山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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楽園の涯

25 山賊王女 2

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 ノアがフリーダに言ったとおり、国王ヴィルヘルム三世暗殺にまつわる騒動は、ことの重大さに比して驚くほど短期間で終息した。
 まずは暗殺の夜に急遽きゅうきょ招集された六長官会議で、ヴィルヘルムの実弟であり王位継承権の最上位者であるエーギルの即位が決定された。積極的に異を唱える者はおらず、時の黎明館ツー・グリーニンで事後報告を受けた王妃も、諦めたように結果を受け入れたという。
 そしてその翌々日には、エーギルが禅譲ぜんじょうするという形で、ノアの即位が決定した。
「国民はノア様の即位を歓迎しております。戴冠たいかん式後の祝賀行列は大規模になされたほうが……」
「父上の忌中きちゅうでもある。内々に行うだけでよいだろう」
「しかし、我が国の伝統としては……」
「くどいな。そんなことを言っていられるほど、国庫に余裕もないだろう。アッペルトフト公爵家から召し上げた財貨がなければ、春宵しゅんしょうの火祭りすら中止を考えねばならなかったほどなのだぞ」
 リードホルム王の戴冠式は、時の黎明館において、最低でも数十人の高官が居並ぶ中、できうる限り豪壮ごうそうに執り行われる。式典後はぜいを尽くした遊宴ゆうえんに続くのが通例だ。
 だがノアの戴冠式は、十人に満たない高官のみが列席し、あらかじめ簡潔にと指定された典礼長官の祝辞と、現王エーギルから王冠と王笏おうしゃくを儀礼的に譲り受けるだけで、一時間もかからずに終わってしまった。
 ノアは即位に際し一貫して、浮ついたそぶりを見せなかった。その双肩そうけんにのしかかる重責じゅうせきとリードホルムの窮状きゅうじょうかんがみれば、笑顔など浮かべられようはずもない。船底に穴のあいた頃合いで船頭を任され、不敵に笑うような客気かっきとも自信とも、ノアは無縁な性格だった。

 エーギルはリードホルム王国の歴史上、もっとも在位期間の短い王となった。
 本人は一日として王でいるつもりはなかったのだが、式典列席者の調整に時間を要し、エーギルは在位二日目に退位して太上王だいじょうおうとなる。
 失敗に終わった毒殺の後遺症で失明し、目が見えないがために佞臣ねいしんに操られた王は過去に存在しており、リードホルム王家に苦い教訓を残していた。エーギルはそのてつを踏まぬように、と退位を申し出たのだが、これはあくまで表向きの申し開きである。
 この撞球ビリヤードのボールのようなあわただしい王座の遷移せんいは、もとを辿たどればエーギルがノアにもちかけた宮廷工作だった。
 リースベットの遺志に従ってノアと会見するにあたり、エーギルは現在のリードホルムについての情報を集めた。そして想像していたよりも窮地きゅうちにあることを知り、禍根かこんのひとつである兄ヴィルヘルムの影響力を排除するため、ノアに協力を申し出たのだった。

 かつて、私利私欲から実弟エーギルの命さえ奪おうとしたヴィルヘルムについて、当人は多くを語ろうとしない。少なくとも個人的な復讐のためにヘルストランドに舞い戻ったのでないことは、その動向からうかがい知れる。そのエーギルが、ヴィルヘルムの暗殺者であるユーホルトとわずかながら繋がりがあったことは、当人たちさえあずかり知らぬことだったのだから。
 ヴィルヘルム暗殺事件のあと、ノアはひとつ気がついたことがある。
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