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閑話・別視点①
月乃さん視点・征士くん視点
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● 月乃さん視点
とある土用の丑の日。
征士くんが、私の好きな鰻屋さんの包みを持って帰ってきた。
鰻は私の大好物。名店巡りをしたこともある。
「月乃さんの好きな鰻。今年は白焼きにしましたよ」
征士くんは鰻とともに、白ワインも買っていた。
「この白ワインは、白焼きに合うそうです」
「へえ。それは楽しみね」
個人的に、ワインは赤よりも冷えた白が好きだ。
早速白焼きをお皿に乗せて準備し、白ワインを冷やした。
ワインが充分に冷えたところで、早速いただいた。
「ん、やっぱり鰻美味しい! このワインも合うわね」
「そうですね。脂分とのバランスが絶妙です」
白焼きと白ワインのあっさりした素晴らしい組み合わせ。
ついつい私は、飲みすぎてしまった。
「ああ、鰻もワインも美味しかったわ~」
私が征士くんに笑いかけると、片付けを終えた征士くんもにっこり微笑んだ。
「月乃さん。満足しましたか?」
「勿論よ~。これ以上の幸せはないわ~」
ソファに背を預けている私の隣に、征士くんは腰を下ろした。
「鰻もワインも美味しかったですけど。僕はまだ満足していません」
「あら」
こんなに素敵な土用の丑の日。何が不満だと言うのだろう。
征士くんは、私に寄り添ってきた。
「月乃さんに好きって言ってもらわないと、満足出来ません」
……何だろう。この年下甘えん坊夫は。
でも、私も気分が良い。望む台詞を言ってあげよう。
「征士くん。好きよ~」
「僕も月乃さんのことが、大好きです」
「じゃあ、私はもっと大好き~」
酔いも手伝って、普段は口にしないだろうことも言ってしまう。
「……まだ、満足出来ません。僕のこと、愛しているって言ってください」
私は声をあげて笑った。欲張り征士くん。
「愛しているわ~」
「どのくらい、愛してくれていますか?」
「誰よりも、この世で一番、ずっと愛しているわ」
征士くんは、美しい顔に極上の笑みを浮かべた。
「僕も永遠に愛しています。綺麗で可愛くて、誰よりも優しい月乃さん」
「お揃いね~。ずっとずっと、愛し合いましょうね」
言葉で愛を確かめ合った後、濃厚なキスをした。
白ワインの後味がする口付けだった。
♦ ♦ ♦
● 征士くん視点
僕は初恋を貫いた。十八歳の誕生日に結婚した。
十三歳のときから大好きな月乃さん。
初対面から綺麗で優しい人だと思った。
最初は五歳年上のお嬢様との婚約に戸惑ったけど……。
結果的に出会えて幸せだった。
僕の愛しい妻の月乃さんは、お酒に酔うと素直になる。
そこが可愛いんだけど……僕の前以外では、あまり酔わないで欲しい。
隙が多すぎて、誰かにこの素敵な月乃さんを取られてしまうのではないか。
そんな僕の心配をよそに、月乃さんは、卒業した大学サークルの飲み会に出かけて行った。
帰りが遅くて迎えに行こうかと考えていると、お手伝いさんの豊永さんが部屋に来た。
「征士さん。月乃さんがお帰りなんですが……」
歯切れが悪い。どうしたのだろう。
「その……。月乃さん、酔い潰れたらしくて。サークルのお友達の方が、連れ帰ってくださいました」
「えっ?」
豊永さんの言葉に、僕は慌てて玄関へ向かった。
玄関で、若竹先輩が月乃さんを背負っていた。
「おう、久しぶりだな。虹川の奴、酔っぱらっちゃってさ」
月乃さんは、若竹先輩にぐったり背負われている。
若竹先輩に可愛いお嫁さんがいるのは知っている。
でも、僕以外の男が月乃さんに触れるのはむかつく。
「……お世話になりました。ありがとうございます。早く僕の月乃さんをこちらへ」
一応礼儀としてお礼は言ったけど、若竹先輩に対して嫉妬全開。
若竹先輩は、苦笑いしながら、月乃さんを渡してきた。
僕は月乃さんを、横抱きにした。
「相変わらず、虹川一筋だな。俺にまで妬くなんてな」
「当たり前です。月乃さんは僕の可愛い奥さんです」
「虹川も、同じこと言っていたぞ。お前が世界一格好良くて、愛している夫だってさ」
月乃さん……。酔うと素直すぎる。
だけど、他の人にもそう言ってくれて嬉しい。
「そうですよ。僕にとっても月乃さんが世界一綺麗で可愛くて、愛する妻です」
「俺だって。世界一可愛くてしっかり者の、愛する奥さんがいるさ」
若竹先輩と一緒に、奥さん自慢をしてしまった。
先輩が帰った後、抱いていた月乃さんが、ふと目を開いた。
「征士くん~」
僕に抱きついてきた。酔った瞳で僕を見つめる。
酔っていても、澄んだ綺麗な瞳。
「やっぱり征士くんは格好良い~。愛しているわ。皆に言い触らしちゃった」
反則的に可愛い告白。
「僕も愛していますよ。昔から皆に言い触らしています」
僕は初めて恋したときから、誰にも隠さなかった。
初恋が実らないなんて、嘘だ。きっちり実った。
僕は強く抱きしめ返し、愛しい月乃さんと唇を重ねた。
とある土用の丑の日。
征士くんが、私の好きな鰻屋さんの包みを持って帰ってきた。
鰻は私の大好物。名店巡りをしたこともある。
「月乃さんの好きな鰻。今年は白焼きにしましたよ」
征士くんは鰻とともに、白ワインも買っていた。
「この白ワインは、白焼きに合うそうです」
「へえ。それは楽しみね」
個人的に、ワインは赤よりも冷えた白が好きだ。
早速白焼きをお皿に乗せて準備し、白ワインを冷やした。
ワインが充分に冷えたところで、早速いただいた。
「ん、やっぱり鰻美味しい! このワインも合うわね」
「そうですね。脂分とのバランスが絶妙です」
白焼きと白ワインのあっさりした素晴らしい組み合わせ。
ついつい私は、飲みすぎてしまった。
「ああ、鰻もワインも美味しかったわ~」
私が征士くんに笑いかけると、片付けを終えた征士くんもにっこり微笑んだ。
「月乃さん。満足しましたか?」
「勿論よ~。これ以上の幸せはないわ~」
ソファに背を預けている私の隣に、征士くんは腰を下ろした。
「鰻もワインも美味しかったですけど。僕はまだ満足していません」
「あら」
こんなに素敵な土用の丑の日。何が不満だと言うのだろう。
征士くんは、私に寄り添ってきた。
「月乃さんに好きって言ってもらわないと、満足出来ません」
……何だろう。この年下甘えん坊夫は。
でも、私も気分が良い。望む台詞を言ってあげよう。
「征士くん。好きよ~」
「僕も月乃さんのことが、大好きです」
「じゃあ、私はもっと大好き~」
酔いも手伝って、普段は口にしないだろうことも言ってしまう。
「……まだ、満足出来ません。僕のこと、愛しているって言ってください」
私は声をあげて笑った。欲張り征士くん。
「愛しているわ~」
「どのくらい、愛してくれていますか?」
「誰よりも、この世で一番、ずっと愛しているわ」
征士くんは、美しい顔に極上の笑みを浮かべた。
「僕も永遠に愛しています。綺麗で可愛くて、誰よりも優しい月乃さん」
「お揃いね~。ずっとずっと、愛し合いましょうね」
言葉で愛を確かめ合った後、濃厚なキスをした。
白ワインの後味がする口付けだった。
♦ ♦ ♦
● 征士くん視点
僕は初恋を貫いた。十八歳の誕生日に結婚した。
十三歳のときから大好きな月乃さん。
初対面から綺麗で優しい人だと思った。
最初は五歳年上のお嬢様との婚約に戸惑ったけど……。
結果的に出会えて幸せだった。
僕の愛しい妻の月乃さんは、お酒に酔うと素直になる。
そこが可愛いんだけど……僕の前以外では、あまり酔わないで欲しい。
隙が多すぎて、誰かにこの素敵な月乃さんを取られてしまうのではないか。
そんな僕の心配をよそに、月乃さんは、卒業した大学サークルの飲み会に出かけて行った。
帰りが遅くて迎えに行こうかと考えていると、お手伝いさんの豊永さんが部屋に来た。
「征士さん。月乃さんがお帰りなんですが……」
歯切れが悪い。どうしたのだろう。
「その……。月乃さん、酔い潰れたらしくて。サークルのお友達の方が、連れ帰ってくださいました」
「えっ?」
豊永さんの言葉に、僕は慌てて玄関へ向かった。
玄関で、若竹先輩が月乃さんを背負っていた。
「おう、久しぶりだな。虹川の奴、酔っぱらっちゃってさ」
月乃さんは、若竹先輩にぐったり背負われている。
若竹先輩に可愛いお嫁さんがいるのは知っている。
でも、僕以外の男が月乃さんに触れるのはむかつく。
「……お世話になりました。ありがとうございます。早く僕の月乃さんをこちらへ」
一応礼儀としてお礼は言ったけど、若竹先輩に対して嫉妬全開。
若竹先輩は、苦笑いしながら、月乃さんを渡してきた。
僕は月乃さんを、横抱きにした。
「相変わらず、虹川一筋だな。俺にまで妬くなんてな」
「当たり前です。月乃さんは僕の可愛い奥さんです」
「虹川も、同じこと言っていたぞ。お前が世界一格好良くて、愛している夫だってさ」
月乃さん……。酔うと素直すぎる。
だけど、他の人にもそう言ってくれて嬉しい。
「そうですよ。僕にとっても月乃さんが世界一綺麗で可愛くて、愛する妻です」
「俺だって。世界一可愛くてしっかり者の、愛する奥さんがいるさ」
若竹先輩と一緒に、奥さん自慢をしてしまった。
先輩が帰った後、抱いていた月乃さんが、ふと目を開いた。
「征士くん~」
僕に抱きついてきた。酔った瞳で僕を見つめる。
酔っていても、澄んだ綺麗な瞳。
「やっぱり征士くんは格好良い~。愛しているわ。皆に言い触らしちゃった」
反則的に可愛い告白。
「僕も愛していますよ。昔から皆に言い触らしています」
僕は初めて恋したときから、誰にも隠さなかった。
初恋が実らないなんて、嘘だ。きっちり実った。
僕は強く抱きしめ返し、愛しい月乃さんと唇を重ねた。
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