37 / 107
第一章 武器屋の経営改善
面談は大切です
しおりを挟む
ガンテスの工房を辞する前に、もう一つだけお願いをしておくことにする。
それは「定期面談」の実施だ。
人材育成にとってもっとも大切なこと。
それは「育てる側」と「育てられる側」の綿密なコミュニケーションだ。
育てる側は常に相手に期待することと、その達成状況を伝えるべきだと思っている。
「言わなくてもわかるだろう」という態度は失敗の元だからである。
夫婦や家族ですら、言葉にしないと伝わらないこともあるのに、いわんや他人をや、だろう。
人に言葉を話す能力が備わっているのは、必然性があるからだ。
以心伝心というのは誤った幻想にすぎない。
他方、育てられる側も、不安や懸念をフィードバックすることで精神的な安定が得られるし、育てる側が「ちゃんと自分を見てくれている」と感じられることでやる気も湧いてくる。
人の成長にとって何より大切なことは「自分が承認されている」と感じられることだ。
いわゆる人間の欲求には段階がある、とはマズローという学者の唱えるところである。
誰かに認められたい、という「尊厳欲求」はかなり高次元の要求だ。
マズローの欲求5段階説という考えでは、この「尊厳欲求」は衣食住といった原始的な欲求や、集団への帰属欲求の上に位置する。
さらにこの「尊厳欲求」が満たされてはじめて、最高レベルの「自己実現欲求」が生まれてくるとされている。
これは、自分の能力を十全に発揮し、クリエイティブなことをしたいという欲求で、まさに職人に求められるものと言える。
つまるところ、人が能力を遺憾なく活かすには、まずもって他人から認められることが大きな原動力足り得るということだ。
「しかし…何を話せばいいんじゃろう」
戸惑うガンテスに、俺なりの考えを伝えておく。
面談は人と人との対話だから、これだという正解はないし、マニュアル的にやりさえすればいいというものではない。
互いの心が通じるように、思いを乗せた言葉を紡ぐほかはないだろう。
ただ、話すことで生まれるものは必ずあるはずだ。
「本当に、気がついたことを伝えるだけでもいいんです。常に褒めろとか叱れとか、そういう縛りはないと思います」
「気づいたこと…か」
「『この人は自分のことをきちんと見てくれているんだな』という信頼感が、さらなる修行に励む気持ちを生み出してくれるでしょう」
「そうか…」
ガンテスが少し苦い顔をした。
俺の怪訝そうな様子が伝わったのか、ガンテスが言葉を続けた。
「いや、面談が嫌なわけじゃない…ただ、息子のことを思い出してな。…あいつとも、面談というか、もっと会話をすればよかったと思ってな」
「これから、話せばいいですよ。いつだって、何かをするに遅すぎるということはないのですから」
「そう、だな…そうしよう。わかった。アイクともきちんと話すようにする」
「はい…俺も時々、顔を出しますので、何か力になれることがあれば言って下さい。俺からも、良い提案があればどんどん言いますんで」
「フン…お主、面白い若者だな。いや、期待させてもらおう。そっちも、短剣は期待して待っていてくれ」
俺達は固い握手を交わした。
ガンテスの腕は太く、手は鋼のように硬い。
そこには、長年の努力と鍛錬の結晶が宿っているように思われた。
生気をすっかり取り戻し、いきいきと働きだしたアイクにも別れを告げ、俺は武器店に戻ることにした。
新商品の目処もついたし、十分な成果と言っていいだろう。
掛率の話は、新商品がしっかり売れるようになってからにしよう。
アイクの成長も見守る必要があるし。
結果として自分の仕事が増えてしまったが、嫌な気はしなかった。
誰かの役に立つということが、これほど楽しいことだとは、銀行員時代には思いもしなかった。
そういう意味では、今の俺は「幸せ」といっていいのかもしれないな。
帰り道、ふとそんなことを思う。
それは「定期面談」の実施だ。
人材育成にとってもっとも大切なこと。
それは「育てる側」と「育てられる側」の綿密なコミュニケーションだ。
育てる側は常に相手に期待することと、その達成状況を伝えるべきだと思っている。
「言わなくてもわかるだろう」という態度は失敗の元だからである。
夫婦や家族ですら、言葉にしないと伝わらないこともあるのに、いわんや他人をや、だろう。
人に言葉を話す能力が備わっているのは、必然性があるからだ。
以心伝心というのは誤った幻想にすぎない。
他方、育てられる側も、不安や懸念をフィードバックすることで精神的な安定が得られるし、育てる側が「ちゃんと自分を見てくれている」と感じられることでやる気も湧いてくる。
人の成長にとって何より大切なことは「自分が承認されている」と感じられることだ。
いわゆる人間の欲求には段階がある、とはマズローという学者の唱えるところである。
誰かに認められたい、という「尊厳欲求」はかなり高次元の要求だ。
マズローの欲求5段階説という考えでは、この「尊厳欲求」は衣食住といった原始的な欲求や、集団への帰属欲求の上に位置する。
さらにこの「尊厳欲求」が満たされてはじめて、最高レベルの「自己実現欲求」が生まれてくるとされている。
これは、自分の能力を十全に発揮し、クリエイティブなことをしたいという欲求で、まさに職人に求められるものと言える。
つまるところ、人が能力を遺憾なく活かすには、まずもって他人から認められることが大きな原動力足り得るということだ。
「しかし…何を話せばいいんじゃろう」
戸惑うガンテスに、俺なりの考えを伝えておく。
面談は人と人との対話だから、これだという正解はないし、マニュアル的にやりさえすればいいというものではない。
互いの心が通じるように、思いを乗せた言葉を紡ぐほかはないだろう。
ただ、話すことで生まれるものは必ずあるはずだ。
「本当に、気がついたことを伝えるだけでもいいんです。常に褒めろとか叱れとか、そういう縛りはないと思います」
「気づいたこと…か」
「『この人は自分のことをきちんと見てくれているんだな』という信頼感が、さらなる修行に励む気持ちを生み出してくれるでしょう」
「そうか…」
ガンテスが少し苦い顔をした。
俺の怪訝そうな様子が伝わったのか、ガンテスが言葉を続けた。
「いや、面談が嫌なわけじゃない…ただ、息子のことを思い出してな。…あいつとも、面談というか、もっと会話をすればよかったと思ってな」
「これから、話せばいいですよ。いつだって、何かをするに遅すぎるということはないのですから」
「そう、だな…そうしよう。わかった。アイクともきちんと話すようにする」
「はい…俺も時々、顔を出しますので、何か力になれることがあれば言って下さい。俺からも、良い提案があればどんどん言いますんで」
「フン…お主、面白い若者だな。いや、期待させてもらおう。そっちも、短剣は期待して待っていてくれ」
俺達は固い握手を交わした。
ガンテスの腕は太く、手は鋼のように硬い。
そこには、長年の努力と鍛錬の結晶が宿っているように思われた。
生気をすっかり取り戻し、いきいきと働きだしたアイクにも別れを告げ、俺は武器店に戻ることにした。
新商品の目処もついたし、十分な成果と言っていいだろう。
掛率の話は、新商品がしっかり売れるようになってからにしよう。
アイクの成長も見守る必要があるし。
結果として自分の仕事が増えてしまったが、嫌な気はしなかった。
誰かの役に立つということが、これほど楽しいことだとは、銀行員時代には思いもしなかった。
そういう意味では、今の俺は「幸せ」といっていいのかもしれないな。
帰り道、ふとそんなことを思う。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる