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しばらく待っていると、淡いグレーのフロックコートを着た司が奥から出てきた。着替えただけで、髪の毛なんかはそのままなのに、長年付き合いのある同性の俺でさえ見惚れるくらい格好よくて正直羨ましい。

「なんだよ。どっかおかしいか?」

俺が穴が開きそうなほど見ていたからか、司は訝しげにそう言う。

「いやぁ……。顔いいなぁって思って」

しみじみとそう返すと、「顔だけ、みたいに聞こえんだけど?」と司は眉を顰める。

「そう?じゃ、プラスして世界一の愛妻家って称号付けとくよ」

笑いながらそう返していると、不機嫌そうな顔をしながらも「否定はしない」と司は言った。

「あー!本当ご馳走様!!」

大笑いしながらそう返し、俺達は部屋を後にする。時間的に瑤子ちゃんの準備にはもうしばらくかかりそうだし、先に司をみんなが待つ部屋に連れて行かないと。

「俺さ、荷物置いてる部屋に寄りたいんだけど。付き合ってよ」

このまま瑤子ちゃんの元へ行く、なんて言われたら予定が狂う。俺はいかにもと言う理由を付けてそう尋ねると、司は不審がることもなく従ってくれた。

「あ、ここね」

控室の前まで来ると俺はそう言って指を指す。この時点でもまだ何の疑問も感じてないようだ。俺はそれに安堵しながらドアのほうを向いて深呼吸した。そして俺は、ベタな方法で司を先に部屋に入るように仕向ける。

「あ、ごめん。忘れ物思い出した。部屋で待っててくれない?」

そう言って扉から離れて司の後ろに回り込む。

「あぁ」

短く返事をして、司はドアノブに手をかけた。俺は悟られないようにその様子を盗み見していた。そして、扉が開き中に入ろうとしている司を押し込むように背中を押した。

「あ、やっと主役の登場だ!」

中にいた全員が一斉に司に視線を送り、真っ先に香緒がそう言った。後ろにいた俺は司がどんな顔してるかは見えないけど、それでもその声だけで相当驚いているのはわかる。

「…………は?なんだよ……?これ」

突っ立っている司の前に回ると、本当にフリーズしたように呆然とした表情をしていた。そしてそこに香緒と希海がやって来た。

「ふふ。司がそんな顔してるの初めて見たよ」
「本当にな。俺もだ」

甥っ子とその幼馴染はそう言いながら司の腕を引く。

「いや、だって!って、どこ連れてくつもりだよ!」

混乱したままの司を両親達の待つテーブルに連れて行くようだ。司はそれに従うように香緒に腕を引かれたまま、ぎこちなく歩いていた。

「あら、司さん。今日は一段と格好いいわねぇ」
「司君、今日は娘のためにありがとう」

瑤子ちゃんのご両親が次々にそう口にすると、司は「え、あ、はい」とらしからぬ返事を返す。その焦った様子に、こっちは笑いを押されるのが大変だ。それはこの席に連れて行った2人も同じようで、珍しく希海ですら笑いを堪えるような表情を見せていた。

「あら、どうしたの?」

瑤子ちゃんのお母さんが不思議そうに司に尋ねる。

「その、何も聞いていなかったもので。すみません。本当ならちゃんと式を挙げるのが筋だと思うのですが……」

少し気弱な様子でそう言う司を見ながらお母さんは大笑いでそれに答る。

「やぁねぇ!どうせ瑤子がしたくないって言ったんでしょう?あの子、人前に出るの苦手だから。それに今日は司さんの周りの方がこうして式を手配してくださったんだし」

そう言われて、司はこちらを振り向く。

「え?式すんの?」
「いったい何すると思ったんだよ?するに決まってるでしょ?」

俺が笑顔で唖然としている司に返すと、司は肩を落としながらはぁ~と長く息を吐いた。

「マジでやられた……。俺にこんなこと仕掛けるやつはお前らくらいだ」

俺は香緒と希海と顔を見合わせて笑う。

「お褒めに預かり光栄です」

ニッコリと笑いながら返すと、もちろん司から「褒めてねぇよ!!」と勢いよく返って来た。

「とりあえず、サプライズは半分成功かな。次は瑤子ちゃんの番だね。ではお父さん、手筈通りにお願いしますね」

そう言って瑤子ちゃんのお父さんに話しかけると、今度はこちらの落ち着きがなくなって来た。

「あ、あぁ。だ……大丈夫だろうか」

なにせ、チャペルの前で瑤子ちゃんを出迎える大役だ。緊張でなのか額に汗が滲み出したお父さんはハンカチを取り出して拭き始めた。

「もう!本当にすぐ緊張するんだから。大丈夫よ。瑤子がついてるんだから!」

そんなことをお母さんが言っている。2人とも、全然瑤子ちゃんに似てないなぁ、なんて思いながら、俺はその場を離れ着替えに行った。

別室で着替えながら、さっちゃんにメッセージを送ると、あと15分ほどだと返って来た。
2人は今までヘアメイクの打ち合わせがてら何度も会っているから、今日はきっとスムーズだ。さっちゃんは最後の最後までこだわりながら、ああでもないこうでもないと考えていて、それがとても楽しそうだった。

そんな花嫁さんを、世界一美しく撮らなきゃね

俺は気合を入れつつカメラを用意すると、また控室に戻って行った。
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