【完結】華麗なるマチルダの密約

氷 豹人

文字の大きさ
68 / 114

湖畔にて

しおりを挟む
 湖畔で甘ったるい雰囲気を醸し出していた両親が忽然と消えている。
 ティーテーブルも、セットの椅子も。
 馬車すら、跡形もない。 
「あの二人がいないわ」
 ロイとの話に夢中になる余り、馬のいななきすら耳に入ってこなかった。
 ロイは白樺の木に凭れて、面倒臭そうに欠伸をした。
「ああ、先程帰って行った」
「私を置いて? 」
「君は私が連れて帰る。最初からその手筈だ」
「さ、最初から? 」
 つまり、仕組まれていた? 
 ロイと素敵な夜を過ごすために?
 マチルダのヒステリックは、男達を畏怖させる。少しでも彼女の可愛らしいところを見せておこうとする魂胆か。
 湖畔で再会するといったロマンチックな演出は、あの母が好みそうなもの。
 新婚夫婦の距離が一層深まるなら、手間を厭わない二人だ。特に、見返りの大きさにほくそ笑んでいる父は。
 まんまと両親にしてやられた。
 ロイは欠伸を噛み殺すと、ニヤニヤと意地悪い笑みをマチルダに寄越す。
「君、案外、来年あたりに弟か妹が出来るんじゃないか? 」
 ロイは今しがたの両親を、しっかりと目撃していた。
「卑猥なこと言わないで。あなたじゃあるまいし」
「いやいや。あのお父上は、どうやら私と同類……痛っ! だから急に殴るな! 」
「両親を侮辱しないで! 」
 マチルダは憤慨し、ロイの脇に肘鉄をくらわせる。
「わかった、わかった。もうこの話は仕舞いだ」
 マチルダがヒステリーを起こし始めたため、ロイは早々に幕引きを図った。
 マチルダがロイの扱い方法を呑み込むように、彼もまたマチルダの扱い方を心得ている。


 マチルダの喉がひくりと動いた。
 ロイの手が宙空を彷徨ったかと思えば、マチルダの豊かな胸をいきなり揉んだからだ。その意図は見え見えだ。
「ま、まさか。こんな場所で? 」
「当然」
「外よ」
「そんなこと、バカでもわかる」
 偉そうに応えたかと思えば、その指は虫のようにマチルダの皮膚を這い回し始めた。
「嫌よ! 不健全だわ! 」
 白樺に囲われた湖は、春は雄鳥が雌を呼ぶために美しい鳴き声を奏で、夏になれば青々した葉が繁って大地の生命力を見せつけ、秋はしっとりと赤く色づき安らぎを与える。冬になれば白鳥が飛来して湖畔一面が真っ白に染まる。さすが国王の所有物として王鳥扱いとなるだけあって、その群勢は圧巻すらある。
 そのような湖畔で、ロイは今まさに、絶佳を踏みにじろうとしている。
「アークライトのムッツリは結婚してすぐだったし、ジョナサンも最近、仮面舞踏会の最中に噴水前で致したらしいぞ。ローレンスの話はいつも耳を塞いでいるから聞いていない」
「だから、いちいちそんなつまらないことで張り合わないで! 」
「つまらないとは何だ。私の威厳を保つ大事なことだ」
「それがつまらないと言うのよ」
 マチルダは白い目を向けた。
 それでも、ロイの淫猥な指遣いは止まない。
 マチルダは真正面の厚い胸板を両手で押し退ける。
「ま、待って。もし子供が出来たら」
「何だ、今更か? ついこの間は」
「とにかく、駄目なものは駄目なの! 」
「何か問題か? 」
「あなたのご親戚が許さないでしょ」
「何故だ? 」
「だ、だって。私は貧乏子爵家出身よ」
 幾ら世の中の身分差が気にならなくなり始めたと言えど、上級に位置するブライス家がすぐさまそうなるとは思えない。
 現にロイは、親戚のお年寄りらを説得するのに時間を掛けていると匂わせた。一旦は反発を抑え込んだらしいが、彼らがそう易々と納得するとは思えない。
 古い慣習は、なかなか打ち破ることが難しい。






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...