先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村

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第十一章

第283話 初出場

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 年末年始を挟んで行われている、高校サッカー界の頂点を決める大会——選手権は、三回戦を終えて八チームまで絞られていた。
 プレミアウエストを二試合を残して優勝し、プレミアファイナルも制した洛王らくおう高校、洛王に敗れはしたものの、プレミアイーストを制した咲麗しょうれい高校、咲麗と最後までプレミアイーストの優勝を争った桐海とうかい高校など、名だたる強豪が順調に駒を進めていた。

 一方で、快進撃を続けるチームもあった。全国初出場で準々決勝まで勝ち上がってきた青葉あおば学園だ。
 そして、三年前に着任した元プロサッカー選手の監督の元、徹底した個人技主義を掲げるこの新鋭高校こそが、たくみたち咲麗高校の準々決勝の相手だった。

「徹底した個人技主義っていうだけのことはあって、さすがにうめえな……」
「ですね。まるでフットサルチームを見ているみたいです」

 ベンチで唸るはやしに、巧も同意した。
 失点に直結するミスもあったものの、京極きょうごく大介だいすけのフィジカルとエナジーを重要なファクターだと考えたのか、三回戦に続いて青葉戦も、林ではなく彼を飛鳥あすかの相棒に据えていた。

 三回戦が終了してから、大介はミスを悔やむどころかますますやる気を見せていた。
 花梨かりんに応援されてさらにモチベーションが高まったのだろうというのが、巧たち彼女の存在を知る者たちの出した結論だった。見事、的中である。

 そんな大介や飛鳥たち守備陣が集中を切らさずに守っているため、失点はしていないが、何度か危ない場面を作られるほど、青葉の攻撃は強力だった。
 ただ、攻撃力だけで勝ち上がれるほど、選手権は甘くない。対人能力の高さも、青葉の武器だった。

「おい、また水田みずたが攻めあぐねてるぞ」
「こっから感じる以上に隙がないんだろうな」
まこともダブルチームとはいえ、結構抑えられてるもんな。マジでずっと一対一の練習してんじゃねえの?」
「そう思いたいけど、ボールに関わってない選手の動きもしっかりしてるよな」

 そう。青葉は真を除いてほとんどマンツーマンディフェンスを徹底しているが、ボール保持者をマークしている選手以外の動きもしっかりと組織化されていた。
 そして一度ボールを奪うや否や、数的不利などなんのそのと言わんばかりの、個人技を主体とした鋭いカウンターを炸裂させ、咲麗が守備陣形を整えばしっかりとボールを回して隙を窺う。

 三回戦の武陵ぶりょう戦と同じように前半をスコアレスドローで終えたが、試合内容は全く異なるものだった。
 戦力差を理解して、フィジカル勝負に持ち込みつつカウンター狙いだった武陵とは異なり、青葉は一歩も引くことなく、咲麗と五角に渡り合っていた。

 咲麗はハーフタイムに、左サイドバックの馬場ばばを林に、右サイドハーフの堀内ほりうち蒼太そうたにそれぞれ交代し、武陵戦と同じようにスリーバックに変更した。
 なんとかして状況を打破したい——。
 そんなコーチ陣の思いは、裏目に出ることになる。

「巧、ペースを上げておけ」

 京極がベンチスタートだった巧にそう声をかけた直後、咲麗は前がかりになった隙を突かれて失点した。
 チームとして攻撃に転じた際に蒼太がボールを奪われ、両ウイングバックが戻りきれないまま、数的不利の状態で完璧に崩されたのだ。

「巧、いけるか?」
「はい、大丈夫です」

 前半の段階からアップをしていたため、体は温まっていた。
 戦術もちゃんと頭に入っているし、二回ほどしか全体練習に参加できなかったとはいえ、今のチームに順応できているという感覚もあった。

 しかし、今大会初めて先制を許した中で全国デビューという状況には、さしもの巧も緊張を覚えていた。
 心臓の鼓動が響き、呼吸が浅くなる。

 こんなこと、いつ以来だろう——。
 そんなことを考えつつ、深呼吸をしていると、不意に背中に温もりが触れた。

「大丈夫ですよ、巧先輩」

 香奈かなが巧の背中に手を添え、不安なんて一つもないような優しい笑みを浮かべた。
 その赤い瞳は、どこまでも真っ直ぐに巧を見つめている。

「……緊張してるの、バレた?」
「はい。手に取るように」
「さすがだね」
「ふっふっふ。この美少女敏腕マネージャー白雪しらゆき香奈かなにかかれば、巧先輩の心の中なんてまるっとお見通しなのですよ」
「そっか」

 えへんと胸を張って得意げに笑う香奈に、巧も自然と笑みを浮かべていた。
 彼の手をぎゅっと力強く握りしめ、香奈はにっこりと笑った。

「巧先輩ならできます。誰よりも近くで見てきた私が保証します!」
「香奈……」

 手から伝わってくる彼女の体温は、寒さを吹き飛ばす陽だまりのようだった。
 巧の心のざわめきは、いつの間にか消え去っていた。

「……うん、もう大丈夫そうですね」

 自信を取り戻した巧を見て、香奈は安心したようにうなずいた。

「香奈のおかげだよ。ありがとう」
「ま、またみんなの前でっ……!」

 巧が優しく香奈の髪を撫でると、一瞬で彼女の顔が真っ赤になった。
 しかし、彼の手を振り払おうとはしなかった。

「全くもう、しょうがない人ですね、巧先輩は」

 そう言って照れたように笑いながら、香奈は拳を差し出した。

「——頑張ってください!」
「うん!」

 巧も屈託のない笑顔で、香奈と拳を合わせた。
 ついで、ベンチの仲間のもとに向かう。彼らは一様に呆れた表情を浮かべながら、手のひらを差し出していた。

「こんな場面でもイチャつくとか、肝が据わってんじゃねえか」
「さすが巧先輩っすね」
「もはやイチャつかないと死ぬ呪いにでもかかってんじゃねえの?」
「絶対それですね」
「おかしいな。誰一人として応援してくれない」

 巧が悲しそうな表情でそう呟くと、

「「「お前らがイチャイチャしてっからだろうが」」」

 一斉にあちこちからツッコミが入った。
 巧は吹き出すのを必死にこらえながら、副審の元へ向かった。
 交代するのは蒼太だ。

「巧先輩……すいませんっ、俺——」
「大丈夫。ここで終わらせはしないよ」
「っ……!」

 自責の念を浮かべる蒼太にそう声をかけながら、巧はそっと抱きしめた。
 励ますようにポンポンとその背中を叩き、ピッチへと足を踏み入れた。

 ——その後ろ姿を、蒼太は呆けた表情で見送った。
 自分よりも小さいはずの巧の背中が、なんだか山よりも大きく見えた。

姫野ひめの君、もしかして巧先輩に惚れた?」
「し、白雪」

 香奈に声をかけられ、蒼太は我に返った。

「んなわけねえだろ。ただ……頼りになるなって、そう思っただけだ」

 ここで、いつもの香奈であれば自分のことのように喜び、得意げにふんすと鼻息の一つでも漏らすのだが、彼女の視線は厳しいままだ。
 蒼太はうつむいた。

「……すまん。せっかくの巧先輩のデビューなのに、俺が試合を難しくしちゃって」
「えっ? ううん、そんなのは全然気にしてないよ。むしろ、巧先輩なら今の状況に燃えてるだろうし、そもそも失点だって姫野君一人の責任じゃないしね。そんなに落ち込むことないよ」
「あ、あぁ、サンキュー……でも、ならなんで、俺のこと睨んでるんだ?」

 蒼太の問いに、香奈は若干の罪悪感を浮かべつつも、唇を尖らせた。

「……だって、ハグしてたじゃん」
「えっ?」
「ハグ、巧先輩としてたじゃん。私はグータッチで我慢したっていうのに……ずるいよ」
「なんだそれ」

 蒼太は思わず吹き出してしまった。
 なんで笑うの、と香奈はむくれていたが、やがてふっと表情を緩めた。

 蒼太はすぐに笑いを引っ込めたが、気がづけば、心を覆い尽くそうとしていたモヤモヤはほとんど消え去っていた。

「……サンキューな、白雪」
「えっ、何が?」
「いや、なんでもねえよ」

 蒼太は首を振り、ピッチに視線を戻した。

「うお、すげえパス!」
如月きさらぎってやつ、もしかしてすげえんじゃねえの⁉︎」
「さすが咲麗の小さな魔術師だっ!」
「そんな呼び名があったのか?」
「やっぱり、如月のプレーは見ててワクワクするなぁ!」

 巧は最初のプレーで、見事に誠治せいじへワンタッチの縦パスを通してみせた。
 巧のことを知っている観客も知らない観客も、大いに沸いた。

「やっぱすげえなぁ」

 蒼太は苦笑にも似た笑みを浮かべた。
 そして思う。巧なら、必ずなんとかしてくれるだろう——と。
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