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ジュニエスの戦い
46 偽装 2
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リースベットはノルドグレーン軍に突進した。接敵直前で手綱を引いて馬体を翻すと、振り向きざまに薙刀の一撃を叩き込む。落雷のような轟音が鳴り響き、歩兵の構えていた大盾が吹き飛んだ。メシュヴィツが驚き目を丸くする。
「見よ、これが我らの力だ!」
リースベットの勇戦を目の当たりにした兵が手を止め、剣を掲げてそれを喧伝するノアに視線が集まる。
「ノア王子が……?」
「間違いない、ノア様だ」
「王子が我らとともに戦われているぞ!」
「リードホルム兵よ、反撃の時だ!」
ノアに鼓舞された部隊が一挙に沸き立つ。
それに対峙するノルドグレーン軍は、リースベットの攻撃によって角をえぐり取られたように陣形が崩れている。リードホルム兵がその一角からなだれ込んだ。
「よし、一度優位を取れれば、敵を退かせて部隊再編の時間も作れよう。状況は一挙に好転する」
「さあ、こんなもんでどうだ……あっ、てめえ」
戦いから戻ったリースベットが、メシュヴィツの姿に不快感をあらわにした。
「何だよ、出てきたのかメシュヴィツ」
「貴様の実力は認めるが……傭兵ひとりに王子の身を任すわけにはゆかん」
「そうかい……まあいいや、次はどこに行く?」
「湖に面して布陣する部隊まで、同じように援護して回ろう」
「よしきた」
「メシュヴィツ、その間も、私が出てきたことを喧伝して回ってくれ」
「お任せを。声の大きさには自信があります」
行き先を話し合うリースベットの背後で、倒れていたノルドグレーン兵が、ゆっくりと立ち上がった。
「……リードホルムの山猿どもが!」
ノルドグレーン兵が剣を抜いてリースベットに飛びかかる。不意打ちに気付いたリースベットは防御の姿勢をとったが、その歩兵をノアが斬り捨てた。
「やるじゃん、王子様」
「……助けられてばかりではな」
妹に兄が、という前置きの言葉を、ノアは省略せざるを得なかった。
「申し訳ありません。このメシュヴィツが付いていながら……」
「そのメシュヴィツに助けられなくても、あたしは大丈夫だから気にすんな」
「貴様に言ったのではないわ!」
「うるせえ。役立たずだからとっとと帰れっ言ってんだよ」
「何だと貴様!」
「ふたりとも、いい加減にしないか。次の部隊へ回るぞ」
優勢のうちに推移していたはずの戦場で、レーフクヴィスト連隊が苦戦しはじめた――その報告は、すぐにベアトリス・ローセンダールのもとに届けられた。
「主力軍の背後で遊弋していた、ラインフェルト麾下の一軍が動いたのではないのね?」
「はい。どうやらあのノア王子が前線に出て、士気を上げるため兵たちを鼓舞して回っているとか」
親衛隊長ロードストレームの報告にベアトリスは眉をひそめ、菫青石の瞳を東北東の戦場に向ける。そこには、ラインフェルト配下の一部とマリーツの部隊が前日よりも後方に配置されており、当初ベアトリスは、そちらの動きを警戒していた。
事実これらの部隊は、主力軍が崩れた場合を見越してラインフェルトが配置していたものだった。
「なんて無謀なことを……いえ、近衛兵でも護衛につければ、不可能なことではないわね」
「それが、近衛兵は残存する全隊員が、ノルランデル隊と戦闘中とのこと」
「どういうこと……? まさか近衛兵を一部温存していた……」
ベアトリスは戦闘馬車の席上で、僅かなあいだ、頬に人差し指を当て真剣な表情で考え込んでいた。
「いかがなさいますか? いっそ、この機にノア王子を……」
ベアトリスの顔に余裕の笑みが戻る。
「見よ、これが我らの力だ!」
リースベットの勇戦を目の当たりにした兵が手を止め、剣を掲げてそれを喧伝するノアに視線が集まる。
「ノア王子が……?」
「間違いない、ノア様だ」
「王子が我らとともに戦われているぞ!」
「リードホルム兵よ、反撃の時だ!」
ノアに鼓舞された部隊が一挙に沸き立つ。
それに対峙するノルドグレーン軍は、リースベットの攻撃によって角をえぐり取られたように陣形が崩れている。リードホルム兵がその一角からなだれ込んだ。
「よし、一度優位を取れれば、敵を退かせて部隊再編の時間も作れよう。状況は一挙に好転する」
「さあ、こんなもんでどうだ……あっ、てめえ」
戦いから戻ったリースベットが、メシュヴィツの姿に不快感をあらわにした。
「何だよ、出てきたのかメシュヴィツ」
「貴様の実力は認めるが……傭兵ひとりに王子の身を任すわけにはゆかん」
「そうかい……まあいいや、次はどこに行く?」
「湖に面して布陣する部隊まで、同じように援護して回ろう」
「よしきた」
「メシュヴィツ、その間も、私が出てきたことを喧伝して回ってくれ」
「お任せを。声の大きさには自信があります」
行き先を話し合うリースベットの背後で、倒れていたノルドグレーン兵が、ゆっくりと立ち上がった。
「……リードホルムの山猿どもが!」
ノルドグレーン兵が剣を抜いてリースベットに飛びかかる。不意打ちに気付いたリースベットは防御の姿勢をとったが、その歩兵をノアが斬り捨てた。
「やるじゃん、王子様」
「……助けられてばかりではな」
妹に兄が、という前置きの言葉を、ノアは省略せざるを得なかった。
「申し訳ありません。このメシュヴィツが付いていながら……」
「そのメシュヴィツに助けられなくても、あたしは大丈夫だから気にすんな」
「貴様に言ったのではないわ!」
「うるせえ。役立たずだからとっとと帰れっ言ってんだよ」
「何だと貴様!」
「ふたりとも、いい加減にしないか。次の部隊へ回るぞ」
優勢のうちに推移していたはずの戦場で、レーフクヴィスト連隊が苦戦しはじめた――その報告は、すぐにベアトリス・ローセンダールのもとに届けられた。
「主力軍の背後で遊弋していた、ラインフェルト麾下の一軍が動いたのではないのね?」
「はい。どうやらあのノア王子が前線に出て、士気を上げるため兵たちを鼓舞して回っているとか」
親衛隊長ロードストレームの報告にベアトリスは眉をひそめ、菫青石の瞳を東北東の戦場に向ける。そこには、ラインフェルト配下の一部とマリーツの部隊が前日よりも後方に配置されており、当初ベアトリスは、そちらの動きを警戒していた。
事実これらの部隊は、主力軍が崩れた場合を見越してラインフェルトが配置していたものだった。
「なんて無謀なことを……いえ、近衛兵でも護衛につければ、不可能なことではないわね」
「それが、近衛兵は残存する全隊員が、ノルランデル隊と戦闘中とのこと」
「どういうこと……? まさか近衛兵を一部温存していた……」
ベアトリスは戦闘馬車の席上で、僅かなあいだ、頬に人差し指を当て真剣な表情で考え込んでいた。
「いかがなさいますか? いっそ、この機にノア王子を……」
ベアトリスの顔に余裕の笑みが戻る。
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