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続編 愛くらい語らせろ
25※
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「あの女には、もう関わるんじゃない」
形の良い薄い唇には、うっすら血が滲んでいる。それを指の腹で拭いながら、日浦は命令してきた。
「連絡先も消せ」
バレてんのかよ。
「寧ろ、バレてないと思ってるのが不思議だ」
いや、俺、お前の前でスマホいじったことないし。
まさか盗撮してるんじゃねえだろうな。
かなり本気で疑いの目を向けたら、どうも日浦は別のことと勘違いしたようだ。
「『光円教』だ」
「え?」
「『やさしい世界』の母体だよ」
すぐには理解出来なかった。ピリピリ痛む唇の切り傷を舐めて鉄臭い味を感じてから、ようやく思考が追いついた。
「ああ。ミイが見せてきたチラシか」
介護者家族の触れ合い団体だ。バックにそんな組織が控えていたとは。
どこからそんな情報を仕入れたんだ、と言いかけて、口を半分開いたまま停止する。
脳裏に橋本のふふんといった笑い方が過ぎった。あの男の顔の広さは異常だ。
「ややこしいことには関わるな」
言いながら首筋を吸うな。しかも、かなり強め。痕なんて残すなよ。
「宗教団体ってこと隠して、そんなボランティアしてるってことか?」
日浦は答えず、ひたすら首筋を吸う。お前は吸血鬼か。
「新興宗教だろ。聞いたことねえ名前だな」
まだ首筋から唇を離さない。
「ボランティアって、もしかして、勧誘の一環とか?」
気を抜いたら淫靡な空気に取り込まれそうになるから、返答なしでも続けてやる。
「だったら、かなり悪どい組織ってことか?」
意識がぐらつかないよう、質問攻めだ。
「別に宗教団体がボランティアをしているから、危険てことはない。誤解するな」
悪い方向へ考えが及ぶ俺に対して、日浦はようやく歯止めをかけた。
「東日本大震災のときには、様々な宗教団体が支援活動に取り組んでいたんだ。そのまま災害活動を続けている団体もある」
「へえ。じゃあ、良い団体なんだな」
「そんな団体ばかりじゃないってことだ」
わかってないな、と鼻先を指で弾かれた。唇を噛んだり、鼻を弾いたり、少しは加減しやがれ。痛いもんは痛い。
「少なくとも、その光円教には警戒した方がいい」
「……んんっ」
真面目な話をしながら、股間を揉むな。
首筋のキスのときは足を伸ばすことを許されたのに、またしても両足を掲げられた。直角定規みたいに何もかも包み隠せない間抜けな格好。日浦の視線は臍の真下に集中し、凝視されているとだんだん反応してくる。
「ふうん。見られて興奮するのか」
変態、とは聞き捨てならねえ。
「いい眺めだな」
太腿の間に体を納め、日浦が覗き込んできた。
まともに視線がぶつかる。
咄嗟に背けた顔は、顎先を捕まれ戻された。
「あの女なんか足元にも及ばないこと、してやろうかな」
怖い独り言に、ぞくっと震えが走る。
片手を伸ばしてベッドの下をゴソゴソ漁る日浦には、嫌な予感しかしない。
案の定というべきか。手にしていたのは、黒いシリコンの小さな玉が等間隔についた細長い棒。持ち手には丸い輪っか。それがどういう用途なのか記憶している。
「お、おい!それだけは勘弁してくれ!」
顔面から一気に血液が急降下し、くらっと目眩まで起こした。
「さすがに、これは使ったことなさそうだな」
棒を持つ方とは反対の手がぬっと伸びて、俺の勃ち上がったものをぎゅっと握る。
「あぅ!いっ、痛っ!」
容赦なく捻り潰しかねない強さに、腰が浮いた。頭がくらくらする。
どうか間違いであってくれと祈ったが、やはり思っていた通りの代物だ。日浦の太くて節くれだった指が先端をなぞり、指の腹が窪みを擦った。じわり、と蜜が湧き出す。
「い、嫌だ!それだけは!」
幾ら快楽を求めようと、やはり駄目なもんは駄目だ。どうしても怖いもんくらいある。ミイ相手にも、泣きながら懇願して回避したんだ。
十年以上を経て危機に瀕するとは。
「日浦!頼むから!」
そんなもん入れて、血が吹き出して、使いもんにならなくなったらどうする。眦が熱くなり、透明の粒が溢れ、肌を滑っていく。耳の中に滑り落ち、ぐっしょり濡れた。おまけに鼻水、ついでに涎まで出てきた。
「泣くほど嫌なんだな」
顔面の穴という穴から体液を湧き出して嫌がる俺に、日浦は眉毛を八の字に下げる。
「しょうがないな」
再び尿道プラグがベッド下の定位置に戻された。
全身の力がいっぺんに抜けて、ぐにゃぐにゃの軟体生物に成り果ててしまった。
「まあ、あっちゃんの泣き顔を拝めたから。良しとするか」
俺に恐怖を与える同じ指で、眦に残る涙を拭う。優しいんだか、鬼畜なんだか。
てか、その指で、ついさっきまで俺の股間を弄ってただろ。
日浦め。覚えとけよ。
形の良い薄い唇には、うっすら血が滲んでいる。それを指の腹で拭いながら、日浦は命令してきた。
「連絡先も消せ」
バレてんのかよ。
「寧ろ、バレてないと思ってるのが不思議だ」
いや、俺、お前の前でスマホいじったことないし。
まさか盗撮してるんじゃねえだろうな。
かなり本気で疑いの目を向けたら、どうも日浦は別のことと勘違いしたようだ。
「『光円教』だ」
「え?」
「『やさしい世界』の母体だよ」
すぐには理解出来なかった。ピリピリ痛む唇の切り傷を舐めて鉄臭い味を感じてから、ようやく思考が追いついた。
「ああ。ミイが見せてきたチラシか」
介護者家族の触れ合い団体だ。バックにそんな組織が控えていたとは。
どこからそんな情報を仕入れたんだ、と言いかけて、口を半分開いたまま停止する。
脳裏に橋本のふふんといった笑い方が過ぎった。あの男の顔の広さは異常だ。
「ややこしいことには関わるな」
言いながら首筋を吸うな。しかも、かなり強め。痕なんて残すなよ。
「宗教団体ってこと隠して、そんなボランティアしてるってことか?」
日浦は答えず、ひたすら首筋を吸う。お前は吸血鬼か。
「新興宗教だろ。聞いたことねえ名前だな」
まだ首筋から唇を離さない。
「ボランティアって、もしかして、勧誘の一環とか?」
気を抜いたら淫靡な空気に取り込まれそうになるから、返答なしでも続けてやる。
「だったら、かなり悪どい組織ってことか?」
意識がぐらつかないよう、質問攻めだ。
「別に宗教団体がボランティアをしているから、危険てことはない。誤解するな」
悪い方向へ考えが及ぶ俺に対して、日浦はようやく歯止めをかけた。
「東日本大震災のときには、様々な宗教団体が支援活動に取り組んでいたんだ。そのまま災害活動を続けている団体もある」
「へえ。じゃあ、良い団体なんだな」
「そんな団体ばかりじゃないってことだ」
わかってないな、と鼻先を指で弾かれた。唇を噛んだり、鼻を弾いたり、少しは加減しやがれ。痛いもんは痛い。
「少なくとも、その光円教には警戒した方がいい」
「……んんっ」
真面目な話をしながら、股間を揉むな。
首筋のキスのときは足を伸ばすことを許されたのに、またしても両足を掲げられた。直角定規みたいに何もかも包み隠せない間抜けな格好。日浦の視線は臍の真下に集中し、凝視されているとだんだん反応してくる。
「ふうん。見られて興奮するのか」
変態、とは聞き捨てならねえ。
「いい眺めだな」
太腿の間に体を納め、日浦が覗き込んできた。
まともに視線がぶつかる。
咄嗟に背けた顔は、顎先を捕まれ戻された。
「あの女なんか足元にも及ばないこと、してやろうかな」
怖い独り言に、ぞくっと震えが走る。
片手を伸ばしてベッドの下をゴソゴソ漁る日浦には、嫌な予感しかしない。
案の定というべきか。手にしていたのは、黒いシリコンの小さな玉が等間隔についた細長い棒。持ち手には丸い輪っか。それがどういう用途なのか記憶している。
「お、おい!それだけは勘弁してくれ!」
顔面から一気に血液が急降下し、くらっと目眩まで起こした。
「さすがに、これは使ったことなさそうだな」
棒を持つ方とは反対の手がぬっと伸びて、俺の勃ち上がったものをぎゅっと握る。
「あぅ!いっ、痛っ!」
容赦なく捻り潰しかねない強さに、腰が浮いた。頭がくらくらする。
どうか間違いであってくれと祈ったが、やはり思っていた通りの代物だ。日浦の太くて節くれだった指が先端をなぞり、指の腹が窪みを擦った。じわり、と蜜が湧き出す。
「い、嫌だ!それだけは!」
幾ら快楽を求めようと、やはり駄目なもんは駄目だ。どうしても怖いもんくらいある。ミイ相手にも、泣きながら懇願して回避したんだ。
十年以上を経て危機に瀕するとは。
「日浦!頼むから!」
そんなもん入れて、血が吹き出して、使いもんにならなくなったらどうする。眦が熱くなり、透明の粒が溢れ、肌を滑っていく。耳の中に滑り落ち、ぐっしょり濡れた。おまけに鼻水、ついでに涎まで出てきた。
「泣くほど嫌なんだな」
顔面の穴という穴から体液を湧き出して嫌がる俺に、日浦は眉毛を八の字に下げる。
「しょうがないな」
再び尿道プラグがベッド下の定位置に戻された。
全身の力がいっぺんに抜けて、ぐにゃぐにゃの軟体生物に成り果ててしまった。
「まあ、あっちゃんの泣き顔を拝めたから。良しとするか」
俺に恐怖を与える同じ指で、眦に残る涙を拭う。優しいんだか、鬼畜なんだか。
てか、その指で、ついさっきまで俺の股間を弄ってただろ。
日浦め。覚えとけよ。
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