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続編 愛くらい語らせろ
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湾岸線に出て、海沿いの道をレンタカーで走らせる。
高校の頃はバカやって、先輩と悪友のマサシと三人で、走り屋の挑発に乗って盛大に事故したな。
丁度、ガードレールにぶつけた地点を通り過ぎる。
カーブに差し掛かるってのに、何てスピード出してたんだか。
大事故を起こして、大怪我。よく生きてたよな。
あのとき日浦に出会っていなければ、俺、どんな人生を歩んでたんだろ。
あの事故以来、先輩ともマサシとも音信が途絶えた。あいつら今頃、どこで何してるやら。
「堂島さん。気をつけて下さいよ」
感傷に浸らせろよ。
助手席からいらいら割って入った声に、遠慮なく舌打ちで返してやる。
笠置はムスッと不機嫌そうなまま、窓の景色を眺めてこっちに目を合わせようともしない。
「せっかくの日曜休みなのにな」
ぼそっと呟いたつもりだろうが、不満丸出しが伝わってくるぞ。
「皆んな、デートだの家族サービスだので忙しくて」
悪かったな、暇で。
つーか、お前もデートすりゃいいじゃねえか。
よりにもよって、何だってこんな年上の無口な同僚を誘うかな。
昨夜遅く、丁度日にちが変わる時間帯に笠置からスマホにメッセージが届いた。
隣県に新しく出来た水族館に行きませんか?だと。こいつから遊びに誘ってくるとは、どんな天変地異が起こるんだと身構えたものの、その文章の裏に何やら禍々しさを感じて誘いに乗ってやった。
いつもアホみたいに底抜けに明るい笠置が、今日はやけに鬱々して仏頂面だ。
思い当たる節はある。
休みに入る直前の朝、便所で橋本と何やら揉めていた。何を女相手に色目使てんねんだの、人のこと言えないだろだの、やかましく。場所を考えろってんだ。お陰で階下の便所まで走ったぞ。
「この先で降りますよ」
笠置は指をさす。
ウィンカーを出し、ハンドルを捻る。
「もうちょっと、穏やかに運転出来ないかなあ」
うるさいぞ。誰と比べてやがる。
橋本と唯ならぬ仲だとはうちの班の連中は薄々勘付いてはいる。むしろ、橋本の独占欲に満ちた態度に気づかない方がおかしい。ちょっと笠置と世間話しようものなら、ギロリと垂れ目を吊り上げ、不気味なニタニタ笑いで会話に入ってくるんだよ。何で当の笠置は気づかないかな。
信号が赤になり、こっそり笠置を睨む。
一般道は、左右にチェーン店が連なる二車線だ。
施設案内標識に水族館が記され、後三キロだ。
日曜日だから、かなり混んでるんだろうな。なんて呑気に考えていたら、真横で溜め息。何度目だよ、もう。
「堂島さん。別れた奥さんや娘さんのこと、思い出したりします?」
いきなり答えにくい質問してくるなよ。適当に誤魔化そうにも、くりくりした瞳は瞬き一つせず、一直線の視線となって差してくる。
「奥さんはともかく。娘は思い出すよ」
思春期になった娘に、日浦のことをどう説明しようか、とか。まだ四つにもならない幼児だから、まだまだ先の話だけど。
「今付き合ってる人から嫉妬されるの、鬱陶しくありません?」
日浦は嫉妬深いやつだと判明したが、鬱陶しくはないな。むしろ、ちょっとした優越感?市局で一、二を争う優男を独り占めしてるっていう。
「あ、モテないから付き合ってる相手、いないのか」
おい、コラ。
「その歯形、やっぱり風俗で、ですか?」
やかましいわ。俺に恋人がいない前提で話を進めるな。
って言うか、やっぱり隠せてないのかよ。箪笥の奥底から黒のオックスフォードシャツを引っ張り出してきて、襟付きだからまあ大丈夫かと思ったんだが。
「堂島さん。顔に似合わずなかなか激しいんですね」
だから、いちいち一言余計なんだよ。悪気がないから尚更悪い。橋本、ちゃんと躾しろよ。
垂れ目をますます垂れ下げて口元ニタニタの橋本のしまりない顔が脳裏を過り、俺は三回連続で舌打ちしてしまった。
高校の頃はバカやって、先輩と悪友のマサシと三人で、走り屋の挑発に乗って盛大に事故したな。
丁度、ガードレールにぶつけた地点を通り過ぎる。
カーブに差し掛かるってのに、何てスピード出してたんだか。
大事故を起こして、大怪我。よく生きてたよな。
あのとき日浦に出会っていなければ、俺、どんな人生を歩んでたんだろ。
あの事故以来、先輩ともマサシとも音信が途絶えた。あいつら今頃、どこで何してるやら。
「堂島さん。気をつけて下さいよ」
感傷に浸らせろよ。
助手席からいらいら割って入った声に、遠慮なく舌打ちで返してやる。
笠置はムスッと不機嫌そうなまま、窓の景色を眺めてこっちに目を合わせようともしない。
「せっかくの日曜休みなのにな」
ぼそっと呟いたつもりだろうが、不満丸出しが伝わってくるぞ。
「皆んな、デートだの家族サービスだので忙しくて」
悪かったな、暇で。
つーか、お前もデートすりゃいいじゃねえか。
よりにもよって、何だってこんな年上の無口な同僚を誘うかな。
昨夜遅く、丁度日にちが変わる時間帯に笠置からスマホにメッセージが届いた。
隣県に新しく出来た水族館に行きませんか?だと。こいつから遊びに誘ってくるとは、どんな天変地異が起こるんだと身構えたものの、その文章の裏に何やら禍々しさを感じて誘いに乗ってやった。
いつもアホみたいに底抜けに明るい笠置が、今日はやけに鬱々して仏頂面だ。
思い当たる節はある。
休みに入る直前の朝、便所で橋本と何やら揉めていた。何を女相手に色目使てんねんだの、人のこと言えないだろだの、やかましく。場所を考えろってんだ。お陰で階下の便所まで走ったぞ。
「この先で降りますよ」
笠置は指をさす。
ウィンカーを出し、ハンドルを捻る。
「もうちょっと、穏やかに運転出来ないかなあ」
うるさいぞ。誰と比べてやがる。
橋本と唯ならぬ仲だとはうちの班の連中は薄々勘付いてはいる。むしろ、橋本の独占欲に満ちた態度に気づかない方がおかしい。ちょっと笠置と世間話しようものなら、ギロリと垂れ目を吊り上げ、不気味なニタニタ笑いで会話に入ってくるんだよ。何で当の笠置は気づかないかな。
信号が赤になり、こっそり笠置を睨む。
一般道は、左右にチェーン店が連なる二車線だ。
施設案内標識に水族館が記され、後三キロだ。
日曜日だから、かなり混んでるんだろうな。なんて呑気に考えていたら、真横で溜め息。何度目だよ、もう。
「堂島さん。別れた奥さんや娘さんのこと、思い出したりします?」
いきなり答えにくい質問してくるなよ。適当に誤魔化そうにも、くりくりした瞳は瞬き一つせず、一直線の視線となって差してくる。
「奥さんはともかく。娘は思い出すよ」
思春期になった娘に、日浦のことをどう説明しようか、とか。まだ四つにもならない幼児だから、まだまだ先の話だけど。
「今付き合ってる人から嫉妬されるの、鬱陶しくありません?」
日浦は嫉妬深いやつだと判明したが、鬱陶しくはないな。むしろ、ちょっとした優越感?市局で一、二を争う優男を独り占めしてるっていう。
「あ、モテないから付き合ってる相手、いないのか」
おい、コラ。
「その歯形、やっぱり風俗で、ですか?」
やかましいわ。俺に恋人がいない前提で話を進めるな。
って言うか、やっぱり隠せてないのかよ。箪笥の奥底から黒のオックスフォードシャツを引っ張り出してきて、襟付きだからまあ大丈夫かと思ったんだが。
「堂島さん。顔に似合わずなかなか激しいんですね」
だから、いちいち一言余計なんだよ。悪気がないから尚更悪い。橋本、ちゃんと躾しろよ。
垂れ目をますます垂れ下げて口元ニタニタの橋本のしまりない顔が脳裏を過り、俺は三回連続で舌打ちしてしまった。
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