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逆賊討伐
14 割れた鏡 2
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「待てスカンツェ、ホード兄弟の戦いを邪魔するな!」
スカンツェと呼ばれた髭面の中年男はアムレアンの制止も聞かず、耳まで紅潮させてアウロラに斬りかかった。切っ先を逸らすように受け流したアウロラは、スカンツェの右側面にまわって頬髭を何本かむしり取る。
猿の喧嘩のように激昂するスカンツェから離れたアウロラは、今度はホード兄弟に攻めかかった。スカンツェはすぐさま追いすがり、ホード兄弟の存在などお構いなしに剣を振り回す。
アウロラは結果として、三人の近衛兵と同時に戦うことになった。ホード兄弟だけが相手でも攻め崩せなかった以上、これは自殺行為に等しい。
だが、そのホード兄弟の様子が変わった。彼らは貝殻を閉じるように、ふたたび背中合わせの体勢に戻っている。
「すばしこいだけの端女が! おとなしく剣の錆となれ!」
「待って……」
「やめてよ……」
「やめてスカンツェさん……」
アウロラはスカンツェの剣を避けつつ、時々思い出したようにスカンツェとホード兄弟を攻撃した。それらは打ち倒すというより、からかうような打撃だ。
常に後の先を取る戦い方をしていたホード兄弟だったが、カリ・スタブを受け止め反撃に転じようとすると、しばしばスカンツェの剣が割り込んでくる。
「癇癪持ちの馬鹿者めが……」
四者入り乱れた泥沼のような戦いを見て、アムレアンは苦々しげにつぶやいた。
「隊長、一体どうなっているのです、あれは」
「凡人がいくら集まろうとも、ホード兄弟は崩せん。リーパー同士であっても、並の者ならば二人や三人とは互角以上に渡り合える。だがあの娘の力と、スカンツェの馬鹿者が発する雑音が合わさっては……」
アウロラが身をかわした位置にスカンツェが追いすがり、ホード兄弟が突き出そうとしていた短剣を引く。幾度か同じような攻防を繰り返すと、ボリスが顔をしかめて小さくうめき、左手で頭を押さえた。
「構わんホード兄弟! スカンツェもろとも、その娘を殺ってしまえ!」
アムレアンが叫んだが、その指示はわずかに遅かった。
「ボリス!」
コニーの悲鳴が通路内にこだまする。アウロラが横薙ぎに振るったカリ・スタブがボリスの左側頭部を捉え、その体を通路の土壁に叩きつけた。
「おのれ、よくも!」
激昂し続けているスカンツェがアウロラに斬りかかる。今までは避けて逃げるばかりでスカンツェを往なし続けていたが、アウロラはついにカリ・スタブを交差させてその剣を受け止めた。
コニーは自分の左側頭部を押さえている。ボリスが傷を負ったのと同じ部位だ。コニーは壁にもたれかかってうなだれるボリスにふらふらと歩み寄り、その肩を揺すった。
不快感に満ちた顔で腕組みをしているアムレアンに、近衛兵の一人が話しかけた。
「彼らの力とは、一体……」
「あの兄弟はリーパーの戦闘力とは別に、我らとは違った不思議な力を持っていた。ボリスが見たものをコニーが認識し、コニーが見たものもボリスに伝わる。それが、彼らが常に互いの見える位置で戦う理由だ」
「死角が存在しない、というわけですか。しかし、ではなぜボリスはあのように……」
「おそらく処理能力の限界だ。スカンツェの乱入によって、あの娘の行動以外に彼らが処理するべき情報が増えてしまった。相手が凡人やラーネリード程度ならば、二人が三人でも問題はなかったのだろうが……」
スカンツェと呼ばれた髭面の中年男はアムレアンの制止も聞かず、耳まで紅潮させてアウロラに斬りかかった。切っ先を逸らすように受け流したアウロラは、スカンツェの右側面にまわって頬髭を何本かむしり取る。
猿の喧嘩のように激昂するスカンツェから離れたアウロラは、今度はホード兄弟に攻めかかった。スカンツェはすぐさま追いすがり、ホード兄弟の存在などお構いなしに剣を振り回す。
アウロラは結果として、三人の近衛兵と同時に戦うことになった。ホード兄弟だけが相手でも攻め崩せなかった以上、これは自殺行為に等しい。
だが、そのホード兄弟の様子が変わった。彼らは貝殻を閉じるように、ふたたび背中合わせの体勢に戻っている。
「すばしこいだけの端女が! おとなしく剣の錆となれ!」
「待って……」
「やめてよ……」
「やめてスカンツェさん……」
アウロラはスカンツェの剣を避けつつ、時々思い出したようにスカンツェとホード兄弟を攻撃した。それらは打ち倒すというより、からかうような打撃だ。
常に後の先を取る戦い方をしていたホード兄弟だったが、カリ・スタブを受け止め反撃に転じようとすると、しばしばスカンツェの剣が割り込んでくる。
「癇癪持ちの馬鹿者めが……」
四者入り乱れた泥沼のような戦いを見て、アムレアンは苦々しげにつぶやいた。
「隊長、一体どうなっているのです、あれは」
「凡人がいくら集まろうとも、ホード兄弟は崩せん。リーパー同士であっても、並の者ならば二人や三人とは互角以上に渡り合える。だがあの娘の力と、スカンツェの馬鹿者が発する雑音が合わさっては……」
アウロラが身をかわした位置にスカンツェが追いすがり、ホード兄弟が突き出そうとしていた短剣を引く。幾度か同じような攻防を繰り返すと、ボリスが顔をしかめて小さくうめき、左手で頭を押さえた。
「構わんホード兄弟! スカンツェもろとも、その娘を殺ってしまえ!」
アムレアンが叫んだが、その指示はわずかに遅かった。
「ボリス!」
コニーの悲鳴が通路内にこだまする。アウロラが横薙ぎに振るったカリ・スタブがボリスの左側頭部を捉え、その体を通路の土壁に叩きつけた。
「おのれ、よくも!」
激昂し続けているスカンツェがアウロラに斬りかかる。今までは避けて逃げるばかりでスカンツェを往なし続けていたが、アウロラはついにカリ・スタブを交差させてその剣を受け止めた。
コニーは自分の左側頭部を押さえている。ボリスが傷を負ったのと同じ部位だ。コニーは壁にもたれかかってうなだれるボリスにふらふらと歩み寄り、その肩を揺すった。
不快感に満ちた顔で腕組みをしているアムレアンに、近衛兵の一人が話しかけた。
「彼らの力とは、一体……」
「あの兄弟はリーパーの戦闘力とは別に、我らとは違った不思議な力を持っていた。ボリスが見たものをコニーが認識し、コニーが見たものもボリスに伝わる。それが、彼らが常に互いの見える位置で戦う理由だ」
「死角が存在しない、というわけですか。しかし、ではなぜボリスはあのように……」
「おそらく処理能力の限界だ。スカンツェの乱入によって、あの娘の行動以外に彼らが処理するべき情報が増えてしまった。相手が凡人やラーネリード程度ならば、二人が三人でも問題はなかったのだろうが……」
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