軍師様の悩み事!

エスカルゴ

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魔学校の平民神父

邂逅

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「ど、どういうことで、御座いましょうか……?」
「どういうことだ坊っちゃん」

同時に質問を投げ掛けられ、僕はこんな簡単なことも解んないのかとため息をついた。
だって、貴族は怖いと教えられてきた小さな子供が、酒仕込んで殺すなんてこと思い付くわけがないだろう。

「何でギルはお酒飲んでるの?」
「い、いえ、それはこいつが!」
「はーいふせいかーい」

ブブーッと口で言うと、男は本当に覚えがないとでも言った風にどういうことでしょうかととうてくる。
……白々しい。

「あんたの手からさっき覚えたこの酒の臭いがするけど、反対にその子供の手からは美味しそうなストロベリークッキーの匂いしかしない」

ストロベリークッキーはさっき自分が頼んだもので間違いはない。
この酒場でこんなものを買うなんて僕くらいしか居ないからだ。

「ストロベリークッキーの作業行程からして材料の状態から完成までこぎつけるのは遅くともおよそ五十ミニ(五十分)……
どれだけ早くしても三十ミニ(三十分)はかかる。
味と固さを確認した結果これは確実に材料の状態から作っている。
つまり少なくとも三十ミニは彼は台所に拘束されていたんだよ」

「な、そ、それでも!三十ミニの前に作っておけば!!」

それができないんだよなぁ。
ニヤリと悪うく笑うと、男は怖じ気づいたように一歩引き下がった。

「この香りのなさで、この強さ
この酒にしようしたのはスェレの実本体ですね?」

「あ、あぁおそらく……うちにはそれしかねぇからな」

スェレの実は水に搾ればたちまち酒になる実だ。
しかし、それはプロしかできない作業である。スェレの実は固く、搾ろうとすれば彼のような子供では太刀打ちできないだろう。

「子供では搾ることさえ儘ならないのに、こんなに絶妙に入れられるわけがない。
そして搾れたとしても、スェレ原液はどれだけ洗っても手に付着し決してとれない。
上級生の昼休みは五十ミニ前。
どれだけのプロでもこのクッキーにスェレの臭いを付着させないなんて不可能なんだよ

……そして、僕のクッキーを作ったのはその幼い子供。

マスターはコーヒーや料理を作るため、スェレの実を使うなどあり得ない。
事実、彼の手からは美味しそうな匂いしかしない……

そして最後に、ここで今働いているのはあなた達しか居ない
ここまで言えば、馬鹿じゃないんだから解るよな?」

驚愕と絶望に顔を青ざめさせた男はコクコクと頷いた。
マスターは嘘だろと呟き、子供は大粒の涙を瞳にためた。

最後にどや顔で男を指差した。

「そう!犯人は……あんただ!!」
「めーきゅーいりだあぁ」
「ちょっとだまっててくださいギル先輩」

真逆のことを言われた。
焦っていると、どっと酒場の中が沸いた。

「あはははは!!にぃちゃんおもしれぇな!!」
「漫才でもめざしてんのかー」
「夫婦漫才ってか、ははっ!」
「じゃぁどっちが夫だ~?」
「金髪の方じゃねーの?」

クッッソ!!ギル先輩がなんかやらなきゃ上手く行ってたのに!!!

「貴族の子供を狙った殺人…「おいあいつしめようとしてるぜ!!」煩い昼休みは長くないんだ
よくある話だが、なにも知らない子供も巻き込み愚かな真似をするのは、こちらとしては感心しないな」

憲兵につきださせてもらうよ。
その言葉と共に、男は宙に浮いた檻に閉じ込められた。

ガシャン!と檻の扉がしまる音がする。

「僕の技術アーツ、"鳥籠"。
冥土の土産に教えてやろう。
その檻は、一度入ったら出られない
主人ぼくのゆるしがないと、な」

貴族の殺人未遂をおかしたこの男はまず死刑だろう。
子供は操られていたとしていくらでも言いわけはできるが。
指を動かし、鳥籠を引き寄せた。
ギルは片手で持ち上げている。

銀貨一枚をおいて、僕は扉を開け酒場から出ていった。





しばらくあるき、ピタリと足を止め、振り返る。

「なにか用かな?」
「!!!
すみません!!」

灰色のボブヘアーがびくりとゆれ、恐る恐ると言った風に小さな男の子が隠れていた壁から顔を出した。

さっきの子だ。

「っ貴様のせいで!」
「黙れ罪人。その檻は僕の意思次第でお前もろとも潰せるぞ」

ピタリと静かになった男を一睨みして、無表情で男の子を見つめる。

「……それで?」
「!!!あ、その、たすけてくれてありがとーございました!!」

ほっぺを林檎のように真っ赤っかにしたその子は控えめに言って天使だ。
僕はこくりと表情を変えず頷いて、別に良いと伝えた。

「あ、あの、お兄さんの、お名前は……」
「……」

教えるべきか。教えないべきか。
しばらく迷って、やっぱり教えるべきだなと思った。

「……僕は」

キラキラした視線が絶望にかわる姿をじっくり見ながら、それを言い切った。


「エル。エルベルト・マルセリア
君の父親、母親を殺したレームストの大罪人だよ」

祝福というのは、目に見えるらしい。
彼の生命の灯火のなか、見知った赤黒い光を見つけた。
僕はまだ、生涯で一人にしか祝福を与えていなかったはずだ。

男の子がなにか言う前に結界を抜け、貴族街に戻る。

……あぁ、びっくりした

「まさかこんなところであうとはなぁ」

ローマン

希望と名の付く幼子。
僕の弟であり、そして


「何してくるのかな、にぃちゃん」

僕の命を狙う少年の実の弟でもあった。
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