109 / 247
逆賊討伐
13 割れた鏡
しおりを挟む
「じゃあ、僕から行くよ」
「しっかりね、コニー」
二手に別れたホード兄弟のうち、剣を左手に持ったコニーがアウロラに攻めかかる。
コニーの疾駆はアウロラほどの速さはないが、足音のしない不思議なものだった。その剣はリースベットと比べれば重さも鋭さも一歩劣り、アウロラにとっては脅威を感じるほどではない。
――一人ひとりはそれほどでもないわけね!
アウロラは斬撃を素早く避けてコニーの背後に回り、右の肩口めがけてカリ・スタブを振り下ろした。硬い金属音が通路に響き渡る。アウロラの打撃は、コニーが左の脇の下から回した剣に阻まれていた。
驚くアウロラの背後に、今度はボリスが襲いかかる。アウロラは大きく跳躍して回避し、ボリスの剣が空を切った。
「すごい速さだね。捉えきれないや」
「でも大丈夫、少しずつ慣れていくよ」
――後ろから来るのを察したとしても、どこを狙ってるかなんて分かるはずない。普通はこうやって離れるしかないのよ!
内心で不条理を叫びながらも、アウロラは渾身の力を込めてコニーに横薙ぎの打撃を加える。コニーは剣を垂直に構えて受けながらも、うわっ、と小さく叫んでよろめいた。
だがそれ以上の追撃はボリスが許さない。アウロラはカリ・スタブを十字に交差させ、ボリスの剣を受け止めた。そこに、よろけて背を向けていたままのコニーの剣が追撃を加える。左のカリ・スタブで辛うじて受け止めたが、当てずっぽうに放った一撃ではなく、正確にアウロラの位置を捉えていた。
カリ・スタブの返しに二本の剣を引っ掛けてうまく振り払い、アウロラはホード兄弟の間から飛び退いた。
「分かってきたよ、彼女の動きが」
「次で確実に、終わりにしようね」
これまでの攻撃をアウロラが間一髪でしのぎ切れたのは、二刀流の使い手であるリースベットとの訓練が功を奏していた。だが、ホード兄弟の攻撃が今よりも正確さを増すとしたら、彼女にそれを防ぎきれる自信はない。
――援護を頼むしかないかしら……自信たっぷりの態度で出てきたのに、近衛兵をたった一人しか倒せないなんて……。
アウロラが守勢に回り足を止めたことで、風に舞っていた砂塵がおさまりつつある。アウロラと彼女にゆっくりと歩み寄るホード兄弟の姿が、明瞭に浮かび上がってきた。
ホード兄弟の背後に控える六人の近衛兵が、アウロラをいっそう焦らせる。
視界が晴れアウロラの顔を目にした髭面の近衛兵が、唐突に叫び声を上げた。
「あの小娘! あの騒ぎの折、儂の顔を足蹴にした端女ではないか!」
「は?」
アウロラの記憶には、その中年男の顔は存在しなかった。だが、時の黎明館を飛び出す際、誰かの顔を踏み台にしたことは、圧倒的な開放感に紐付けられ鮮明に覚えている。
アウロラは小さく頷き、ホード兄弟とわずかに距離を置いた。
「そこのヒゲオヤジ! また踏まれたいんならかかってきなさいよ!」
「なんじゃと?!」
アウロラは何を思ったか、その中年男を大声で挑発した。
「ほらほら、今度は両足で蹴飛ばしてやろうかしら!」
「お、おのれ下賤の分際で!」
囃し立てるようにカリ・スタブを頭上で打ち合わせるアウロラに向かって、中年男は顔を真赤にして剣を抜き走りかかる。その動きは恐ろしく敏捷で、確かに彼も近衛兵の一員たる実力の持ち主ではあるようだ。
「待てスカンツェ、ホード兄弟の戦いを邪魔するな!」
スカンツェと呼ばれた髭面の中年男はアムレアンの制止も聞かず、耳まで紅潮させてアウロラに斬りかかった。
「しっかりね、コニー」
二手に別れたホード兄弟のうち、剣を左手に持ったコニーがアウロラに攻めかかる。
コニーの疾駆はアウロラほどの速さはないが、足音のしない不思議なものだった。その剣はリースベットと比べれば重さも鋭さも一歩劣り、アウロラにとっては脅威を感じるほどではない。
――一人ひとりはそれほどでもないわけね!
アウロラは斬撃を素早く避けてコニーの背後に回り、右の肩口めがけてカリ・スタブを振り下ろした。硬い金属音が通路に響き渡る。アウロラの打撃は、コニーが左の脇の下から回した剣に阻まれていた。
驚くアウロラの背後に、今度はボリスが襲いかかる。アウロラは大きく跳躍して回避し、ボリスの剣が空を切った。
「すごい速さだね。捉えきれないや」
「でも大丈夫、少しずつ慣れていくよ」
――後ろから来るのを察したとしても、どこを狙ってるかなんて分かるはずない。普通はこうやって離れるしかないのよ!
内心で不条理を叫びながらも、アウロラは渾身の力を込めてコニーに横薙ぎの打撃を加える。コニーは剣を垂直に構えて受けながらも、うわっ、と小さく叫んでよろめいた。
だがそれ以上の追撃はボリスが許さない。アウロラはカリ・スタブを十字に交差させ、ボリスの剣を受け止めた。そこに、よろけて背を向けていたままのコニーの剣が追撃を加える。左のカリ・スタブで辛うじて受け止めたが、当てずっぽうに放った一撃ではなく、正確にアウロラの位置を捉えていた。
カリ・スタブの返しに二本の剣を引っ掛けてうまく振り払い、アウロラはホード兄弟の間から飛び退いた。
「分かってきたよ、彼女の動きが」
「次で確実に、終わりにしようね」
これまでの攻撃をアウロラが間一髪でしのぎ切れたのは、二刀流の使い手であるリースベットとの訓練が功を奏していた。だが、ホード兄弟の攻撃が今よりも正確さを増すとしたら、彼女にそれを防ぎきれる自信はない。
――援護を頼むしかないかしら……自信たっぷりの態度で出てきたのに、近衛兵をたった一人しか倒せないなんて……。
アウロラが守勢に回り足を止めたことで、風に舞っていた砂塵がおさまりつつある。アウロラと彼女にゆっくりと歩み寄るホード兄弟の姿が、明瞭に浮かび上がってきた。
ホード兄弟の背後に控える六人の近衛兵が、アウロラをいっそう焦らせる。
視界が晴れアウロラの顔を目にした髭面の近衛兵が、唐突に叫び声を上げた。
「あの小娘! あの騒ぎの折、儂の顔を足蹴にした端女ではないか!」
「は?」
アウロラの記憶には、その中年男の顔は存在しなかった。だが、時の黎明館を飛び出す際、誰かの顔を踏み台にしたことは、圧倒的な開放感に紐付けられ鮮明に覚えている。
アウロラは小さく頷き、ホード兄弟とわずかに距離を置いた。
「そこのヒゲオヤジ! また踏まれたいんならかかってきなさいよ!」
「なんじゃと?!」
アウロラは何を思ったか、その中年男を大声で挑発した。
「ほらほら、今度は両足で蹴飛ばしてやろうかしら!」
「お、おのれ下賤の分際で!」
囃し立てるようにカリ・スタブを頭上で打ち合わせるアウロラに向かって、中年男は顔を真赤にして剣を抜き走りかかる。その動きは恐ろしく敏捷で、確かに彼も近衛兵の一員たる実力の持ち主ではあるようだ。
「待てスカンツェ、ホード兄弟の戦いを邪魔するな!」
スカンツェと呼ばれた髭面の中年男はアムレアンの制止も聞かず、耳まで紅潮させてアウロラに斬りかかった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
婚約破棄された悪役令嬢。そして国は滅んだ❗私のせい?知らんがな
朋 美緒(とも みお)
ファンタジー
婚約破棄されて国外追放の公爵令嬢、しかし地獄に落ちたのは彼女ではなかった。
!逆転チートな婚約破棄劇場!
!王宮、そして誰も居なくなった!
!国が滅んだ?私のせい?しらんがな!
18話で完結
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
【完結】愛猫ともふもふ異世界で愛玩される
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
状況不明のまま、見知らぬ草原へ放り出された私。幸いにして可愛い三匹の愛猫は無事だった。動物病院へ向かったはずなのに? そんな疑問を抱えながら、見つけた人影は二本足の熊で……。
食われる?! 固まった私に、熊は流暢な日本語で話しかけてきた。
「あなた……毛皮をどうしたの?」
「そういうあなたこそ、熊なのに立ってるじゃない」
思わず切り返した私は、彼女に気に入られたらしい。熊に保護され、狼と知り合い、豹に惚れられる。異世界転生は理解したけど、私以外が全部動物の世界だなんて……!?
もふもふしまくりの異世界で、非力な私は愛玩動物のように愛されて幸せになります。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/09/21……完結
2023/07/17……タイトル変更
2023/07/16……小説家になろう 転生/転移 ファンタジー日間 43位
2023/07/15……アルファポリス HOT女性向け 59位
2023/07/15……エブリスタ トレンド1位
2023/07/14……連載開始

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる