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続編 愛くらい語らせろ
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「俺達が関わるのは、ここまでだ」
日浦はわざとらしい溜め息をついて、降参のポーズを取る。
三文役者の胡散臭い芝居はもういいから。
「俺達は消防士だ。警察じゃない」
「だけど」
すでに踏み込んじゃいけない領域まで来ている。
「正義感があるのは褒めてやる。だけど、境界線を越えたら駄目だ」
日浦の言いたいことは理解出来る。
百パーセントは信じ難いものの、美希の話を鵜呑みにするなら、何をやらかすかわからない相手と関わるのは不味い。
だけど……決定打はないが危ない刈谷を、このまま放っておいて良いのか。
「刈谷を野放しにするつもりはない」
ああ、もう。焦ってえな。首根っこ捕まえて、企みを吐かせりゃいいだけだろ。
「橋本の知り合いに刑事がいるから。それとなく話はしておく」
確かにこの件は本職に任せるべきだろうけどよ。
宙ぶらりんで放っとかれた気分。
ああ~。何が正しくて間違いか、わかんねえ。
がしがしと髪に両手を突っ込んで思い切り掻き回す。
おい、日浦。何か喋れ。無になって俺のこと観察するな。
「……わかったよって言やあいいんだろ」
全然、納得は出来ないけどな。
髪を掻き乱す手を止め俯いたまま言ってやれば、またしてもデカい溜め息を頭上にくらう。
「あっちゃんさ、俺のこと白状なやつだと思ってるだろ」
「別に」
「嘘がつけない男だな」
図星を突かれて「はい、そうです」なんて言えるわけない。
しかし、こいつは何でもお見通しだな。
笠置なんか、何かと俺の無表情を詰り、嫌味を言わなければ気が済まないようだが。
そのたびに、殺伐とした睨みをくらわせてやっている。
「どうせ俺は隠し事出来ない間抜けだよ」
お前限定だけどな。と、心の内で付け加えてやる。
「それが、あっちゃんの良いところだよ」
「ふざけんな」
少しは否定しろ。
「真面目に言ってるんだけどな」
声が心持ち軽くなっている。
背中の筋を指先が辿った。
気づけば真正面に日浦の体。気配なく立ち位置を変えている。忍者かよ。空気一つ揺れなかったぞ。
日浦は俺の腰に両手を回すと、勢いよく胸元へと引き寄せる。
馬鹿力には抵抗出来ない。
呆気なく鼻先が日浦の鼻先にくっつきそうになり、慌てて顔を背ける。こめかみに視線が集中した。
「こっち向いて」
今度は猫撫で声かよ。
うっかり日浦の方を向けば、またしても始まって、朝までなし崩しってお決まりのコースは目に見えている。
そう何度もは勘弁だ。昨夜から酷使しっぱなしの尻を労わってやりたい。
「断る」
頑なな俺の態度から意思が通じたのか。
いつの間にか溜め息が離れた場所から上がった。
だから、いつ、体を離したよ。
物音一つなかったぞ。
腰にはまだ日浦の手の感触が残っている。
「帰るよ」
言い終わらないうちに玄関のドアが閉まり、日浦の姿はすでになかった。
日浦はわざとらしい溜め息をついて、降参のポーズを取る。
三文役者の胡散臭い芝居はもういいから。
「俺達は消防士だ。警察じゃない」
「だけど」
すでに踏み込んじゃいけない領域まで来ている。
「正義感があるのは褒めてやる。だけど、境界線を越えたら駄目だ」
日浦の言いたいことは理解出来る。
百パーセントは信じ難いものの、美希の話を鵜呑みにするなら、何をやらかすかわからない相手と関わるのは不味い。
だけど……決定打はないが危ない刈谷を、このまま放っておいて良いのか。
「刈谷を野放しにするつもりはない」
ああ、もう。焦ってえな。首根っこ捕まえて、企みを吐かせりゃいいだけだろ。
「橋本の知り合いに刑事がいるから。それとなく話はしておく」
確かにこの件は本職に任せるべきだろうけどよ。
宙ぶらりんで放っとかれた気分。
ああ~。何が正しくて間違いか、わかんねえ。
がしがしと髪に両手を突っ込んで思い切り掻き回す。
おい、日浦。何か喋れ。無になって俺のこと観察するな。
「……わかったよって言やあいいんだろ」
全然、納得は出来ないけどな。
髪を掻き乱す手を止め俯いたまま言ってやれば、またしてもデカい溜め息を頭上にくらう。
「あっちゃんさ、俺のこと白状なやつだと思ってるだろ」
「別に」
「嘘がつけない男だな」
図星を突かれて「はい、そうです」なんて言えるわけない。
しかし、こいつは何でもお見通しだな。
笠置なんか、何かと俺の無表情を詰り、嫌味を言わなければ気が済まないようだが。
そのたびに、殺伐とした睨みをくらわせてやっている。
「どうせ俺は隠し事出来ない間抜けだよ」
お前限定だけどな。と、心の内で付け加えてやる。
「それが、あっちゃんの良いところだよ」
「ふざけんな」
少しは否定しろ。
「真面目に言ってるんだけどな」
声が心持ち軽くなっている。
背中の筋を指先が辿った。
気づけば真正面に日浦の体。気配なく立ち位置を変えている。忍者かよ。空気一つ揺れなかったぞ。
日浦は俺の腰に両手を回すと、勢いよく胸元へと引き寄せる。
馬鹿力には抵抗出来ない。
呆気なく鼻先が日浦の鼻先にくっつきそうになり、慌てて顔を背ける。こめかみに視線が集中した。
「こっち向いて」
今度は猫撫で声かよ。
うっかり日浦の方を向けば、またしても始まって、朝までなし崩しってお決まりのコースは目に見えている。
そう何度もは勘弁だ。昨夜から酷使しっぱなしの尻を労わってやりたい。
「断る」
頑なな俺の態度から意思が通じたのか。
いつの間にか溜め息が離れた場所から上がった。
だから、いつ、体を離したよ。
物音一つなかったぞ。
腰にはまだ日浦の手の感触が残っている。
「帰るよ」
言い終わらないうちに玄関のドアが閉まり、日浦の姿はすでになかった。
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