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続編 愛くらい語らせろ
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ピーピーピーと管内に響き渡る入電。
たちまち空気が変わった。
「火災入電中」
隊長始め、特救の顔つきが厳しくなる。
「大黒谷出火報」
瞬く間に防火服に身を包み、救助車へと駆ける。
「大黒谷町三丁目十番地五。天神商店街、居酒屋しおん」
大黒谷町には幾つかの商店街が点在する。どの商店街も、かつては肉屋魚屋クリーニング屋といった生活に欠かせない店舗が連なっていたが、約十年前に全国展開しているスーパーの出店があり、そちらに客を奪われて一時はシャッター通りなどと陰口を叩かれていた。
それらの空き店舗に目をつけた若いオーナーが、居抜き物件を掘り起こし、自分好みに改装して新たに出店する。巷ではそれが流行しているらしく、一部の商店街は賑わいを見せていた。
後部座席の左端に滑り込む日浦。
その横顔は目を血走らせて、狼を彷彿させる。
休みの間中、締まりなく目尻を下げ、ベッドの中でやたらとキスを求めてきた卑猥な男は、そこにはいない。
「二階建て一階より出火。一一九番情報により、一階で爆発音ありとの情報」
無線に、チッと誰かが小さく舌打ちした。方向的に橋本だな。
「おいおい。洒落にらならへんで」
やっぱり舌打ちはお前かよ。ハンドルを握る橋本をこっそり睨みつけてやる。
その鼻っ面を張っ倒してやりたい気は未だにむくむくしているが、そうなるとたちまち俺達の関係が露呈する。
しかも、悔しいことに、橋本の思惑通りの展開となった。
恋人との仲を深める……ここ最近の日浦のいらいら、あれは何だったんだと言わんばかりに、あれ以来、すこぶる機嫌が良い。
「ボーっとするな!堂島!」
「っ!」
一番員の顔つきの日浦に怒鳴りつけられた。
そうだ。今は呑気に耽っている場合じゃねえ。
「堂島さんがボケっとするなんて。珍しいですね」
いらん詮索してくるなよ。ギロリと睨みつけて取り敢えず笠置を黙らせる。
集中しろ!俺!
到着するなり、息を呑んだ。
オレンジに袖を通して五年近く。様々な現場への出場が掛かり、救護に携わってきた。
その度に心が絞られる。今回もだ。
先発隊の建物に向けての消火により、火の手は大方収まり、辺り一面白い煙が漂っていた。
天神商店街は昨今の波に乗り、ところどころの店舗で足場が組まれ改装がなされている。
居酒屋しおんもその一つだ。
大正期に建築されたような和洋折衷様式で、かつて時代の最先端だった造り。外壁には花崗岩が施されている。二階の明かり取り窓にはステンドグラスが嵌められ、洒落てモダンな、デートするにはうってつけの店舗だ。
「居住者情報により、二五二(要救助者)は五十代女性。一階部分にいると思われる」
大正建築なら、おそらく百年は経過してるんだろうな。耐震も怪しいし。なあなあで消防点検が通ってきたのかと疑わしいくらい、経年劣化が顕著だ。外壁、ひび割れてるし。
「建物倒壊の危険あり」
無線から情報が入る。
だろうよ。俺は激しく同意して首を縦に振った。
たちまち空気が変わった。
「火災入電中」
隊長始め、特救の顔つきが厳しくなる。
「大黒谷出火報」
瞬く間に防火服に身を包み、救助車へと駆ける。
「大黒谷町三丁目十番地五。天神商店街、居酒屋しおん」
大黒谷町には幾つかの商店街が点在する。どの商店街も、かつては肉屋魚屋クリーニング屋といった生活に欠かせない店舗が連なっていたが、約十年前に全国展開しているスーパーの出店があり、そちらに客を奪われて一時はシャッター通りなどと陰口を叩かれていた。
それらの空き店舗に目をつけた若いオーナーが、居抜き物件を掘り起こし、自分好みに改装して新たに出店する。巷ではそれが流行しているらしく、一部の商店街は賑わいを見せていた。
後部座席の左端に滑り込む日浦。
その横顔は目を血走らせて、狼を彷彿させる。
休みの間中、締まりなく目尻を下げ、ベッドの中でやたらとキスを求めてきた卑猥な男は、そこにはいない。
「二階建て一階より出火。一一九番情報により、一階で爆発音ありとの情報」
無線に、チッと誰かが小さく舌打ちした。方向的に橋本だな。
「おいおい。洒落にらならへんで」
やっぱり舌打ちはお前かよ。ハンドルを握る橋本をこっそり睨みつけてやる。
その鼻っ面を張っ倒してやりたい気は未だにむくむくしているが、そうなるとたちまち俺達の関係が露呈する。
しかも、悔しいことに、橋本の思惑通りの展開となった。
恋人との仲を深める……ここ最近の日浦のいらいら、あれは何だったんだと言わんばかりに、あれ以来、すこぶる機嫌が良い。
「ボーっとするな!堂島!」
「っ!」
一番員の顔つきの日浦に怒鳴りつけられた。
そうだ。今は呑気に耽っている場合じゃねえ。
「堂島さんがボケっとするなんて。珍しいですね」
いらん詮索してくるなよ。ギロリと睨みつけて取り敢えず笠置を黙らせる。
集中しろ!俺!
到着するなり、息を呑んだ。
オレンジに袖を通して五年近く。様々な現場への出場が掛かり、救護に携わってきた。
その度に心が絞られる。今回もだ。
先発隊の建物に向けての消火により、火の手は大方収まり、辺り一面白い煙が漂っていた。
天神商店街は昨今の波に乗り、ところどころの店舗で足場が組まれ改装がなされている。
居酒屋しおんもその一つだ。
大正期に建築されたような和洋折衷様式で、かつて時代の最先端だった造り。外壁には花崗岩が施されている。二階の明かり取り窓にはステンドグラスが嵌められ、洒落てモダンな、デートするにはうってつけの店舗だ。
「居住者情報により、二五二(要救助者)は五十代女性。一階部分にいると思われる」
大正建築なら、おそらく百年は経過してるんだろうな。耐震も怪しいし。なあなあで消防点検が通ってきたのかと疑わしいくらい、経年劣化が顕著だ。外壁、ひび割れてるし。
「建物倒壊の危険あり」
無線から情報が入る。
だろうよ。俺は激しく同意して首を縦に振った。
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