寡黙な消防士でも恋はする

晴 菜葉

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続編 愛くらい語らせろ

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「ああ。やっと話す気になったか」
 どこからか低い声が流れている。まるでBGMのように耳にすんなり入ってくる。
「で、待ち合わせは?」
 日浦の声?
「ああ。時間は」
 いつになく真剣味を帯びている。
 幾つかの相槌の後、日浦は電話を終えた。
 俺はとっくに目を覚ましていたが、状況把握のために薄目でぐるりと室内を見渡す。
 乳白色の壁紙には蔓草の箔押しがなされ、一枚硝子の大きな窓からは、日が暮れてビルやネオンの灯りが広がっている。眼前にはオレンジに輝く電波塔。まるで一枚の絵画を見ているようだ。
 天井から下がるフレンチ・ロココ製のスワロフスキーのシャンデリアにも淡い光が灯り、壁に薄い影を映し出す。
 クイーンサイズのベッドは男二人が並んでもかなり余裕のあるフランス製で、サイドテーブルや書斎机など、同系の設えだ。どれもマホガニーの上質な代物で、蔓草の模様が彫られている。
 ちなみに何で俺がこれほど詳しいかというと、別れた妻から嫌ってくらい学習させられたからだ。
 やけに見てくれに拘る女だった。
 今となっては、幾ら頭に詰め込んだところで、日常生活を送るには全く生かされていない知識だが。
 俺の真横で上半身を起こし、何やら黙々とスマホをいじっている日浦だったか、いきなり片手をにゅっと伸ばしたかと思えば、がしがしと俺の髪を掻き回した。
「体、平気?」
 起きてるの、わかってたのかよ。
「当たり前だろ」
 聞いてもいないのに、俺の心を読んで答えるな。
 照れ臭くて背を向ければ、くっくっと喉奥で笑われる。
 甘ったるい雰囲気。
 やめだ、やめだ!
 らしくない。
 俺と日浦だぞ。
 こんなん胸焼けしちまう。
 ガシガシと髪を掻き乱すと、日浦に背を向けたまま、ベッドから起きて床に足裏をつけた姿勢になる。
 すかさず背筋を指で辿られ、ぞぞっと震えが走った。
「十分でシャワーを浴びて着替えろ」
 いきなり命令かよ。
「十分後、刈谷が最上階のバーに来る」
「刈谷が?」
 日浦に捩じ伏せられ、顔を真っ赤にしていた姿が過る。
 もしや、また、美希に不埒なことを働いたんじゃあるまいな。
 あいつ。性懲りもなく。
 拳を震わせる俺を横目に、日浦はわざとらしい大きな溜め息を吐いた。
「勝手に想像を進めるな」
 痛っ。何も頭を小突くことないだろ。
「そういうわけだ。早く用意しろよ」
 偉そうに。自分だってまだ素っ裸じゃないか。
 いや、よく見ると前髪が湿っている。とっくにシャワーを浴びて、髪が乾ききっていないんだ。
 こいつ、俺が気を失っている間に。
 半歩リードした日浦に対し、奥歯を噛んでいるうちに、向こうはすでにシャツに袖を通し、三つ目のボタンをはめているところだった。
 やばい!遅れを取った!
 こうしちゃいられない。俺はベッドから一足飛びで離れると、浴室に駆け込んだ。
 
 
 
 
 
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