山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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絶望の檻

13 地下監獄 2

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 牢獄への扉の鍵は出入り口のものよりも構造が複雑に作られており、リースベットは解錠に時間を要した。
 アウロラはその間、囚人の名簿にくまなく目を通した。そこに書かれているのは収監日と名前、出身地のみで、牢の部屋番号などは記されていない。ヨアキム・クロンクヴィストもしくはフランシス・エーベルゴードの名、そして、バルタサールとカミラ・シェルヴェンの名もまた見当たらなかった。
「よし、こっちは片付いた。アウロラどうだ、目当ての名はあったか?」
「……ダメ。どこにも載ってない。だいいち最後の日付が二ヶ月ちかく前よ」
「そうか……。罪人や病人、子供、それから老人……この国じゃ、そういうモンはゴミと同じだ。まともに扱ってるわけがねえ、か」
「ひどいものね……」
「表向きキレイゴトがまかり通ってるノルドグレーンならいざ知らず、リードホルムはこんなもんだ」
 しばし憮然ぶぜんとしてうつむいたままだったアウロラが、急に鎚鉾メイスでテーブルの角を叩いた。衝撃で木片が飛び散り、名簿と空の酒瓶が床に落ちる。
「……行こうリースベット、仕事を終わらせに」
「記録を残してねえってことは、必ずそれなりの裏事情がある。今回の次男坊がいい例だ。……ちょっと待ってろ」
 リースベットは名簿を拾い上げて棚に戻すと、壁に手をついてしばし捜索の手段を考えた。方針を固めるとバッグからランタンを二つ取り出し、室内の燭台しょくだいから灯りを移す。
「面倒だが仕方がねえ、牢屋を端から虱潰しらみつぶしに当たっていく。ついでに逃がしてやるってエサいて、そこらの囚人に片っ端から聞いて回れ」
「そんなことしていいの?」
「この際だ。逃げた奴の数が多けりゃ、それだけ追手がかかるまでの時間も稼げる」
おとりになってもらうのね……」
「そういうことだ。運が良けりゃ生き延びれんだろ」
 半ば諦観ていかんしているかのように冷然と言い放ったリースベットが、扉を開けて牢獄に足を踏み入れた。アウロラもそれに続く。
「ひどいにおい……」
「言ったろ。ゴミ扱いだってな」
 鼻をつく汚臭に満ちた牢獄は広大で、扉を開けた正面に延びる主通路から左右にいくつもの枝路えだみちがあり、どうやらそこに牢屋が作られているようだ。
 天井も床も一面が黒みがかった長方形の石で覆われた組積造そせきぞうで、壁や天井のはりに吊るされた燭台は数が少なく全体が薄暗い。通路の隅にはわらや埃や土の混じったゴミが溜まり、その上をときどきネズミが駆けていった。囚人全員がおとなしく眠っているわけではないらしく、散発的に物音も聞こえる。
「よし、手分けして聞き込みに回ろう。最近入った囚人の居場所と、可能なら名前もだ」
「手近な部屋から順番に聞く?」
「この構造だ、なるべくこの中央通路に近い部屋からでいいだろう。新入りが連れてかれるのが見えた奴もいるはずだ。あたしが右の通路を回るから、お前は左側を当たってくれ」
「やってみる……」
 やや気後れ気味のアウロラを尻目に、リースベットははんを示すように最初の牢へと向かった。不揃いな石敷きの床は凹凸があり、注意しないと足を取られそうだ。
 通路を右に曲がると、右手側に等間隔で鉄格子が並んでいる。すべての部屋はリースベットたちの入ってきた扉に背を向けて造られており、出口は見えない構造になっていた。彼女たちの起こした小さな風が、天井の梁から吊り下げられた燭台の炎を揺らしている。
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