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第1章 人と魔族と精霊と
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一心に注がれるアリーシャへの視線。
少し罰が悪くなり私達は言葉を失った。
「アリーシャ、起きてたんだ」
椎名の言葉にアリーシャは改めてベッドからむくりと起き上がった。
それからちらと私達の方へと視線を向けた後、少し俯いた。
アリーシャの顔色は思いの外血色は良好で、すっかり傷も癒えたようだった。
この世界の回復魔法とは凄いものだ。
あの深手をほんの数時間で治してしまうのだから。
体調面ではもう特に何の問題はなさそうだ。
だが、精神面についてはどうか。
アリーシャは自身の手に視線を落とし、やがて呟くように口を開いた。
「私は……、一体どれくらい気を失っていたのだろうか」
紡ぎ出される言葉からは覇気が感じられない。
いつもの凛とした涼やかさ、堂々とした振る舞いの中に感じられる流麗さとでも言えばいいだろうか。
とにかく彼女の王女たる威厳のようなものはすっかり鳴りを潜め、ただの一人の少女のような儚さを湛えているように思えるのだ。
「半日程度だ」
私の答えにふっと顔を上げるアリーシャ。
「――そうか。街の……魔族達は?」
「この街に来た魔族は何とか一掃したわ。ただし、ライラを除いて――だけどね」
椎名の口からライラという名前が出てきて明らかにアリーシャの体が硬直し、少なからず動揺しているのが見てとれた。
回りくどいやり取りを好まない椎名の事だ。ライラの名前をわざと出したのだろう。
もし仮にここでアリーシャが大きく動揺の色を見せるのなら、それを理由に置いていくとでも言うつもりなのかもしれない。
そうやってアリーシャの挙動を見守り、試しているのだ。
当のアリーシャはというと、自身の手を見つめながら神妙な顔つきを見せた。
「そうか、良かった。しかし――やはりあれは夢では無かったのだな」
アリーシャのその呟きからは大きな動揺は見られない。
心の中も妙に落ち着いているように感じられた。
今彼女は胸中に何を思うのか。
私はライラには直接会ってはいない。
聞く所によると、ライラはアリーシャが師と仰いでいた人物だったとか。そんな相手に裏切られたのだ。
しかもそれが魔族だったと来れば衝撃も一潮だろうとは思うのだ。
だが今のアリーシャはどうだ。
私が思っていた反応とは少し、異なる印象を受けた。
「アリーシャ、本当に行くつもり?」
単刀直入にアリーシャに質問を浴びせる椎名。
アリーシャは弾かれたように再び顔を上げ、椎名の方を向いた。
上げた顔が一瞬歪んでいるように見えたが、やがて決意の眼差しで言葉を紡いでいく。
「ああ、行く。私は一国の王女だ。たとえ何があろうと、国の危機には駆けつける所存だ。ライラの件しても、私は王女である前に一人の騎士として、けじめをつけに行く」
アリーシャの瞳に迷いは無かった。
いつもの凛としたアリーシャだ。
話しながら多少は自分に言い聞かせている部分もあったのかもしれない。
だがそれでもアリーシャの意思は私達が思っているよりもずっと固いのだ。
それに彼女の心は今、揺らめきながらも燦然てした輝きを放っている。そう感じるのだ。
これだけの事があって、さほど時間も経ってもいないというのに、このような毅然とした振る舞いを見せられるものなのか。
彼女を素直に凄いと思った。
年下と言えど尊敬に値する人物だと。
「そうか。ならば私達からはもう何も言うことはあるまい。私達としてもアリーシャがいてくれた方が何倍も心強いのだからな」
「――そうね、アリーシャ、この先も頼むわね」
多少の逡巡は見せたものの、椎名もやがては納得したようだ。
「アリーシャ。よろしくお願いします」
美奈もにこやかに微笑んで彼女の手を取った。
アリーシャはほんの少し頬を朱に染めて、こくりと頷いた。
私達三人はアリーシャの決意に当てられながら、彼女の輝きに吸い込まれていくような感覚だった。
これが王家の人間。
カリスマ性とでも言うのだろうか。
彼女の力になってあげたい。
今私達はそんな想いで彼女を見つめていたのだ。
少し罰が悪くなり私達は言葉を失った。
「アリーシャ、起きてたんだ」
椎名の言葉にアリーシャは改めてベッドからむくりと起き上がった。
それからちらと私達の方へと視線を向けた後、少し俯いた。
アリーシャの顔色は思いの外血色は良好で、すっかり傷も癒えたようだった。
この世界の回復魔法とは凄いものだ。
あの深手をほんの数時間で治してしまうのだから。
体調面ではもう特に何の問題はなさそうだ。
だが、精神面についてはどうか。
アリーシャは自身の手に視線を落とし、やがて呟くように口を開いた。
「私は……、一体どれくらい気を失っていたのだろうか」
紡ぎ出される言葉からは覇気が感じられない。
いつもの凛とした涼やかさ、堂々とした振る舞いの中に感じられる流麗さとでも言えばいいだろうか。
とにかく彼女の王女たる威厳のようなものはすっかり鳴りを潜め、ただの一人の少女のような儚さを湛えているように思えるのだ。
「半日程度だ」
私の答えにふっと顔を上げるアリーシャ。
「――そうか。街の……魔族達は?」
「この街に来た魔族は何とか一掃したわ。ただし、ライラを除いて――だけどね」
椎名の口からライラという名前が出てきて明らかにアリーシャの体が硬直し、少なからず動揺しているのが見てとれた。
回りくどいやり取りを好まない椎名の事だ。ライラの名前をわざと出したのだろう。
もし仮にここでアリーシャが大きく動揺の色を見せるのなら、それを理由に置いていくとでも言うつもりなのかもしれない。
そうやってアリーシャの挙動を見守り、試しているのだ。
当のアリーシャはというと、自身の手を見つめながら神妙な顔つきを見せた。
「そうか、良かった。しかし――やはりあれは夢では無かったのだな」
アリーシャのその呟きからは大きな動揺は見られない。
心の中も妙に落ち着いているように感じられた。
今彼女は胸中に何を思うのか。
私はライラには直接会ってはいない。
聞く所によると、ライラはアリーシャが師と仰いでいた人物だったとか。そんな相手に裏切られたのだ。
しかもそれが魔族だったと来れば衝撃も一潮だろうとは思うのだ。
だが今のアリーシャはどうだ。
私が思っていた反応とは少し、異なる印象を受けた。
「アリーシャ、本当に行くつもり?」
単刀直入にアリーシャに質問を浴びせる椎名。
アリーシャは弾かれたように再び顔を上げ、椎名の方を向いた。
上げた顔が一瞬歪んでいるように見えたが、やがて決意の眼差しで言葉を紡いでいく。
「ああ、行く。私は一国の王女だ。たとえ何があろうと、国の危機には駆けつける所存だ。ライラの件しても、私は王女である前に一人の騎士として、けじめをつけに行く」
アリーシャの瞳に迷いは無かった。
いつもの凛としたアリーシャだ。
話しながら多少は自分に言い聞かせている部分もあったのかもしれない。
だがそれでもアリーシャの意思は私達が思っているよりもずっと固いのだ。
それに彼女の心は今、揺らめきながらも燦然てした輝きを放っている。そう感じるのだ。
これだけの事があって、さほど時間も経ってもいないというのに、このような毅然とした振る舞いを見せられるものなのか。
彼女を素直に凄いと思った。
年下と言えど尊敬に値する人物だと。
「そうか。ならば私達からはもう何も言うことはあるまい。私達としてもアリーシャがいてくれた方が何倍も心強いのだからな」
「――そうね、アリーシャ、この先も頼むわね」
多少の逡巡は見せたものの、椎名もやがては納得したようだ。
「アリーシャ。よろしくお願いします」
美奈もにこやかに微笑んで彼女の手を取った。
アリーシャはほんの少し頬を朱に染めて、こくりと頷いた。
私達三人はアリーシャの決意に当てられながら、彼女の輝きに吸い込まれていくような感覚だった。
これが王家の人間。
カリスマ性とでも言うのだろうか。
彼女の力になってあげたい。
今私達はそんな想いで彼女を見つめていたのだ。
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