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「これは、アナリス!」

 大広間に足を踏み入れた途端、ラファエルがタキシード姿で歩み寄ってきた。

「わざわざ、ダンスのレッスンに巻き込んで悪かったね」

 ラファエルはそう言うと、恭しく一礼した。

「わああ……ラフィー様っ!」

(スパルタ教師は……ラフィーだったのね!)

 アナリスは感激して胸が高鳴るのを感じた。

 やはり実物の王太子殿下はとても素敵である。

 見惚れていると、彼が手を差し出してきたので、思わずどきりとした。 

──だが、その手を取ることができずに躊躇してしまう。

 そんなアナリスの様子を見て取ったのか、ラファエルは安心させようとにっこりと微笑んだ。

「心配はいらない。さあ、こちらへ……」

 ラファエルはアナリスの手を取ると、大広間の中央へと導いた。

 そして、流れるような動作で腰に手を回すと踊り始める。

──優雅なワルツの調べに乗って踊るうちに、アナリスは次第に緊張が解けていくのを感じた。

(ああ……ラフィー様ってなんて素敵なんだろう?)

 アナリスはうっとりとして、ラファエルの顔を見つめていた。

(このまま時間が止まればいいのに……)

 ラファエルは彼女の手を取り、軽やかなステップでダンスを続ける。

 時折、悪戯っぽく笑いかけると、アナリスも微笑み返した。

(ああ……わたし今、幸せな気分だわ)

 アナリスは心の中で呟くと、うっとりとした表情でラファエルを見つめながら踊り続ける。

「きみが思っていた以上に踊れているよ」

 ラファエルが耳元で囁いた。

「そ、それはラフィー様が上手にリードしてくださったからで……」

 アナリスは照れ笑いを浮かべると、慌てて答えた。

「ありがとう……そう言ってくれると嬉しいよ」

(ああ……この時間がずっと続けばいいのに)

 アナリスは心の中でそう思ったが、やがて曲が終わった。

 二人は名残惜しそうに離れると、壁際に移動した。

「アナリスってダンスも得意なんだね」

 ラファエルが、感心したように言った。

「そ、そんなことはないです……ラフィー様がお上手だから……」

 アナリスは、顔から火が出そうになりながら言った。
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