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無事に式も写真撮影も終わり、香緒が主となってセッティングしてくれた立食パーティーの会場へ移った。
立食と言っても実際は席が決まっていないだけで、ちゃんとテーブルもイスも用意されていて、皆思い思いの場所で歓談していた。

「さっちゃん。疲れた?」

何故か部屋の隅で一人、壁の花になっているのを見つけて俺はゲストの写真を撮る手を止めさっちゃんの元へ向かった。

「ううん?みんなを見てたの」

そう言うとさっちゃんは視線を向こう側に向けた。ここからは、部屋全体が見渡せる。俺も同じようにそちらに視線を送ると、さっちゃんが口を開いた。

「なんかね。テーマパークにいる気分なの。みんなが幸せそうでキラキラしてて、見てるだけでこっちも幸せな気分になってくるなって」

そう言ったさっちゃんの視線の先に、イスに腰掛けている瑤子ちゃんと、その隣に並ぶ司。そして、その2人と話しをしている香緒と希海がいた。

「向こうにいるのはみんなテーマパークのキャラクターってとこ?」

笑いながらさっちゃんに尋ねると、さっちゃんはテーマパークにいる時みたいに目を輝かせて俺を見上げた。

「本当。そうかも。違う世界の人を見てる気分」

卑屈になっているわけじゃなく、さっちゃんは純粋にそう思っているようだ。

「さ……」
「さっちゃん!睦月君!こっち来てよ!」

俺が思っていたことを言おうとしたその時、向こうから香緒が手を振って俺達を呼んだ。

「だって。行こう?」

顔を覗かせて笑いかけると、さっちゃんは一瞬戸惑ったような表情を見せた。

「いいからいいから」

明るくそう投げかけて、俺はさっちゃんの手を取るとみんなの元へ向かった。

「司と瑤子さんが話しあるって」

香緒がニコニコしながらそう言うと、座っていた瑤子ちゃんは、司の腕に捕まり立ち上がった。

「岡田さん。咲月ちゃん。2人とも、今日は本当にありがとうございます。おかげで一生忘れられない日になりました」

そう笑顔を見せる瑤子ちゃんは、今世界で一番美しい花嫁さんだと俺は思う。もちろん隣に立つ男もそう思っているのか、愛おしげに自分の妻を見つめている。

「こちらこそ。瑤子さんのヘアメイク、本当に楽しかったです」
「それに撮影もね」

2人でそう返すと、瑤子ちゃんは笑みを浮かべて両手を持ち上げた。

「もう決まっちゃってるからどうかと思ったんだけど。やっぱり咲月ちゃんに貰って欲しくて」

そう言いながら差し出したものは、今日のために百合ちゃんが作ったブーケだった。

「こんな大事なもの……。本当に私でいいんですか?」

気後れしたようにさっちゃんはそう答える。そんなさっちゃんに、瑤子ちゃんはとびきりの笑顔を見せた。

「もちろんよ!次は咲月ちゃんが幸せになる番だもの。それに、歳の離れた妹ができたみたいで嬉しいの。これからも末永くよろしくね」

そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべる瑤子ちゃんに、司が隣から「それ、言う相手違ってないか?」と呆れたように言っている。

「確かに!でも、司にはそんなこと言わなくても、勝手にそうするでしょう?」

笑いながら司を見上げる瑤子ちゃんに、司はフッと息を漏らして「ま、その通りだ」と笑う。

「なんか……わかるなぁ」

2人の姿を笑みを浮かべて見ていた香緒はそんなことを言って、続けた。

「僕もさ、希海や司と親戚じゃないのにそんな気になってるし、もちろん瑤子さんや睦月君、それにさっちゃんとも、血の繋がり以上の何かがある気がするんだよね」

穏やかにそう言う香緒を、皆が同じように優しい眼差しで見ている。

「そうだね。俺も同感。だからさ、」

香緒に同意するように頷いて、それから俺はさっちゃんに視線を向ける。

「さっちゃんも、同じ世界の住人だよ?俺の大事なお姫様だからね」

さっき、みんなを『違う世界の人』と言っていたさっちゃんに、俺は想いを伝える。
さっちゃんはそれを聞いて、擽ったそうに首をすくめて持っていたブーケを持ち上げ顔を少し隠す。ブーケから覗いているその顔はほんのり朱に染まっていた。

ヒュ~、なんて俺たちを揶揄うような口笛が聞こえて顔を上げると、司はニヤニヤしながら俺を見ていた。

「お前もたいがい愛妻家とやらになりそうだな」
「そりゃもちろん!司を超える愛妻家になるからさ。見ててよ」

そう返して俺達は笑いあった。

「人って、変われるんだな……」
「だね。希海もそう思う?」
「もう司!恥ずかしいから!」
「睦月さんも……」

口々にそんなことを言っていると、向こうから武琉君と響君がやって来た。

「楽しそうだな、香緒」
「だよな。希海、なんかすっげー嬉しそうだし」

それぞれの大事なパートナーを前に、2人は愛おしげな表情を見せてそれに答えていた。


「睦月さん」

皆がそれぞれ会話を始めると、小さくさっちゃんが俺に呼びかける。

「何?」
「私も同じ世界にいられて幸せ」

俺の耳元に顔を寄せ、さっちゃんは俺にそう言った。

「だね。俺もさっちゃんと同じ世界にいられて幸せだよ?」

そう言って俺は、人目も憚らず愛しいその人の頰にキスをした。
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