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三章 風の前の塵
-53- 嵐を告げる風
しおりを挟む帝都郊外・夕陽町の山沿いを通る川に於いて。
太蝋は第一炎護中隊の第三小隊と第四小隊を引き連れ、柿丸が探していると言う亀の萬治の捜索に当たっていた。第一、第二小隊は斬島の指揮の元、上流の方へ捜索へ向かっている。
ただの亀捜索に中隊一個の軍力を割いたのには、当然理由がある。
炎護隊の大隊長たる剛田中佐が亀の萬治が台風災物・嵐亀になることを危惧しているからだ。大人数で捜索し生きている姿で発見出来れば良し。死んだ状態で発見したとしても、きちんと供養してやれば災物になることは無い。
……とは言え、その亀がどんな亀であるかを知っているのは飼い主である柿丸しか分からない。その為、民間人である柿丸を第三小隊に護衛させながら、第四小隊が萬治捜索に当たっていると言った状況だ。
捜索作戦が開始され一時間が経過しようかと言うところ。収穫は無し。亀のかの字も見ていない。それもその筈、帝都がある地方では亀の生息数自体が少ないのだ。柿丸が火ノ本の南西から引っ越してきたことを鑑みるに、その辺りでは見られることもあったのだろうが、その地域よりも寒い帝都地方では生息するのも難しいのかもしれない。
もはや、亀を見つけさえすれば、それこそが柿丸が探している友達だと言っても過言じゃない。しかし、残念なことに炎護隊の中にそう言った事情を知っている人間はいなかった。故に柿丸が調査隊に加えられてしまったのである。
のちの悲劇を招くことになるとも知らずに。
――西にそびえる山の空に暗雲が立ち込み始めた。風の流れが強くなり、炎護隊の制服をばたばたと靡かせている。
その独特な雰囲気は全員に覚えがあった。
災物到来を知らせる悪い空気である、と。
「隊長ー!」
山間へ調査に入っていた斬島率いる山間部隊の隊員が、太蝋の呼び名を叫びながら山の方から走ってきた。太蝋の目の前まで到着すると敬礼の体勢をとって、状況報告を始めた。
「第一、第二合同調査隊は一三〇〇に現場へ到着し、一三二〇に山間で風蛙の勢力を発見! 調査及び、直ちに討伐作戦に移行しておりましたが、嵐亀の出現を許す事態となってしまいました!」
隊員の報告を受け、太蝋の傍に控えていた第三、第四小隊の隊長が緊張の面持ちで身構えた。現在の時刻は十四時。嵐亀発見から四十分が経過している。
「嵐亀の進行方向は」
「山間から東へ――帝都方面と思われます!」
太蝋の質問に隊員が答えると、周辺に吹き荒れている奇妙な風の正体が分かった。これは台風の災物・嵐亀による暴風域が迫っていると言う証拠だ。それも帝都に向かってきている。
「大隊長の悪い予感が当たったらしいな」
溜息混じりにそう言った後、太蝋は萬治捜索の手を止めていた部下達に次なる指令を下した。
「捜索活動を中止。これより、台風災物・嵐亀及び風蛙討伐作戦に移行する! 恐らく、嵐亀は川に沿って帝都へ降りてきている。姿が見えない現段階でも、この強風だ。嵐亀本体の姿を認めた時の暴風域と大雨の被害は計り知れない。嵐亀の進行はここで食い止める! 全員、気を引き締めろ!」
太蝋の号令を受け、その場にいた第一炎護中隊の隊員たちは揃って「了解!」と返答した。伝令のために下山してきた隊員に、山間に残ったままの山間部隊に風蛙の討伐を優先するように指示を告げろと、再び伝令に走らせる。
台風の目に突っ込んでいくような危険な役割だ。一人だけでなく、もう数名伝令に就かせ、残った隊員達で嵐亀の進行を遅らせ、討伐出来る手筈を整えることにする。
しかし。
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