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閑話・別視点①
婚約解消中の征士くん視点・再び婚約後の月乃さん視点
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● 婚約解消中の征士くん視点
放課後、僕は担任に職員室へ呼び出されていた。
勿論、心当たりはある。最近まともに授業を受けていない。
「瀬戸。最近のお前はどうしたんだ? 以前は模範的生徒だったのに」
「…………」
どうしたもこうしたもない。僕は月乃さんに嫌われている。
そう思うだけで、泣きそうだ。
志野谷のせいもある。でも、僕が無理にキスしてしまったからかもしれない。
キスしたことに関しては、後悔していない。
あの場で、他に月乃さんへ愛情を伝える術が思いつかなかった。
月乃さんは抱き心地が良かった。キスも甘い味がした。
僕は思い出して、そっと自分の唇に触れた。
「おい、瀬戸! 聞いているのか?」
聞いていない。
僕は手にしている携帯と腕時計をちらりと見た。
携帯には何の連絡も入っていない。
今日は月乃さんの必修講義も、サークルもない日だ。
腕時計は、月乃さんからの大切な誕生日プレゼント。一生大事に使うと決めている。
「最近、授業の途中で大学へ行っているそうだな」
担任がそう言った。どうして知っているのか。
「知り合いの大学関係者に聞いた。高等部の制服の男子生徒がうろうろしていると」
確かにもう二週間くらい、大学に通い詰めている。噂になるかもしれない。
「いい加減にしろ。お前はまだ高等部生なんだぞ。大学に何の用なんだ」
「…………」
答えられる訳がない。
しかも、いい加減にしろと言われても、月乃さんの誤解が解けるまで大学には行き続ける。
僕が黙り込んでいると、職員室の扉が開いた。
「あの……。失礼します。瀬戸征士の保護者です」
「ああ、瀬戸くんのご両親ですね。お待ちしていました」
両親が担任の所へ来た。
「お呼び立てしてすみません。最近の瀬戸征士くんの、授業態度があまりにもひどくて……」
両親まで呼び出したのか。僕は何とも言えない気分になった。
「誠に申し訳ありません」
両親は頭を深く下げた。
僕は学校でもひどい態度だけど、家でだって荒れた生活を送っている。
月乃さんに婚約解消されたからなのは、家族中が知っている。
僕は月乃さんのことが好きで堪らない。
その他のことは、構っていられない。
担任に両親は僕のことを問われたが、両親も無言を貫いた。
ただ、謝るだけ。
担任は溜息をついた。
「いいですか? このままでいくと、瀬戸くんは停学ですよ」
「…………」
僕も両親も、沈黙したまま。
いっそ停学になってしまえば、月乃さんにもっと纏わりつけるかも……。
かなり、捨て鉢な気持ちだ。
そんな僕達に見切りをつけたのか、担任は半ば投げやりに帰って良いと言った。
帰路で、両親が話しかけてきた。
「征士……。そんなに落ち込まないで。ちゃんと回復するまで、見守るから」
見守る? 馬鹿を言わないで欲しい。
愛しい月乃さんの婚約者に戻れるまで、僕は回復しないだろう。
月乃さんの優しい笑顔を思い浮かべただけで、また涙が零れた。
月乃さん、月乃さん。どうしたら、僕を見てくれる?
僕の一番大事な人。でも、手が届かない。
五歳上のお嬢様。婚約者じゃなければ、死ぬ程遠い存在だ。
僕は高価な腕時計を、握り締めた。
誤解が解けたのは、次の日曜日だった。
でも、婚約者にはなれなかった。『お友達』になった。
『お友達』からでも、絶対また婚約者になってやる!
♦ ♦ ♦
● 再び婚約後の月乃さん視点
私と征士くんが再び婚約してからのバレンタインデー。
珍しく、征士くんはリクエストしてきた。
「月乃さんが作った、蕩けるような生チョコが食べたいです」
生チョコは作ったことがない。
レシピを調べ、生クリームをたっぷり使って作ってみた。
バレンタインに彼の部屋で手渡すと、ものすごく喜んでくれた。
「ありがとうございます!」
何故だか征士くんは、一切れ私に食べてみてくれと言った。
味を信用していないのかしら……。ぱくりと一切れ口に入れた。
「…………!」
征士くんが、私のチョコの粉が付いた口の端を、ぺろりと舐めた。
ふふ、と微笑む。
「月乃さんの唇含めて美味しいですね。もっと月乃さんが食べて、僕に御馳走してください」
冗談ではない! 私は生チョコを押し付け、帰宅した。
♦ ♦ ♦
ホワイトデーの日。また、征士くんの家へ招かれた。
「お返しに、手作りアイスクリームを作ってみました」
ホワイトの名の通り、真っ白なアイスクリーム。
男の子なのに、お菓子作りも出来るのね……。私は感心した。
小皿に盛ってくれたので、ありがたくいただいた。
「ん、美味しい!」
文句なしに美味しかった。夢中で一皿食べ終えた。
「美味しかったわ。征士くんは食べないの?」
「これから食べます」
征士くんは私から小皿を受け取った隙に、また口付けた。
「やっぱり、月乃さんごと美味しい」
大きい瞳を笑みの形にして言った。
この婚約者は……。
呆れかえったけれど、私もまあ、悪い気はしないので、許してあげようか……。
お菓子も甘いが、大概私も、年下婚約者に甘いなあと思った。
放課後、僕は担任に職員室へ呼び出されていた。
勿論、心当たりはある。最近まともに授業を受けていない。
「瀬戸。最近のお前はどうしたんだ? 以前は模範的生徒だったのに」
「…………」
どうしたもこうしたもない。僕は月乃さんに嫌われている。
そう思うだけで、泣きそうだ。
志野谷のせいもある。でも、僕が無理にキスしてしまったからかもしれない。
キスしたことに関しては、後悔していない。
あの場で、他に月乃さんへ愛情を伝える術が思いつかなかった。
月乃さんは抱き心地が良かった。キスも甘い味がした。
僕は思い出して、そっと自分の唇に触れた。
「おい、瀬戸! 聞いているのか?」
聞いていない。
僕は手にしている携帯と腕時計をちらりと見た。
携帯には何の連絡も入っていない。
今日は月乃さんの必修講義も、サークルもない日だ。
腕時計は、月乃さんからの大切な誕生日プレゼント。一生大事に使うと決めている。
「最近、授業の途中で大学へ行っているそうだな」
担任がそう言った。どうして知っているのか。
「知り合いの大学関係者に聞いた。高等部の制服の男子生徒がうろうろしていると」
確かにもう二週間くらい、大学に通い詰めている。噂になるかもしれない。
「いい加減にしろ。お前はまだ高等部生なんだぞ。大学に何の用なんだ」
「…………」
答えられる訳がない。
しかも、いい加減にしろと言われても、月乃さんの誤解が解けるまで大学には行き続ける。
僕が黙り込んでいると、職員室の扉が開いた。
「あの……。失礼します。瀬戸征士の保護者です」
「ああ、瀬戸くんのご両親ですね。お待ちしていました」
両親が担任の所へ来た。
「お呼び立てしてすみません。最近の瀬戸征士くんの、授業態度があまりにもひどくて……」
両親まで呼び出したのか。僕は何とも言えない気分になった。
「誠に申し訳ありません」
両親は頭を深く下げた。
僕は学校でもひどい態度だけど、家でだって荒れた生活を送っている。
月乃さんに婚約解消されたからなのは、家族中が知っている。
僕は月乃さんのことが好きで堪らない。
その他のことは、構っていられない。
担任に両親は僕のことを問われたが、両親も無言を貫いた。
ただ、謝るだけ。
担任は溜息をついた。
「いいですか? このままでいくと、瀬戸くんは停学ですよ」
「…………」
僕も両親も、沈黙したまま。
いっそ停学になってしまえば、月乃さんにもっと纏わりつけるかも……。
かなり、捨て鉢な気持ちだ。
そんな僕達に見切りをつけたのか、担任は半ば投げやりに帰って良いと言った。
帰路で、両親が話しかけてきた。
「征士……。そんなに落ち込まないで。ちゃんと回復するまで、見守るから」
見守る? 馬鹿を言わないで欲しい。
愛しい月乃さんの婚約者に戻れるまで、僕は回復しないだろう。
月乃さんの優しい笑顔を思い浮かべただけで、また涙が零れた。
月乃さん、月乃さん。どうしたら、僕を見てくれる?
僕の一番大事な人。でも、手が届かない。
五歳上のお嬢様。婚約者じゃなければ、死ぬ程遠い存在だ。
僕は高価な腕時計を、握り締めた。
誤解が解けたのは、次の日曜日だった。
でも、婚約者にはなれなかった。『お友達』になった。
『お友達』からでも、絶対また婚約者になってやる!
♦ ♦ ♦
● 再び婚約後の月乃さん視点
私と征士くんが再び婚約してからのバレンタインデー。
珍しく、征士くんはリクエストしてきた。
「月乃さんが作った、蕩けるような生チョコが食べたいです」
生チョコは作ったことがない。
レシピを調べ、生クリームをたっぷり使って作ってみた。
バレンタインに彼の部屋で手渡すと、ものすごく喜んでくれた。
「ありがとうございます!」
何故だか征士くんは、一切れ私に食べてみてくれと言った。
味を信用していないのかしら……。ぱくりと一切れ口に入れた。
「…………!」
征士くんが、私のチョコの粉が付いた口の端を、ぺろりと舐めた。
ふふ、と微笑む。
「月乃さんの唇含めて美味しいですね。もっと月乃さんが食べて、僕に御馳走してください」
冗談ではない! 私は生チョコを押し付け、帰宅した。
♦ ♦ ♦
ホワイトデーの日。また、征士くんの家へ招かれた。
「お返しに、手作りアイスクリームを作ってみました」
ホワイトの名の通り、真っ白なアイスクリーム。
男の子なのに、お菓子作りも出来るのね……。私は感心した。
小皿に盛ってくれたので、ありがたくいただいた。
「ん、美味しい!」
文句なしに美味しかった。夢中で一皿食べ終えた。
「美味しかったわ。征士くんは食べないの?」
「これから食べます」
征士くんは私から小皿を受け取った隙に、また口付けた。
「やっぱり、月乃さんごと美味しい」
大きい瞳を笑みの形にして言った。
この婚約者は……。
呆れかえったけれど、私もまあ、悪い気はしないので、許してあげようか……。
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