4 / 6
師匠の企み
しおりを挟む 静寂を破るかのように、カチャカチャという金属の冷たい音が鳴っている。
「外れそうもないな……。それにこの首輪……んんんっ」
ギルがベッドの上で足枷と首輪を手で確かめていた。力ずくで外そうとするも、勿論外れる訳もない。肩を落とし途方に暮れる。
「セイン様はご無事でしょうか……」
気を取り直して辺りを見渡した。部屋の中はそれなりに豪華に見える。今いるベッドも側に置かれたソファーや家具も豪華な装飾が施されていた。
ギルは立ち上がり、閉め切られていたカーテンを開ける。
「まだ暗い……」
どれくらい眠らされていたのだろう。同じ日の夜なのか、それとも数日経っているのかも分からない。窓から見える景色は暗くてあまりよく見えなかった。
直ぐに視線を入口であろう扉に移し、移動する。扉に手をかけ、押したり引いたりするもびくともしない。
「開くわけないか……わぁっ」
ため息をつこうとしたところ、扉が勝手に開いた。
「起きられましたか。バルダス陛下の命により、本日よりそちらで過ごして頂くこととなりました。今夜のお相手をご用意いたしましたのでゆっくりお楽しみください」
兵士がそう伝えると、真っ赤なドレスに身を包んだ赤髪の女性がおどおどしながら入ってくる。
「えっ? どういうことですか? あの、セイン様は? 他の皆さんはどこに?」
「皆様もゆっくり休まれております。では、失礼します」
「待ってください! それなら、セイン様に会わせっ……」
兵士はそれ以上何も言わずに扉を閉めてしまった。扉の側で女性が俯いたままじっと立っている。
「……すみません、あなたは何か知ってらっしゃいますか? お相手とは何でしょう? 私は直ぐにでもセイン様の元に行きたいのですが」
「……お名前……」
「え?」
「あなたのお名前は?」
顔も上げずに女性が尋ねてきた。
「ああ、失礼しました。私の名前はギル・クラークと申します」
女性がバッと顔を上げ食い入るように見てきた。彼女は困惑しているようにも見える。
「……ま……さかとは思うけど……さっきからあんたが言ってるセイン様って、ローンズ王国の王子じゃないわよね?」
おどおどした姿は影を潜め、睨むように視線を送ってきた。
「そうです。きっとこの城の何処かにいるはずなのですが……。えっと、ここはデール城ですよね?」
「ギル・クラーク……っ!」
女性が突然、右手でギルの胸ぐらを掴んできた。
「えっ? えっ? えっ?」
「だからあんたみたいな弱いやつにセイン様をお任せするのが嫌だったのよ!」
声を押し殺しながら怒りを露にする。
「あんた、側近としてセイン様をちゃんとお守りしなさいよ! 馬鹿じゃないの!? セイン様に何かあったらどーすんのよ!!」
「……す、すみません。本当に私が不甲斐ないばかりに……。えっと、あなたはいったい……」
女性は睨んだまま、胸に置いていた手を突き放すように離した。
「私はアリス。ローンズの先鋭部隊、騎士アリスよ。一度挨拶したことあるけど?」
ギルが首を傾げながらもアリスをよく見る。露出の高いドレスを着ていたため、鍛え抜かれた手足は隠せていない。また、赤い髪とエメラルドの瞳は見覚えがあった。
「ああ、そうですね! 確かにお会いしました。あまりにも美しいので分かりませんでした」
「なっ!」
ギルが微笑むとアリスは顔を赤く染める。
「良かった、助けに来てくださったのですか? それにしては早すぎる気もしますが……。もしかしてあれから何日も過ぎたのでしょうか?」
「知らないわよ。とりあえず何があったか話して。私のことはそれから話すわ」
「はい、わかりました」
アリスに促されるままに、デール王国に着いてからのことを話した。
「そう……分かったわ。話からすると今はセイン様が捕まった当日の夜よ。まだ三時間くらいしか経っていないわね。ギルのこの待遇からしてセイン様もそれなりの待遇を得ているとは思うけど、足枷とその首輪は付けられている可能性はありそうね」
「私もそう思います。何とかここから出て、皆さんを助けなければ……」
「アランとアルバートさんはちょっと心配ね……。アトラスの者だってバレてなければいいけど……。ちょっとその首輪、見せてくれる? ……あんた、背が高いわね。ベッドに座ってよ」
ベッドに腰掛けるとアリスが後ろに回り、首輪を確認する。
「ふーん。これが魔力を消滅させる首輪なのね。噂には聞いてたけど凄いわね。でも、これなら焼き切れそう。ちょっと熱いけど我慢してね」
「え? あつ……っ!」
焼かれるような熱さを感じた後、首輪の重みがなくなった。
「回復出来るんでしょ? 首、火傷させちゃったから自分で直してね」
「ありがとうございます。それで、アリスさんは何故ここに?」
「足枷も同じように焼き切るわね。私は調査で来ていたの。デールが特殊部隊を作っているって噂を聞いてね」
アリスは、ギルの足枷に魔法を注ぎ始める。
「あっつ……。えっと、特殊部隊?」
「そう。魔力を持つ者をこうやって閉じ込めて、女を送り込むの。そうやって魔力を持つ子供を作らせているみたいね」
「子供を!? 人間を家畜かなんかだと思っているんですか!?」
ギルが立ち上がり、足元にいるアリスを見下ろした。
「知らないわよ! でも魔法が使える人間が国に多くいれば、戦争にも魔法薬研究にも有利なのは間違いないわ。今回の戦争にも恐らく多くの魔法使いが参戦するんじゃないかしら。じゃなきゃ、戦争を起こそうなんて気になるわけないもの。ただ、私がここに来たのは昨日なんだけど、そいつらの気配がないのよね……。ぎりぎりまで魔力を封じるつもりなのかしら?」
「陛下に報告は?」
「勿論しているわ。さ、セイン様を助けに行くわよ」
足枷を外したアリスも立ち上がり、ギルの腕を叩く。
「はい! アランさんとアルバートさんも見つけます!」
「わかってるわよ。急ぎましょう」
先ずはこの部屋から上手く抜け出さなければならない。不安そうなギルとは対照的に、アリスは当たり前のように扉に向かって歩いた。
「外れそうもないな……。それにこの首輪……んんんっ」
ギルがベッドの上で足枷と首輪を手で確かめていた。力ずくで外そうとするも、勿論外れる訳もない。肩を落とし途方に暮れる。
「セイン様はご無事でしょうか……」
気を取り直して辺りを見渡した。部屋の中はそれなりに豪華に見える。今いるベッドも側に置かれたソファーや家具も豪華な装飾が施されていた。
ギルは立ち上がり、閉め切られていたカーテンを開ける。
「まだ暗い……」
どれくらい眠らされていたのだろう。同じ日の夜なのか、それとも数日経っているのかも分からない。窓から見える景色は暗くてあまりよく見えなかった。
直ぐに視線を入口であろう扉に移し、移動する。扉に手をかけ、押したり引いたりするもびくともしない。
「開くわけないか……わぁっ」
ため息をつこうとしたところ、扉が勝手に開いた。
「起きられましたか。バルダス陛下の命により、本日よりそちらで過ごして頂くこととなりました。今夜のお相手をご用意いたしましたのでゆっくりお楽しみください」
兵士がそう伝えると、真っ赤なドレスに身を包んだ赤髪の女性がおどおどしながら入ってくる。
「えっ? どういうことですか? あの、セイン様は? 他の皆さんはどこに?」
「皆様もゆっくり休まれております。では、失礼します」
「待ってください! それなら、セイン様に会わせっ……」
兵士はそれ以上何も言わずに扉を閉めてしまった。扉の側で女性が俯いたままじっと立っている。
「……すみません、あなたは何か知ってらっしゃいますか? お相手とは何でしょう? 私は直ぐにでもセイン様の元に行きたいのですが」
「……お名前……」
「え?」
「あなたのお名前は?」
顔も上げずに女性が尋ねてきた。
「ああ、失礼しました。私の名前はギル・クラークと申します」
女性がバッと顔を上げ食い入るように見てきた。彼女は困惑しているようにも見える。
「……ま……さかとは思うけど……さっきからあんたが言ってるセイン様って、ローンズ王国の王子じゃないわよね?」
おどおどした姿は影を潜め、睨むように視線を送ってきた。
「そうです。きっとこの城の何処かにいるはずなのですが……。えっと、ここはデール城ですよね?」
「ギル・クラーク……っ!」
女性が突然、右手でギルの胸ぐらを掴んできた。
「えっ? えっ? えっ?」
「だからあんたみたいな弱いやつにセイン様をお任せするのが嫌だったのよ!」
声を押し殺しながら怒りを露にする。
「あんた、側近としてセイン様をちゃんとお守りしなさいよ! 馬鹿じゃないの!? セイン様に何かあったらどーすんのよ!!」
「……す、すみません。本当に私が不甲斐ないばかりに……。えっと、あなたはいったい……」
女性は睨んだまま、胸に置いていた手を突き放すように離した。
「私はアリス。ローンズの先鋭部隊、騎士アリスよ。一度挨拶したことあるけど?」
ギルが首を傾げながらもアリスをよく見る。露出の高いドレスを着ていたため、鍛え抜かれた手足は隠せていない。また、赤い髪とエメラルドの瞳は見覚えがあった。
「ああ、そうですね! 確かにお会いしました。あまりにも美しいので分かりませんでした」
「なっ!」
ギルが微笑むとアリスは顔を赤く染める。
「良かった、助けに来てくださったのですか? それにしては早すぎる気もしますが……。もしかしてあれから何日も過ぎたのでしょうか?」
「知らないわよ。とりあえず何があったか話して。私のことはそれから話すわ」
「はい、わかりました」
アリスに促されるままに、デール王国に着いてからのことを話した。
「そう……分かったわ。話からすると今はセイン様が捕まった当日の夜よ。まだ三時間くらいしか経っていないわね。ギルのこの待遇からしてセイン様もそれなりの待遇を得ているとは思うけど、足枷とその首輪は付けられている可能性はありそうね」
「私もそう思います。何とかここから出て、皆さんを助けなければ……」
「アランとアルバートさんはちょっと心配ね……。アトラスの者だってバレてなければいいけど……。ちょっとその首輪、見せてくれる? ……あんた、背が高いわね。ベッドに座ってよ」
ベッドに腰掛けるとアリスが後ろに回り、首輪を確認する。
「ふーん。これが魔力を消滅させる首輪なのね。噂には聞いてたけど凄いわね。でも、これなら焼き切れそう。ちょっと熱いけど我慢してね」
「え? あつ……っ!」
焼かれるような熱さを感じた後、首輪の重みがなくなった。
「回復出来るんでしょ? 首、火傷させちゃったから自分で直してね」
「ありがとうございます。それで、アリスさんは何故ここに?」
「足枷も同じように焼き切るわね。私は調査で来ていたの。デールが特殊部隊を作っているって噂を聞いてね」
アリスは、ギルの足枷に魔法を注ぎ始める。
「あっつ……。えっと、特殊部隊?」
「そう。魔力を持つ者をこうやって閉じ込めて、女を送り込むの。そうやって魔力を持つ子供を作らせているみたいね」
「子供を!? 人間を家畜かなんかだと思っているんですか!?」
ギルが立ち上がり、足元にいるアリスを見下ろした。
「知らないわよ! でも魔法が使える人間が国に多くいれば、戦争にも魔法薬研究にも有利なのは間違いないわ。今回の戦争にも恐らく多くの魔法使いが参戦するんじゃないかしら。じゃなきゃ、戦争を起こそうなんて気になるわけないもの。ただ、私がここに来たのは昨日なんだけど、そいつらの気配がないのよね……。ぎりぎりまで魔力を封じるつもりなのかしら?」
「陛下に報告は?」
「勿論しているわ。さ、セイン様を助けに行くわよ」
足枷を外したアリスも立ち上がり、ギルの腕を叩く。
「はい! アランさんとアルバートさんも見つけます!」
「わかってるわよ。急ぎましょう」
先ずはこの部屋から上手く抜け出さなければならない。不安そうなギルとは対照的に、アリスは当たり前のように扉に向かって歩いた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜
𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。
だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。
そこで出逢った簫 完陽に料理人を料理を教えてもらうことに。
そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?!
料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風料理BLファンタジー。ここに開幕!

平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!
彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。
何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!?
俺どうなっちゃうの~~ッ?!
イケメンヤンキー×平凡

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生当て馬召喚士が攻め度MAXの白銀騎士に抗えません
雪平@冷淡騎士2nd連載中
BL
不幸体質大学生の青年が転生したのは魔術師ファンタジーBLゲームの世界だった。
当て馬として生まれたからには攻略キャラの恋の後押しをする事にした。
しかし、この世界…何処か可笑しい。
受け主人公が攻めに、攻め攻略キャラが受けになっていた世界だった。
童顔だった主人公は立派な攻めに育っていた。
受け達に愛されている主人公は何故か当て馬に執着している。
傍観者で良かったのに、攻めポジも危ぶまれていく。
究極の鉄壁一途な白銀騎士×転生当て馬召喚士
ゲームを忠実にするためには、絶対に受けとしてときめいてはいけない。
「君といられるなら、俺は邪魔する奴を排除する」
「俺はただの当て馬でいい!」
※脇CP、リバキャラはいません、メインCPのみです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる