25 / 88
二章 恋の病に薬なし
-25- 飛ぶ鼠
しおりを挟む八重を川辺に残し、見たくなかったモノの正体を確かめるべく太蝋は長屋が立ち並ぶ閑静な道を歩いていた。
(見間違いを願いたいが……)
そう思いながらも経験則で見間違いの可能性は低いと考え、周囲を見渡す。
一軒の長屋の屋根の上で小さく飛び跳ねた白い鳥の姿が目の端に映る。
そっと手袋を外し、指先で蝋の塊を作り出した。
攻撃体勢が整うと同時に屋根を見上げると二羽の白い雀の姿が在った。
赤い目に真っ白な身体は明らかに通常の雀と違う。
太蝋は息を顰め、一ミリ大の蝋の弾丸を指先では弾いた!
蝋の弾丸は二羽の白い雀に見事命中……!
跡形もなく消滅したようだ。
「……病雀か」
病雀。
それは疫病を引き起こす子災物だ。
人が集まる場所に現れるのだが小さいが故に見逃されやすく、いつの間にか勢力を増し頭災物を呼び込む危険性を孕んでいる厄介な存在だ。
太蝋が病雀を発見した場所の長屋にも人が住んでいるものと思われる。
……〝思われる〟と言うのも、あまりにも物静か過ぎるからだ。
最も人の声が聞こえてくるであろう昼の時間帯だと言うのに、聞こえてくるのは蝉の声だけ。
既に病雀の影響が出ていると思われる状況だ。
溜息を一つ吐くと太蝋は身を翻し、呟いた。
「せっかくの逢引だったんだがな……」
中断せざるを得ない事情を抱えてしまった。
急ぎ屋敷へ帰り、炎護隊を動かさなければならない。
少し前まで雨鷺討伐作戦と戦後処理で家を空けていた償いをしていたと言うのに、それもおじゃんである。
何より八重との逢引を楽しいと思えていただけに、こんな形での中断は悔しい。
とは言え、軍人として災物討伐の任務に就いている以上、見過ごすことはできない。
一先ず、八重の元に戻り、帰らなくてはならなくなったと告げなければ。
太蝋は身を翻す。
道中、病雀を発見したらすぐに討伐出来るように手元で蝋の弾丸を作りながら。
――時間は戻り、太蝋が病雀を追って八重の元を離れた数分後のこと。
川を眺めていた八重の耳に人が走ってくる足音が聞こえてきた。
ざっ、ざっ、ざっと土を蹴り上げて徐々に近付いて来ている。
太蝋が早々に帰って来たのかもしれないと思い、顔を上げて音がする方をちらりと見ると、血相を変えて走る少女の姿が目に入った。
八重より年若く、ざんばらに切られた黒い髪は肩に付かない程の短さ。
太めの特徴的な眉に、ぱっちりとした二重の目。
繕い跡が目立ち、ふくらはぎが見えるほどに短い膝丈のぼろの着物を着て、あちこち擦り切れて見える草履を履いて走っている。
太蝋が姿を消した方向から走って来た少女が険しい顔付きをしていることが、八重の不安を煽った。
太蝋の有事を知らせる為に走っていたら……と思い、緊張しながら少女の動向を見守る。
すると。
「あっ……!」
八重の前を通り過ぎようかと言う所で、少女が履いていた草履の鼻緒が切れてしまった。
目の前で派手にすっ転んだ少女を見て、八重は咄嗟に駆け寄る。
「だ、大丈夫? 膝を擦り剥いたりしてないかしら……?」
着物の胸元から手拭いを取り出しながら、空いている手で少女の背中を摩った。
そこらじゅうに小石が転がっているような場所で転べば、膝を擦りむいていても可笑しくない。
その痛みにより泣き出してしまっても不思議じゃない。
可哀想に思った八重は辿々しいながらにも少女を慰めようとする。
しかし、むくりと起き上がった少女が口にした言葉は感謝ではなかった。
「うるさい」
恨みが篭っているように聞こえる少女の声に、八重の心臓が縮み上がる。
人に拒絶される恐怖が足元から迫り上がってきて、冷や汗が額を伝った。
次の瞬間、少女はがばりと顔を上げ、八重を睨みつけて叫んだ……!
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる