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第一章 武器屋の経営改善
千里の道も一歩からのようです
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筆記具と木の板を手に、アイクが必死でメモを取る。
ガンテスは不慣れそうにしながらも、炭作りをする意味やそのコツをぽつぽつと言葉にしてくれた。
「柔らかい木で作った炭は火力の調節がし易い。…ここに伐ってある木材はぜんぶ同じ種類だ。よく見てみろ」
なるほど確かに転がっている木材はどれも同じような樹皮で、言われてみれば多少柔らかそうに見えなくも…いや、硬さは正直わからんな。
ただ、言われてみてはじめて気づくものだなと実感する。
先ほどまではただの「木」にしか見えず、その同一性になど全く気づかなかった。
「炭作りは専業の職人がいるぐらい大変だ…でも、いい武器を作ろうと思ったら、自分で安定していい炭をつくれなきゃいけねぇ」
いわく、いい炭ほど火力が安定し、武器の素材になる鉱石を熱するのに都合がいいそうなのだ。
炭屋から買うこともできるのだが、必ずしも質と供給が安定しないので、結局なるべく自分で作ることにしたらしい。
炭焼きだけでも一つの生業になるぐらいの仕事だから、武器職人との兼業はめちゃめちゃ大変そうである。
あまりたくさん武器を作れないのは、炭作りにも時間を取られるからだ、とも説明してくれた。
アイクのとりあえずの目標としては、「炭焼きを一通りマスターする」ということに決めた。
炭焼きがある程度任せられるようになったら、次に武器作りをしっかりと見学してコツを掴み、それから徐々に実技の伝授を行う。
ざっくりとしたイメージではあるが、育成のロードマップもできたので、みんなで昼飯を食うことにした。
俺が持ってきたリーシャの手料理を、炉で温め直すと、いい香りが漂ってくる。。
「武器を作るのって…物凄く大変なことなんですね…」
俺がしみじみと呟くと、ガンテスは豪快に笑う。
「大変だと思うようじゃ、向いてないな。俺は大変だと思ったことはないぞ」
「本当ですか?」
「ガハハハ!まぁちょっと大袈裟だな。たまにはほんの少し嫌気が差すこともある。満足のいく物ができないときとかな」
でもよ、とガンテスは眼を細める。
「俺は武器を作るのが好きだよ。それはもう、寝ても覚めてももっといい武器を作りたいって、そればっかりだな」
「なるほど…」
職人の世界は、生半な覚悟では務まらないとは想像がついたが、恐らく一番大切なことは「好き」という気持ちを持てるかどうかということなのだろう。
好きこそ物の上手なれとはよく言ったものだ。
愛情がなければ何かを極めることなど到底できないだろう。
「ただ、最近はその気持ちがぼやけていたようだ…俺が死んだら、この技術は無駄になるのか、なんてことばかり考えてしまってな」
そこで言葉を止め、ガンテスはじっと俺を見る。
そしておもむろに頭を深々と下げられてしまった。
「だから、礼を言う。こいつを連れてきてくれて、ありがとう」
「いや、とんでもない。俺なんか半端な知識で多少役に立てるかどうかってところですよ…」
「そんなことはないぞ。お主は口だけじゃない。きちんと行動してくれるじゃないか」
それからガンテスはバシン、とアイクの背中をはたいた。
「お前も覚悟を決めろよ。みっちり仕込んでやるからな…それで、俺をあっと言わせるような武器を作ってくれよ」
「…はい…!」
そう答えるアイクには、はじめて笑顔らしきものが浮かんでいた。
俺はその笑顔を見て、少し救われたような気持ちになる。
こんな俺の生半可なスキルでも、誰かを笑顔にできる。
それはただただ純粋に、嬉しいことだった。
「それとな…お主の依頼、引き受けてやろう」
「え、いいんですか!?」
「ああ…久々にやる気が出てきたからな。こいつにもワシの腕を見せてやらんとな」
「ありがとうございます!」
気もそぞろに昼飯を食い終えると、俺は依頼する短剣について自分の構想やリーシャの意見を伝えた。
ガンテスは黙って何度も頷きながら話を聞いてくれ、最後には胸をドンと叩いて「任せろ」と言い切ってくれる。
ガンテスは不慣れそうにしながらも、炭作りをする意味やそのコツをぽつぽつと言葉にしてくれた。
「柔らかい木で作った炭は火力の調節がし易い。…ここに伐ってある木材はぜんぶ同じ種類だ。よく見てみろ」
なるほど確かに転がっている木材はどれも同じような樹皮で、言われてみれば多少柔らかそうに見えなくも…いや、硬さは正直わからんな。
ただ、言われてみてはじめて気づくものだなと実感する。
先ほどまではただの「木」にしか見えず、その同一性になど全く気づかなかった。
「炭作りは専業の職人がいるぐらい大変だ…でも、いい武器を作ろうと思ったら、自分で安定していい炭をつくれなきゃいけねぇ」
いわく、いい炭ほど火力が安定し、武器の素材になる鉱石を熱するのに都合がいいそうなのだ。
炭屋から買うこともできるのだが、必ずしも質と供給が安定しないので、結局なるべく自分で作ることにしたらしい。
炭焼きだけでも一つの生業になるぐらいの仕事だから、武器職人との兼業はめちゃめちゃ大変そうである。
あまりたくさん武器を作れないのは、炭作りにも時間を取られるからだ、とも説明してくれた。
アイクのとりあえずの目標としては、「炭焼きを一通りマスターする」ということに決めた。
炭焼きがある程度任せられるようになったら、次に武器作りをしっかりと見学してコツを掴み、それから徐々に実技の伝授を行う。
ざっくりとしたイメージではあるが、育成のロードマップもできたので、みんなで昼飯を食うことにした。
俺が持ってきたリーシャの手料理を、炉で温め直すと、いい香りが漂ってくる。。
「武器を作るのって…物凄く大変なことなんですね…」
俺がしみじみと呟くと、ガンテスは豪快に笑う。
「大変だと思うようじゃ、向いてないな。俺は大変だと思ったことはないぞ」
「本当ですか?」
「ガハハハ!まぁちょっと大袈裟だな。たまにはほんの少し嫌気が差すこともある。満足のいく物ができないときとかな」
でもよ、とガンテスは眼を細める。
「俺は武器を作るのが好きだよ。それはもう、寝ても覚めてももっといい武器を作りたいって、そればっかりだな」
「なるほど…」
職人の世界は、生半な覚悟では務まらないとは想像がついたが、恐らく一番大切なことは「好き」という気持ちを持てるかどうかということなのだろう。
好きこそ物の上手なれとはよく言ったものだ。
愛情がなければ何かを極めることなど到底できないだろう。
「ただ、最近はその気持ちがぼやけていたようだ…俺が死んだら、この技術は無駄になるのか、なんてことばかり考えてしまってな」
そこで言葉を止め、ガンテスはじっと俺を見る。
そしておもむろに頭を深々と下げられてしまった。
「だから、礼を言う。こいつを連れてきてくれて、ありがとう」
「いや、とんでもない。俺なんか半端な知識で多少役に立てるかどうかってところですよ…」
「そんなことはないぞ。お主は口だけじゃない。きちんと行動してくれるじゃないか」
それからガンテスはバシン、とアイクの背中をはたいた。
「お前も覚悟を決めろよ。みっちり仕込んでやるからな…それで、俺をあっと言わせるような武器を作ってくれよ」
「…はい…!」
そう答えるアイクには、はじめて笑顔らしきものが浮かんでいた。
俺はその笑顔を見て、少し救われたような気持ちになる。
こんな俺の生半可なスキルでも、誰かを笑顔にできる。
それはただただ純粋に、嬉しいことだった。
「それとな…お主の依頼、引き受けてやろう」
「え、いいんですか!?」
「ああ…久々にやる気が出てきたからな。こいつにもワシの腕を見せてやらんとな」
「ありがとうございます!」
気もそぞろに昼飯を食い終えると、俺は依頼する短剣について自分の構想やリーシャの意見を伝えた。
ガンテスは黙って何度も頷きながら話を聞いてくれ、最後には胸をドンと叩いて「任せろ」と言い切ってくれる。
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