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ジュニエスの戦い
48 偽装 4
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「ロードストレーム隊長、今日の夜警はファールクランツ様でよろしかったので……?」
「いや、そんなはずはありません。この戦いのあいだ、彼を当番から外せと言っておいたはずだが」
「そうでしたよね。困りましたね、交替者が……」
ロードストレームは何度か頷きながら、女兵士の言葉を右手を上げて遮る。
「仕方ない、私が誰か見繕いましょう」
「申し訳ありません」
「ローセンダール様、少々時間を……」
「構わないわ。ランバンデットで落ち合いましょう」
ロードストレームは戦闘馬車上のベアトリスに頭を下げ、女兵士とともに足早に立ち去った。
その後も報告の列は続いた。ベアトリスは情報収集に重きを置き、リードホルム軍の、より端的にはラインフェルトの動向をつぶさに報告させていたのだ。
今日の報告にはベアトリスの知略の網に引っかかる内容のものはなく、人数の割には短時間で、伝令兵は最後の一人となった。その伝令兵は、遠方から駆けてきたのか肩を大きく上下させており、衣服も土や草葉の色素で汚れている。
どこか不穏な様子の伝令兵に、ベアトリスは不審の目を向けた。
「……どうしたのです?」
伝令兵の男は顔を伏せたまま口角を吊り上げた。
「……敵将ローセンダール! 覚悟!」
男はそう叫ぶと大きく跳躍し、懐から短剣を抜いてベアトリスに飛びかかった。
ベアトリスの座席は大人の頭よりも高い位置にあるが、近衛兵ヴォールファートはさらに高く飛び上がり、上方から斬りかかる。咄嗟にベアトリスは座席に備え付けていた剣を取り、鞘から抜かないまま両手で構え斬撃を受け止めた。
ヴォールファートの一撃は鞘を断ち割り、受けた刀身が曲がるほどのものだった。
「ほう、貴族ごときが近衛兵の剣を受け止めるか」
ベアトリスは緊張混じりの笑みを浮かべる。
「ローセンダール様!」
周囲の参謀たちが悲鳴を上げるが、戦闘馬車上のヴォールファートには手が届かず、止めに入ることはできない。
弓兵を呼ぶ声や長槍を持ってくるよう叫ぶ声をあざ笑うように、ヴォールファートがゆっくりとベアトリスを追い詰めてゆく。
「フフ……貴様を討ち、このヴォールファートが近衛兵の次期隊長よ!」
ヴォールファートはベアトリスをいたぶるように剣を振り下ろす。彼女の細腕では、受けた剣ごと押し切られそうだ。狭い座席にベアトリスを押し倒すように、ヴォールファートは剣に力を込めた。
「こうなれば一軍の将もただの女よ。遊んでいる暇がないのが残念だ」
「……わたくしを誰だと思っていますの?」
ベアトリスが左脚を一歩前に出すと、金属の留め金が外れるような音が聞こえた。
「いや、そんなはずはありません。この戦いのあいだ、彼を当番から外せと言っておいたはずだが」
「そうでしたよね。困りましたね、交替者が……」
ロードストレームは何度か頷きながら、女兵士の言葉を右手を上げて遮る。
「仕方ない、私が誰か見繕いましょう」
「申し訳ありません」
「ローセンダール様、少々時間を……」
「構わないわ。ランバンデットで落ち合いましょう」
ロードストレームは戦闘馬車上のベアトリスに頭を下げ、女兵士とともに足早に立ち去った。
その後も報告の列は続いた。ベアトリスは情報収集に重きを置き、リードホルム軍の、より端的にはラインフェルトの動向をつぶさに報告させていたのだ。
今日の報告にはベアトリスの知略の網に引っかかる内容のものはなく、人数の割には短時間で、伝令兵は最後の一人となった。その伝令兵は、遠方から駆けてきたのか肩を大きく上下させており、衣服も土や草葉の色素で汚れている。
どこか不穏な様子の伝令兵に、ベアトリスは不審の目を向けた。
「……どうしたのです?」
伝令兵の男は顔を伏せたまま口角を吊り上げた。
「……敵将ローセンダール! 覚悟!」
男はそう叫ぶと大きく跳躍し、懐から短剣を抜いてベアトリスに飛びかかった。
ベアトリスの座席は大人の頭よりも高い位置にあるが、近衛兵ヴォールファートはさらに高く飛び上がり、上方から斬りかかる。咄嗟にベアトリスは座席に備え付けていた剣を取り、鞘から抜かないまま両手で構え斬撃を受け止めた。
ヴォールファートの一撃は鞘を断ち割り、受けた刀身が曲がるほどのものだった。
「ほう、貴族ごときが近衛兵の剣を受け止めるか」
ベアトリスは緊張混じりの笑みを浮かべる。
「ローセンダール様!」
周囲の参謀たちが悲鳴を上げるが、戦闘馬車上のヴォールファートには手が届かず、止めに入ることはできない。
弓兵を呼ぶ声や長槍を持ってくるよう叫ぶ声をあざ笑うように、ヴォールファートがゆっくりとベアトリスを追い詰めてゆく。
「フフ……貴様を討ち、このヴォールファートが近衛兵の次期隊長よ!」
ヴォールファートはベアトリスをいたぶるように剣を振り下ろす。彼女の細腕では、受けた剣ごと押し切られそうだ。狭い座席にベアトリスを押し倒すように、ヴォールファートは剣に力を込めた。
「こうなれば一軍の将もただの女よ。遊んでいる暇がないのが残念だ」
「……わたくしを誰だと思っていますの?」
ベアトリスが左脚を一歩前に出すと、金属の留め金が外れるような音が聞こえた。
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