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ジュニエスの戦い
31 戦火 4
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「ベアトリス様、グスタフソン将軍が苦戦しているようです」
ノルドグレーンの伝令兵が、戦場に持ち込まれた薔薇の花園のような戦闘馬車上に戦況を報告している。
ベアトリスにとって不愉快な内容だが、当人にさほど苛立った様子はない。傍に控えていた親衛隊長ロードストレームは、直立不動のまま戦場を見つめている。
「分かっているわ。被害はどれほど?」
風に煽られ乱れた髪を直しながら、ベアトリスが聞き返す。
「ペルガメント連隊長の隊を中心に、300か、多くても400ほどかと思われます」
「そう。上々ね」
「……は?」
「相手は山や古城に蟠踞する山賊ではないのよ。かのウルフ・ラインフェルトとその直属部隊に相対してその程度の損害なら、褒美を取らせてもよいくらいですわ」
戦闘馬車上の座席でベアトリスは甲高く笑い、ロードストレームが目配せして伝令兵を下がらせた。
そして南北の緒戦に遅れて、ようやくランガス湖南側の主力軍同士も火花を散らし始めた。
ラインフェルトの北軍と同様、こちらも重装歩兵の横陣が正面から、その規模を拡大してぶつかり合った。南の丘からはリードホルム軍の弓矢部隊が援護射撃を行っているが、重装歩兵の構える大盾に阻まれ効果は小さい。
やはり膠着状態に陥るかと思われたが、圧倒的な力でノルドグレーンの陣を破壊する一団があった。リードホルムの近衛兵だ。
「我こそは第七十代近衛兵隊長、エリオット・フリークルンドである! ノルドグレーンを滅亡に導く名と知れ!」
フリークルンド率いる十六名の近衛兵はノルドグレーン軍に突撃し、隙間なく構えられた大盾を紙切れのように打ち破り、密集陣形に風穴を開ける。そのまま勢いを落とすことなく敵陣に突入し、騎馬の突撃にも耐える重装歩兵隊を次々と粉砕していった。
とりわけ先頭を走るフリークルンドの突進力は凄まじく、彼の振るう巨大な斧槍は、頑強な大盾を風に舞う凧のように天高く弾き飛ばした。
「ついに出ましたわね……」
野生動物や厄災に出くわしたかのようにベアトリスがつぶやく。これまでの被害報告時と比べると、その顔にはかすかに戦慄が影を落としている。
フリークルンド隊はノルドグレーン軍の陣に深く切り込み、はじめは辺り構わず手近な敵を攻撃しているようだった。だが途中から明確に方角を定め、その途上にある方陣を突き崩しながら移動を始めた。それはベアトリスの乗る、あまりに目立ちすぎる巨大な戦闘馬車のある方角だ。
敵の本陣を突き、総指揮官を討ち取る――それは誰もが夢想し、ほとんどの場合はなし得ずに敗れる。常識的には無謀としか言えないその打開策も、近衛兵ならばあるいは――ベアトリスの急襲を命じたノアはそう考え、静かに戦況を見つめていた。
ノルドグレーンの伝令兵が、戦場に持ち込まれた薔薇の花園のような戦闘馬車上に戦況を報告している。
ベアトリスにとって不愉快な内容だが、当人にさほど苛立った様子はない。傍に控えていた親衛隊長ロードストレームは、直立不動のまま戦場を見つめている。
「分かっているわ。被害はどれほど?」
風に煽られ乱れた髪を直しながら、ベアトリスが聞き返す。
「ペルガメント連隊長の隊を中心に、300か、多くても400ほどかと思われます」
「そう。上々ね」
「……は?」
「相手は山や古城に蟠踞する山賊ではないのよ。かのウルフ・ラインフェルトとその直属部隊に相対してその程度の損害なら、褒美を取らせてもよいくらいですわ」
戦闘馬車上の座席でベアトリスは甲高く笑い、ロードストレームが目配せして伝令兵を下がらせた。
そして南北の緒戦に遅れて、ようやくランガス湖南側の主力軍同士も火花を散らし始めた。
ラインフェルトの北軍と同様、こちらも重装歩兵の横陣が正面から、その規模を拡大してぶつかり合った。南の丘からはリードホルム軍の弓矢部隊が援護射撃を行っているが、重装歩兵の構える大盾に阻まれ効果は小さい。
やはり膠着状態に陥るかと思われたが、圧倒的な力でノルドグレーンの陣を破壊する一団があった。リードホルムの近衛兵だ。
「我こそは第七十代近衛兵隊長、エリオット・フリークルンドである! ノルドグレーンを滅亡に導く名と知れ!」
フリークルンド率いる十六名の近衛兵はノルドグレーン軍に突撃し、隙間なく構えられた大盾を紙切れのように打ち破り、密集陣形に風穴を開ける。そのまま勢いを落とすことなく敵陣に突入し、騎馬の突撃にも耐える重装歩兵隊を次々と粉砕していった。
とりわけ先頭を走るフリークルンドの突進力は凄まじく、彼の振るう巨大な斧槍は、頑強な大盾を風に舞う凧のように天高く弾き飛ばした。
「ついに出ましたわね……」
野生動物や厄災に出くわしたかのようにベアトリスがつぶやく。これまでの被害報告時と比べると、その顔にはかすかに戦慄が影を落としている。
フリークルンド隊はノルドグレーン軍の陣に深く切り込み、はじめは辺り構わず手近な敵を攻撃しているようだった。だが途中から明確に方角を定め、その途上にある方陣を突き崩しながら移動を始めた。それはベアトリスの乗る、あまりに目立ちすぎる巨大な戦闘馬車のある方角だ。
敵の本陣を突き、総指揮官を討ち取る――それは誰もが夢想し、ほとんどの場合はなし得ずに敗れる。常識的には無謀としか言えないその打開策も、近衛兵ならばあるいは――ベアトリスの急襲を命じたノアはそう考え、静かに戦況を見つめていた。
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