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三章 風の前の塵
-54- 暴れる風
しおりを挟む「萬治は? 萬治を探してくれるんじゃなかったの!?」
捜査協力者として同行していた柿丸が当然の訴えを口にした。よもや、その萬治こそが嵐亀になったなどとは思っていないのだろう。災物がどのようにして出現するかも知らないのでは無理もない。
この場に斬島がいたら、上手いこと宥めすかして現場から避難させることも出来たのだろうが、生憎とこの場にいるのは太蝋だ。適当に誤魔化して、この場を離れさせる程度のことしか出来ない。
「萬治の捜索は中止だ。これから、ここは戦場になる。お前は安全な場所へ避難しているんだ。鈴村――」
太蝋が第三小隊の結界師である鈴村に柿丸の護衛を頼もうとした瞬間、柿丸はもの凄い声量で思いの丈を叫んだ。
「萬治を見つけてくれるって言ったのに!! 嘘吐き!! お前なんか大っ嫌いだ!!」
斬島や他の隊員のように優しい態度をとってくれない太蝋への不満もぶつけながら、柿丸はすばしっこい足を活かして、山の方へ向かって走り出してしまった!
「おい! 柿丸、待て!!」
第三炎護中隊の追っ手から逃げ惑い、誘導作戦でようやっと大人しくなった問題児が暴走を始めてしまった。友達の萬治を見つけ出す、ただそれだけを目標に掲げて。
伝令達のように台風の目がある方へ突っ込んでいく柿丸の小さな背中を見て、太蝋は舌打ちをしてから呼び出した鈴村に指令を下した。
「鈴村、この辺一帯に網を張れ。民間人がいた場合、網の中へ避難させるように」
「了解」
「高津!」
「はい!」
「この場の指揮をお前に任せる。民間人の安全確保を優先しろ。川へは近付けさせるな。嵐亀の進行を遅らせるために縄を用意しておけ! 炎護隊本部への伝令を走らせろ!」
「隊長はどうされるのですか!?」
強まる風と、横殴りの雨。如実に嵐亀が近付いて来ていることが分かり、太蝋は走り出してしまった柿丸を追うべく、高津と鈴村に背を向けた。
「私は柿丸を連れ戻す!」
短く目的を告げると、太蝋は水を含み始めた地面を踏み締めて走り出した。小さい犠牲を出さない為に。帝都で待つ、それぞれの家族の命運を助ける為に。
「――きゃ……っ」
急に部屋に吹き込んだ風が、八重の手元にあった絹を強く靡かせた。刺繍する為にしっかり抱え込んでいたのが功を奏し、飛ばされるようなことはなかったが今のは非常に強い風だった。
縁側の障子を閉めなければ、部屋の中の物が風で荒らされてしまいそうな予感がする。八重は作業途中の帯揚げを傍へ起き、立ち上がると縁側の方に歩を進めた。
するり。
「あら。どうしたの?」
「……にゃあ~」
八重の足元を擦り抜けて部屋へ入って来た白い猫は、甘えたな声を出して八重を見上げた。まるで部屋に匿って欲しいと言っているようだ。
「天気が悪くなるのかしら? 何だか、空気が湿っぽいし……」
「にゃうん」
「やっぱり? ……それじゃあ、戸は閉めておきましょうね。あ、悪戯しちゃ駄目よ。今、にぼしを――」
そんな会話が漏れ聞こえてくる間に、八重の部屋の戸は閉じ、大雨が降る兆しを感じさせる湿った空気を遮断した。
帝都郊外で行われている台風災物討伐作戦で、太蝋の身に降り掛かっている状況を知る由もなく。
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