私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
111 / 135
第1章 人と魔族と精霊と

3ー3

しおりを挟む
  仲間の安否確認。
  その辺の事情は意識を失っていた私達より美奈が一番詳しい筈だ。
  彼女は私と椎名の視線を受けて頷いた。

「うん。私ね、皆が気を失っている間にせめて自分が出来ることをやろうと思って、フィリアさんと別れた場所に戻ってみたの。後、工藤くんのことを見た人がいないか街の人にも聞いて回ったんだ」

「「――――っ」」

  私と椎名の肩がぴくりと揺れた。
  どうやら私達が気を失っている間に、美奈は随分と一人で頑張ってくれていたようだ。
  一人での行動は危険とも言える。だが今はその事については言及しない。
  彼女の気持ちを考えればそうせずにはいられなかったのだろうから。
  彼女の胸の中に言い様のない不安が渦巻いているであろうことは一目瞭然だ。
  結果として今無事である事に変わりは無いのだし、いちいち物申していたら話が進まなくなってしまう。

「それで?」

  椎名がこくりと喉を鳴らす。彼女が先を促すと美奈は少し伏し目がちになった。

「……フィリアさんはいなかった。更にインソムニアで手に入れた魔石も持っていかれてて、馬車だけが残っていたの。……多分連れ去られたんだと思う。工藤くんのことも街である程度聞いて回ったけど、目撃者は誰もいなかった。少なくともこの街には来ていないんだと思う」

  そう言って美奈は再び顔を曇らせてしまう。
  俯いて膝の上に置いた拳を強く握り締めている。
  自分の無力さを悔いている、といったような気持ちだろうか。

「そう、やっぱりうまく嵌められたみたいね。結局今回の敵の目的は二つ。私たちをうまく分散して人質を取ること。そして私たちを更に強くすること。」

「強く……する?」

  美奈は椎名の話を聞いて不思議そうな顔をした。
  確かに普通に考えれば何故わざわざ敵に塩を送るような事をするのかと思うだろう。
  だが私も椎名の意見には同意であった。

「美奈。魔族というものは人間達を利用して楽しんでいるのだ。特に予言の勇者である私達に対しては自分達のいい遊び相手くらいに思っているのだろう。だからいつも私達が越えられるか越えられないか、ギリギリくらいの障害を用意してくるのだ」

  自分で言っていて情けなくならなくも無いが、それは恐らく事実だろう。
  でなければ私達などとっくに殺されている。
  それだけの強さと余裕を魔族達からは感じるのだ。
  奴らにとっては日々成長する私達が、遊び相手として丁度いいのだろう。
  その過程で私達が倒されればそれはそれでしょうがない、ぐらいに考えているに違いない。
  改めて実感した。これは魔族にとってはただの娯楽だ。
  そして面倒なことに、私達が必ずヒストリアへ赴くように人質まで取っているときた。
  何ともご大層なことである。
  一体こんな事がどこまで続くのか。終わりは来るのか。
  旅の終わり。
  それがあるとすればそれは魔王を討ち滅した時なのだろう。
  本当に、気の遠くなる話だ。

「ねえ、魔族は何でこんな酷いことするの?   魔族って何なの?」

  美奈の顔が哀しみに歪む。
  無理もない。助かったとはいえ、皆相当ボロボロになった。
  薄氷の勝利と言っても過言ではない。
  それ程までにギリギリの戦いだったのだ。

「魔族……か。全く解り合えそうにはないわよね。まあそれでもさ、あいつらが散々私たちをいじめてくれたお陰で、また新しい力を手に入れられたんだから、その点には素直に感謝するわ」

  椎名は腕を頭の後ろで組んで天井を見上げている。  
  ベッドにもたれ掛かりながらそんな事を呟く彼女からは、別段魔族に対する恐怖というものは感じられないように思える。
  本当に、すごい奴だ。
  椎名がいなければとっくに詰んでいた。
  彼女の活躍には素直に賞賛の気持ちが湧いてくるのだ。
  それはさておき――。
  椎名、いい加減上着着ろよ。
  彼女のあっけらかんとして無防備すぎる所作にはいつも呆れさせられるのだ。
  ちらと目が合う。彼女は何も知らず、目をぱちくりとさせている。
  こうなったら彼女の柔肌を見続けてやろうか。
  そんな邪ないたずら心が芽生えてしまう。男の性というやつだ。

「隼人くん?  今何考えてる?」

「……何も……」

  突然の美奈のやけにはっきりとした声音に私は心底びくつきながら冷や汗を流すのだ。
  美奈。そういうところは本当に心臓に悪いからやめてほしい。

「さ、さて――。ではこの先の事についてだが」

  私は何食わぬ顔で咳払いを一つ。
  話題を変える事でこの場をさらりとすり抜けることにする。

「うん、そーね。とは言っても工藤くんとフィリアを助けるためにヒストリアへ乗り込むってだけだと思うんだけど、それでいい?」

「ああ。そうだな。時間も無いだろう、明日の昼までには経ちたいがそれで構わないか?」

「うん……私もそれでいいよ」

「もちろん。早いに越したことはないもんね」

  この辺りの事はトントン拍子に話が進んでいく。
  美奈は少し考えてから同意し、椎名は二つ返事で同意した。
  まあ友人である工藤の一大事に駆けつけないという選択肢は無いのだから当然と言えば当然だ。

「よし、では今日は休んで明日の朝、装備を整え昼前には発つ、というのでどうだろうか」

  ここからヒストリアへは馬車で更に三日程掛かる。
  人質の安否も心配であるし、出来る事なら今すぐにでも経ちたい気持ちもあるが、流石に心身共にボロボロの状態だ。
  こんな状態で挑んでもあっさり返り討ちの合うのは目に見えている。
  せめて一日、今日だけは休息を取りたい。
  美奈も椎名もそれには同意見のようで、二人共にこくりと頷いた。

「あの、それで。一個提案があるんだけど」

  椎名が手を上げたので二人の視線が彼女に集まる。
  頼むから椎名、服を着てくれ。

「何だ?」

「えっと……ヒストリア王国なんだけど、私たち三人で行かない?」

「アリーシャは置いていくと言うのか?」

「うん。さすがにキツいかなって思って」

「そう……なの?」

  美奈の問いに椎名は黙って頷く。
  同時に椎名が私の背中の後ろの方で眠るアリーシャをちらと見た。

「……大体察しはつくが、一応理由を聞いておこう」

「今回のヒストリア王国の一件なんだけど、私たちが思ってる以上に魔族の手が入り込んでると思うの。昼間も言ったけど、私が会ったライラっていう魔族。アリーシャの剣の師匠で騎士団の副団長らしいのよ。それにさ、初めてアリーシャに会った時も御者が魔族だったじゃない?  こんなに魔族が簡単に紛れ込めてしまえるってことは、最悪……ううん、ほぼ間違いないわ」

  椎名の発言に美奈は未だ小首を傾げているが、言いたいことは良く分かる。

「そうだな。私も椎名と同意見だ。おそらくヒストリアはもう、魔族に完全に支配されてしまっている」

「――だよね」

  それはアリーシャの身内が無事ではない。
  ともすれば最早いつからかすげ変わっているかもしれない可能性すらあるのだ。
  その事実をアリーシャが知った時、まともに戦えるだろうか。
  いや、そもそもアリーシャの心は壊れてしまうのではないか。
  そんな思考が頭に過る。
  私は重い首をもたげ、それからゆっくりと顔を上げた。

「うむ……そうだな……アリーシャには悪いが――」
「待ってくれ。私は君達について行くぞ」

「――アリーシャ!」

  その時私の肯定の言葉を掻き消すように、目を覚ましたアリーシャの声が静かな室内に響いたのだ。
しおりを挟む
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...