」
幾ら世の中の身分差が気にならなくなり始めたと言えど、上級に位置するブライス家がすぐさまそうなるとは思えない。
現にロイは、親戚のお年寄りらを説得するのに時間を掛けていると匂わせた。一旦は反発を抑え込んだらしいが、彼らがそう易々と納得するとは思えない。
古い慣習は、なかなか打ち破ることが難しい。
ティーテーブルも、セットの椅子も。
馬車すら、跡形もない。
「あの二人がいないわ」
ロイとの話に夢中になる余り、馬のいななきすら耳に入ってこなかった。
ロイは白樺の木に凭れて、面倒臭そうに欠伸をした。
「ああ、先程帰って行った」
「私を置いて? 」
「君は私が連れて帰る。最初からその手筈だ」
「さ、最初から? 」
つまり、仕組まれていた?
ロイと素敵な夜を過ごすために?
マチルダのヒステリックは、男達を畏怖させる。少しでも彼女の可愛らしいところを見せておこうとする魂胆か。
湖畔で再会するといったロマンチックな演出は、あの母が好みそうなもの。
新婚夫婦の距離が一層深まるなら、手間を厭わない二人だ。特に、見返りの大きさにほくそ笑んでいる父は。
まんまと両親にしてやられた。
ロイは欠伸を噛み殺すと、ニヤニヤと意地悪い笑みをマチルダに寄越す。
「君、案外、来年あたりに弟か妹が出来るんじゃないか? 」
ロイは今しがたの両親を、しっかりと目撃していた。
「卑猥なこと言わないで。あなたじゃあるまいし」
「いやいや。あのお父上は、どうやら私と同類……痛っ! だから急に殴るな! 」
「両親を侮辱しないで! 」
マチルダは憤慨し、ロイの脇に肘鉄をくらわせる。
「わかった、わかった。もうこの話は仕舞いだ」
マチルダがヒステリーを起こし始めたため、ロイは早々に幕引きを図った。
マチルダがロイの扱い方法を呑み込むように、彼もまたマチルダの扱い方を心得ている。
マチルダの喉がひくりと動いた。
ロイの手が宙空を彷徨ったかと思えば、マチルダの豊かな胸をいきなり揉んだからだ。その意図は見え見えだ。
「ま、まさか。こんな場所で? 」
「当然」
「外よ」
「そんなこと、バカでもわかる」
偉そうに応えたかと思えば、その指は虫のようにマチルダの皮膚を這い回し始めた。
「嫌よ! 不健全だわ! 」
白樺に囲われた湖は、春は雄鳥が雌を呼ぶために美しい鳴き声を奏で、夏になれば青々した葉が繁って大地の生命力を見せつけ、秋はしっとりと赤く色づき安らぎを与える。冬になれば白鳥が飛来して湖畔一面が真っ白に染まる。さすが国王の所有物として王鳥扱いとなるだけあって、その群勢は圧巻すらある。
そのような湖畔で、ロイは今まさに、絶佳を踏みにじろうとしている。
「アークライトのムッツリは結婚してすぐだったし、ジョナサンも最近、仮面舞踏会の最中に噴水前で致したらしいぞ。ローレンスの話はいつも耳を塞いでいるから聞いていない」
「だから、いちいちそんなつまらないことで張り合わないで! 」
「つまらないとは何だ。私の威厳を保つ大事なことだ」
「それがつまらないと言うのよ」
マチルダは白い目を向けた。
それでも、ロイの淫猥な指遣いは止まない。
マチルダは真正面の厚い胸板を両手で押し退ける。
「ま、待って。もし子供が出来たら」
「何だ、今更か? ついこの間は」
「とにかく、駄目なものは駄目なの! 」
「何か問題か? 」
「あなたのご親戚が許さないでしょ」
「何故だ? 」
「だ、だって。私は貧乏子爵家出身よ」
幾ら世の中の身分差が気にならなくなり始めたと言えど、上級に位置するブライス家がすぐさまそうなるとは思えない。
現にロイは、親戚のお年寄りらを説得するのに時間を掛けていると匂わせた。一旦は反発を抑え込んだらしいが、彼らがそう易々と納得するとは思えない。
古い慣習は、なかなか打ち破ることが難しい。
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