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逆賊討伐

7 遊撃戦 2

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 ティーサンリードの拠点入口へ続く山道を、二騎の騎馬に先導され、馬車と歩兵の混成集団が列をなして進んでいる。騎上の二人のうち、先頭をゆくのはリードホルム・ノルドグレーン連合部隊の隊長テグネール、それに続くのは近衛兵の隊長アムレアンだ。
 テグネールは右側面の岩垣いわがきを見上げ、かつて空腹にあえぎながら、前隊長セーデルクヴィストと共に進んだ苦い記憶に思いを馳せた。
「まだ着かんのか」
「もう間もなくです。しかし、このあたりはすでに山賊どもの勢力圏、いつ襲いかかってくるか分かりません。どうかご注意を」
「我らに指図するな、奴隷部隊めが」
 出征する近衛兵の道案内を命じられ、はじめは名誉に震えたテグネールだったが、すでに嫌気が差している。貴族のほうがまだ謙虚に思えるほど尊大な、近衛兵たちのふるまいが原因だった。
 その思いは近衛兵の乗る馬車のあとに続く、テグネール配下の連合部隊の歩兵たちも共有している。
 憮然ぶぜんとした顔で馬を進めるテグネールの後方上部で、木戸が勢いよく開いたような音が聞こえた。
「落石だ!」
 隊列後部の歩兵が叫んだ。
 それは自然の落石ではない。人の頭部よりも大きな岩々が、次々と馬車の車列に降り注ぐ。
 大岩は馬車の屋根を潰し、恐慌状態に陥った馬が暴れて馬車が転倒した。土煙と飛び散る木片、馬のいななきと近衛兵たちの悲鳴がラルセン山に響き渡る。
「おのれ山賊め、野蛮な罠など使いおって……後続部隊、岩をどけて負傷者を救助せよ! 弓兵は右側方そくほう上部を警戒!」
 アムレアンが馬を降り、長髪を振り乱して指示を出した。
 周囲は負傷者のうめき声や、複数人で大岩を持ち上げる掛け声で騒然としている。アムレアンは腕組みをして苦々しげに状況を確認し、テグネールに向き直った。
「貴様、テグネールと言ったか。入り口はこの先だな?」
「はい。道なりに進めば半時ほどで着くでしょう」
「よし、では道案内はここまででいい。落石の処理を終えたら、麾下きかの部隊を指揮して付近を捜索せよ。それと一部は野営の準備に移れ。戦いはすぐに決するだろうが、それでも今日はこの周辺で夜を明かす事になる」
「了解いたしました」
 落石の被害について難癖なんくせをつけられるのではないかと危惧きぐしていたテグネールは、内心で胸をで下ろした。
「……この先、このような岩場が右手側にずっと続きますが」
「そうか、わかった。馬車を捨てるぞ、無事な者は全員降りろ!」
 小回りの利かない馬車では、いずれまた落石の罠の餌食になる。そう懸念したアムレアンは近衛兵に下車を命じた。
 そして負傷者数を報告させ、戦闘不能になった四名をテグネールの部隊に預けて手当をさせる。うち一人は頭部に大岩の直撃を受け、すでに息がない。
「アムレアン様、索敵さくてき役に、うちの部隊から何名か連れられては……」
「不要だ。我らは近衛兵、一個の部隊で千の軍と同様の作戦を、より迅速に遂行する」
 態度が尊大なことに変わりはないが、アムレアンは次々と状況に応じた指示を出し、テグネールを感心させた。
――この人は、たんにリーパーの能力が突出しているだけでなく、軍略についてもひと通りの知識を持っているらしい。山岳地帯での遊撃戦については不案内なのか、機先きせんを制されてしまったが……。

 アムレアン自身は、決して無知な指揮官ではない。
 戦場での近衛兵の役割は本来、独立部隊として広大な戦場を蹂躙じゅうりんし、敵軍の布陣を崩壊させることが最良とされている。彼はその役目を効率よくこなすための軍略は学んでいた。
 だが今度の任務については、洞穴どうけつ籠城ろうじょうする山賊を殲滅せんめつするものと決めつけていたため、実際に被害が出るまで状況を認識できていなかったのだ。
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