[完結]ヤンデレ・メリバは好きですか?

紅月

文字の大きさ
上 下
33 / 39

危険な屋上イベント

しおりを挟む
「グフ、グフ。やっと屋上イベントね」

夏休みを挟み、前回のイベントから随分時間が空き、季節は秋になっていた。

セレナにとって夏休みは退屈なものでしか無かった。
ゲームではサラッと終わったのに、友人と呼べるクラスメイトなど居ない彼女を自宅や別荘に誘う者は皆無で、実家の狭い部屋でただ無意味な時間を過ごしていた。



ニヤニヤとカサンドラからの手紙をポケットに入れて、セレナは屋上へ向かった。

屋上は遮るものの無い開かれた空間で、風が心地よくて生徒達の憩いの場でもあったが、今日は誰も居ない。
いや、手摺りの側に誰かが立っていた。

「早く来すぎたのかな?」

カサンドラが居ない事に首を傾げたが、手摺りにも垂れていた、淡いブラウンの髪をした生徒がセレナの方を向いた。

「アンタは」

セレナにとっては逆ハーを邪魔する、邪魔でしか無い存在。
アリアがキッと目に力を込め、スタスタと歩み寄って来た。

「セレナ・コール男爵令嬢ね」
「そうよ。何?アタシはカサンドラと話があるんだから、とっとと出ていきなさいよ」
「カレドラス侯爵令嬢は、いらっしゃいません」

小柄なくせして背筋がピンと伸び、可憐な容姿を引き立たせる青紫の瞳に腹が立った。
しかもその姿が前世で大嫌いだった双子の妹に良く似ている。

自分に溺れる筈だったキャラ達は皆、彼女を大切にしている。

「アンタが余計な事するから、デニス達がアタシの魅力に……」
「魅了魔法なんてまやかしです。1人だけでも罪深いのに、複数人に掛けるなんて何様です」
「何様ですって。アタシはこのゲームの世界のヒロインで、特別なの。イケメン達に愛される設定なの。アンタみたいなモブ、お呼びじゃないってんだよ」

ピンクの目が充血してどす黒く見える。

「言っている意味が分かりません。貴女、人間の言葉、話してますか?」

アリアが呆れた様な目で、セレナを見下す様にツィっと顎を上げる。

本来のアリアなら、これ程他人を侮蔑する様な事は口にしないが、やっていい事と悪い事が解らない愚か者に対して、優しい感情など欠片も無い。

「ご自分が、さも優れた存在の様な口振りですが、本当に優れた方は自分が特別だ、などと言いません」

デニスロード達の様に優秀な存在を間近で見ているから、アリアの言葉には力がある。

トラウマを克服し、国や民の為に誠実に生きようとしている彼らをアクセサリーのように扱う、愚か者に対してアリアは怒りを覚えている。

「うるせぇんだよ。アタシは特別で、可愛いからデニス達が取り合いすんの。それが決まりなの」

もはや人の言葉を話しているとは思えない。

「馬鹿なんですね。だからデニスロード様達に疎ましがられるんですよ」

アリアの言葉にも容赦が無くなった。

「そんな訳ない。アンタがアタシの邪魔しなきゃ……。そっか、アンタがバグね。だから……」

セレナの血走った目がギラギラ異様に光り、何かを握り潰そうとしている様な手に魔力を集め始めた。

距離を取ろうとジリジリと手摺りの所まで下がるアリアを更に追い詰め、詰め寄った。

「死ね。アンタが死ねば、ゲームのバグも解消されて、正しい世界になんだから」

鈍い光を放つ魔法球をアリアに向け、投げつけた。
セレナの頭の中では、自分の渾身の魔法球の爆発でアリアが吹き飛ぶ様子がありありと見えていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

婚約破棄された私の結婚相手は殿下限定!?

satomi
恋愛
私は公爵家の末っ子です。お兄様にもお姉さまにも可愛がられて育ちました。我儘っこじゃありません! ある日、いきなり「真実の愛を見つけた」と婚約破棄されました。 憤慨したのが、お兄様とお姉さまです。 お兄様は今にも突撃しそうだったし、お姉さまは家門を潰そうと画策しているようです。 しかし、2人の議論は私の結婚相手に!お兄様はイケメンなので、イケメンを見て育った私は、かなりのメンクイです。 お姉さまはすごく賢くそのように賢い人でないと私は魅力を感じません。 婚約破棄されても痛くもかゆくもなかったのです。イケメンでもなければ、かしこくもなかったから。 そんなお兄様とお姉さまが導き出した私の結婚相手が殿下。 いきなりビックネーム過ぎませんか?

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

公爵令嬢は愛に生きたい

拓海のり
恋愛
公爵令嬢シビラは王太子エルンストの婚約者であった。しかし学園に男爵家の養女アメリアが編入して来てエルンストの興味はアメリアに移る。 一万字位の短編です。他サイトにも投稿しています。

処理中です...