山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

文字の大きさ
175 / 247
ジュニエスの戦い

48 偽装 4

しおりを挟む
「ロードストレーム隊長、今日の夜警はファールクランツ様でよろしかったので……?」
「いや、そんなはずはありません。この戦いのあいだ、彼を当番から外せと言っておいたはずだが」
「そうでしたよね。困りましたね、交替者が……」
 ロードストレームは何度かうなずきながら、女兵士の言葉を右手を上げてさえぎる。
「仕方ない、私が誰か見繕みつくろいましょう」
「申し訳ありません」
「ローセンダール様、少々時間を……」
「構わないわ。ランバンデットで落ち合いましょう」
 ロードストレームは戦闘馬車上のベアトリスに頭を下げ、女兵士とともに足早に立ち去った。
 その後も報告の列は続いた。ベアトリスは情報収集に重きを置き、リードホルム軍の、より端的たんてきにはラインフェルトの動向をつぶさに報告させていたのだ。
 今日の報告にはベアトリスの知略の網に引っかかる内容のものはなく、人数の割には短時間で、伝令兵は最後の一人となった。その伝令兵は、遠方から駆けてきたのか肩を大きく上下させており、衣服も土や草葉の色素で汚れている。
 どこか不穏ふおんな様子の伝令兵に、ベアトリスは不審の目を向けた。
「……どうしたのです?」
 伝令兵の男は顔を伏せたまま口角を吊り上げた。
「……敵将ローセンダール! 覚悟!」
 男はそう叫ぶと大きく跳躍ちょうやくし、懐から短剣を抜いてベアトリスに飛びかかった。
 ベアトリスの座席は大人の頭よりも高い位置にあるが、近衛兵ヴォールファートはさらに高く飛び上がり、上方から斬りかかる。咄嗟とっさにベアトリスは座席に備え付けていた剣を取り、さやから抜かないまま両手で構え斬撃を受け止めた。
 ヴォールファートの一撃は鞘を断ち割り、受けた刀身が曲がるほどのものだった。
「ほう、貴族ごときが近衛兵の剣を受け止めるか」
 ベアトリスは緊張混じりの笑みを浮かべる。
「ローセンダール様!」
 周囲の参謀たちが悲鳴を上げるが、戦闘馬車上のヴォールファートには手が届かず、止めに入ることはできない。
 弓兵を呼ぶ声や長槍を持ってくるよう叫ぶ声をあざ笑うように、ヴォールファートがゆっくりとベアトリスを追い詰めてゆく。
「フフ……貴様を討ち、このヴォールファートが近衛兵の次期隊長よ!」
 ヴォールファートはベアトリスをいたぶるように剣を振り下ろす。彼女の細腕では、受けた剣ごと押し切られそうだ。狭い座席にベアトリスを押し倒すように、ヴォールファートは剣に力を込めた。
「こうなれば一軍の将もただの女よ。遊んでいる暇がないのが残念だ」
「……わたくしを誰だと思っていますの?」
 ベアトリスが左脚を一歩前に出すと、金属の留め金が外れるような音が聞こえた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...