山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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逆賊討伐

13 割れた鏡

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「じゃあ、僕から行くよ」
「しっかりね、コニー」
 二手に別れたホード兄弟のうち、剣を左手に持ったコニーがアウロラに攻めかかる。
 コニーの疾駆しっくはアウロラほどの速さはないが、足音のしない不思議なものだった。その剣はリースベットと比べれば重さも鋭さも一歩劣り、アウロラにとっては脅威を感じるほどではない。
――一人ひとりはそれほどでもないわけね!
 アウロラは斬撃を素早く避けてコニーの背後に回り、右の肩口めがけてカリ・スタブを振り下ろした。硬い金属音が通路に響き渡る。アウロラの打撃は、コニーが左の脇の下から回した剣に阻まれていた。
 驚くアウロラの背後に、今度はボリスが襲いかかる。アウロラは大きく跳躍して回避し、ボリスの剣が空を切った。
「すごい速さだね。捉えきれないや」
「でも大丈夫、少しずつ慣れていくよ」
――後ろから来るのを察したとしても、どこを狙ってるかなんて分かるはずない。普通はこうやって離れるしかないのよ!
 内心で不条理を叫びながらも、アウロラは渾身の力を込めてコニーに横薙ぎの打撃を加える。コニーは剣を垂直に構えて受けながらも、うわっ、と小さく叫んでよろめいた。
 だがそれ以上の追撃はボリスが許さない。アウロラはカリ・スタブを十字に交差させ、ボリスの剣を受け止めた。そこに、よろけて背を向けていたままのコニーの剣が追撃を加える。左のカリ・スタブで辛うじて受け止めたが、当てずっぽうに放った一撃ではなく、正確にアウロラの位置を捉えていた。
 カリ・スタブのに二本の剣を引っ掛けてうまく振り払い、アウロラはホード兄弟の間から飛び退いた。
「分かってきたよ、彼女の動きが」
「次で確実に、終わりにしようね」
 これまでの攻撃をアウロラが間一髪でしのぎ切れたのは、二刀流の使い手であるリースベットとの訓練が功を奏していた。だが、ホード兄弟の攻撃が今よりも正確さを増すとしたら、彼女にそれを防ぎきれる自信はない。
――援護を頼むしかないかしら……自信たっぷりの態度で出てきたのに、近衛兵をたった一人しか倒せないなんて……。
 アウロラが守勢に回り足を止めたことで、風に舞っていた砂塵さじんがおさまりつつある。アウロラと彼女にゆっくりと歩み寄るホード兄弟の姿が、明瞭めいりょうに浮かび上がってきた。
 ホード兄弟の背後に控える六人の近衛兵が、アウロラをいっそう焦らせる。
 視界が晴れアウロラの顔を目にした髭面の近衛兵が、唐突に叫び声を上げた。
「あの小娘! あの騒ぎの折、わしの顔を足蹴あしげにした端女はしためではないか!」
「は?」
 アウロラの記憶には、その中年男の顔は存在しなかった。だが、時の黎明館ツー・グリーニンを飛び出す際、誰かの顔を踏み台にしたことは、圧倒的な開放感に紐付けられ鮮明に覚えている。
 アウロラは小さく頷き、ホード兄弟とわずかに距離を置いた。
「そこのヒゲオヤジ! また踏まれたいんならかかってきなさいよ!」
「なんじゃと?!」
 アウロラは何を思ったか、その中年男を大声で挑発した。
「ほらほら、今度は両足で蹴飛ばしてやろうかしら!」
「お、おのれ下賤げせんの分際で!」
 はやし立てるようにカリ・スタブを頭上で打ち合わせるアウロラに向かって、中年男は顔を真赤にして剣を抜き走りかかる。その動きは恐ろしく敏捷びんしょうで、確かに彼も近衛兵の一員たる実力の持ち主ではあるようだ。
「待てスカンツェ、ホード兄弟の戦いを邪魔するな!」
 スカンツェと呼ばれた髭面の中年男はアムレアンの制止も聞かず、耳まで紅潮こうちょうさせてアウロラに斬りかかった。
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