秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ

文字の大きさ
13 / 102
新しい護衛

12

しおりを挟む
ノア様は第十王子だった。

ルドルフ様から告げられ、その時初めて第十王子の存在を思い出した。言われてみれば、確かにそのようなお名前だったと記憶している。

ほとんど忘れていたと言っていいだろう。

この十数年、第十王子の話題が出ることは一度もなかった。

その第十王子をあの後宮奥に秘匿したままお守りし、お世話をすることがわたしのお役目だと言う。

その理由については何一つ語られなかったが、余計な詮索は無用だ。

「ユリウス、わかっておるな。」

ルドルフ様からの引継ぎが終わり、最後に王から告げられた言葉が全てを物語っていた。

この先何か一つでも失敗してしまえば、きっと記憶を操作されるだけでは済まないだろう。




ノア様には初日から驚かされた。

寝台からは数枚の掛け布がずり落ち、相変わらずの生脚を曝け出したまま眠りこんで、なかなか起きようとしない。

年齢をお聞きしていなければ、もっとずっと幼い子だと思っていただろう。

実際には十三になると言うのに、そのしどけない寝姿はあまりに無防備で、十にも満たないように見えた。

やっと起きたと思えば、一房だけ髪がはねていたり、朝食を用意して部屋に戻れば、ずっと待ち構えていたのかお腹がすいたと甘えたように近づいてくる。

王族であるのに食事を共にするよう命じ、さらには汚れた口元を拭けと顔を差し出す。

ルドルフ様が食事は共にと仰っていたが、まさか本当に同じ席につくとは思いもしなかった。

王族の方と食事を共にするなど、恐れ多いにもほどがある。

薬を塗る最中には、触れるたびに許可をとらずともいい、この先触れることを全て許すと言われ、思わずその手に力が入ってしまった。

この方は無防備すぎる。

無防備で、警戒心というものが全くない。

わたしのような者に触れることを許すなど、本来なら安易に言ってはならないのだ。

「なあ、ユリウス、ずっとここにいたら、その息苦しくて、俺だめになりそう。だからさ…」

「ユリウスもたまには息抜きでもしたらどうだ?誰にも言わないから、二人で少しだけ街に出てみないか?」

ノア様が外に出たいお気持ちはわかる。

だが、このように無防備なお方を連れ出すなど、あまりに無謀だ。

本人は外の世界の恐ろしさを欠片も知らない。

無防備なだけではない。このお姿では…

ノア様を初めて目にしたとき、一瞬だけ時が止まったように感じたことを思い出した。

そうだ。この方は幼いとは言え、おそろしいほど美しい顔立ちをしている。

そして、本人には全くその自覚がない。

「それは、できかねます。」

それ以外答えようがない。

何度かそう言ったやり取りを繰り返すうちに、ノア様もようやく諦めてくれた。

無理だとわかったからか、少し甘えるようだった口調は雑なものに変わり、わたしへの興味は一切失ったようにみえた。

日がな本を読んで過ごしたり、摩訶不思議な造形物を作ることに集中され、時にはぼうっと外を眺めて日々を過ごす。

その日は、雨だった。

ノア様は窓辺でだらりと生脚を投げ出し、頬杖をついたままどしゃぶりの雨に魅入っていた。

雨粒で濡れた窓には虚な表情のノア様の姿が映り込み、その姿はいつもよりどこか大人びて見えた。

「なあ、なんで護衛なんか引き受けたんだ?」

どきっとした。

それは、自分自身のため、ルドルフ様への恩返しのため。

ノア様は王と同じあの瞳で、全てを見透かしていたのかもしれない。

「…海。」

しばしの沈黙の後、ノア様が呟いた。

海?

ノア様は海を見てみたいと言う。

濡れた外の景色に、海への想いを馳せていたのかもしれない。

海はいい。子どもの頃、水平線を眺めたくて時間があればよく観に行っていた。

あの向こう側をいつか観たいとそう思っていた。

…ノア様の知る世界は、この場所だけ。

何不自由なく、それでいて不自由な暮らしだ。

これは勝手な憶測だが、ノア様はどこか不完全だ。

この部屋を出ても、一人ではきっと生きていけない。

ノア様をお守りし、隣に並ぶに相応しいお相手が見つかったとき、ノア様はやっと自由になれるような気がする。

それはきっと、ルドルフ様が仰るように後少し。もうすぐなのかもしれない。

無防備にはしゃいで海を眺めるノア様の姿を思い浮かべる。その隣りには、きっと誰か相応しいお相手がいるだろう。

早くその時が来るといい。

「…きっと見ることができます。必ず。」

わたしのお役目もきっとそれまでだ。
















しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

美容整形するために夜間魔法学校に通っているだなんて言えない

陽花紫
BL
整形男子レイは、異世界転移をした際に整形前の顔に戻ってしまう。 魔法が当たり前の世界で美容医療などあるはずもなく、レイは魔法で整形をするために夜間魔法学校に通いはじめる。幸いにも、魔力はほんの少しだけあった。レイは不純な動機を隠しながら、クラスメイト達と日々を過ごしていく。 小説家になろうにも掲載中です。

僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!

迷路を跳ぶ狐
BL
*あらすじを改稿し、タグを編集する予定です m(_ _)m後からの改稿、追加で申し訳ございません (>_<)  社交界での立ち回りが苦手で、よく夜会でも失敗ばかりの僕は、いつも一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の男と、婚約することになってしまう。  だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。  それでも、公爵家の役に立ちたくて、頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、僕は、正式に婚約が発表される日を、楽しみにしていた。  けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。  一体なんの話だよ!!  否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で、婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。  ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ、僕に告げて去って行った。  寂しいと言えば寂しかった。これまで、彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……  全てを諦めて、王都から遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。  食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていたのだが…… *残酷な描写があり、たまに攻めが受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

処理中です...