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第2章 ピスタ襲来、限界を越えたその先に
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椎名は突然私の目の前に現れたかと思うと、笑んで魔族との間に立ち塞がった。
そこには消える前の彼女からは想像もつかないほどに確かな自信が見て取れる。
だがそれでも、ダメージも疲労も回復したわけではない。体の傷は消えてはいない。限界はとうに越えている。それは確かなのではないだろうか。
ただ、今の彼女にそれを毛ほども感じさせない充足感を感じるのは何故だろうか。
「おまえ!? さっき消滅したはずじゃ!?」
狼の魔族が驚きの声を上げる。それに椎名は大袈裟にため息をつく。
「あのねえ、私を勝手にこの世から消さないでくれる? そんな簡単にやられてたまるもんですか。まだまだこの先やりたいことはたっくさんあるんだから」
椎名の挑発な笑み。こういう彼女の素振りを見ていると、それでこそ椎名と思わなくもない。
からかい半分で目の前の者を相手取るような。いつだって余裕を持ち、相手を翻弄する。
「……けっ、まあいい。どのみちお前らはもうここまでだよ。ククク……」
狼の魔族は下卑た笑みを張り付けて、その突き出た顎先から涎を滴らせる。
まるで逃がした獲物が自分の元へと帰って来て喜んでいるようにすら思える。それだけ自分の力に自信があるのだろう。
それに、結局のところ魔族の言うとおりだ。
私と椎名は満身創痍。かくいう私は最早まともに戦えるだけの力を残していない。というか立っているのもやっとなのだ。
対する魔族はというとまだその数を半数近く残している。
鷲の魔族を一瞬で細切れにした事で、何かしらのパワーアップは出来たのかもしれないが、この後実質コイツらを椎名が一人で退けられなければ状況の打破は難しいのだ。
「――それはどうかしらね。とにかくかかってきなさいよ」
そんな私の思惑とは裏腹に、椎名は相変わらず余裕な態度を示し続ける。
更に指先をクイクイと自分の方へ向けて、あくまで挑発的な姿勢を取ったのだ。
何か策でもあるというのか。
今ここで相手を逆上させても火に油を注ぐだけ。メリットは全くなさそうに思えるのだが。
そうこうしている内に案の定、動揺を見せない椎名の態度に狼の魔族は苛立ちを覚えたようであった。
「ククク……いいぜ。このクソアマが……もっかい死んどけやあっ!!」
狼の魔族の叫びと共に一斉に残りのレッサーデーモンがヒートブレスを放つ。
十数匹のヒートブレスの一斉照射。
熱線の帯は幾重にも重なり合い、これまでの比ではない熱量を帯びる。
こんなもの、どうしようも無いではないか。二人とも、露と消える。
私は逃げる事も忘れ、目の前の光を立ち竦んで眺めてしまっていた。
というかもう、逃げる力すら残されていないのだ。
まるでこの世の終わりとも思える一瞬の煌めきに、もう恐れを抱くどころか美しさすら感じてしまっていたのかもしれない。
私達に光が降り注ぐ直前。
椎名はというと徐に、ゆっくりとした動きで手を前にかざした。
――――ドンッ!!
するとどうだろう。ヒートブレスの光の帯は彼女の目の前で豪快な爆発音を立て、見えない壁に阻まれたように破裂した。
――いや、違う。
椎名が放った風のエネルギーでブレスの流れは畝りを加え、その場に揺蕩うように止まった。
直進するブレスのエネルギーを流動的に回転させ、往なしているのだ。
やがてブレスは流されるままに、巨大な回転する炎の塊を形成した。
「なっ!? ……何だこれはっ」
狼の魔族が瞳孔を大きく見開き、震えながら後退っていく。
「返すわね」
椎名が手を前に突き出すと、火球はレッサーデーモンの群れの中へと放たれた。
直撃と共に火柱が立ち上り、残っていた全てのレッサーデーモンを消滅させてしまったのだ。
「なんだとっ!?」
驚愕する四級魔族達。
私自身もこれには驚きを隠せなかった。
あれ程の熱量の光線を全て往なして返してしまうなど。風の扱いが今までとは比べ物にならない。段違いだ。
「おおおおぉ……ん」
木の魔族が動いた。
自身の枝を無数に伸ばし、椎名の回りを取り囲むように檻を形成する。
中に閉じ込めて動きを封じるつもりだろう。
だがそんな事は椎名も承知しているはずだ。
それが分かっていながらも、彼女はその場から動くことはない。
「確かにさっきまでだったらあっさりと捕まってたでしょうけどね」
静かにそう呟きながら椎名は両手を左右に開いた。
「かまいたちっ!」
椎名がそう言葉を発した瞬間、彼女の指から無数の風の刃が生み出された。
先程鷲の魔族をやった時もこの技だったのだろう。全ての枝が細切れになり、カラカラと乾いた音を立てながら地に落ちる。
「今までの私だったら風を練って刃を造り出すのは難しくて、せいぜい一つが限界だったんだけどね」
椎名は枝が落ちて丸裸になった木の魔族に両手をかざした。
「何せ今の私は風を操れるだけじゃなくて――」
翳した手から再び無数の風の刃が出現する。
「う……おおおぉぉぉ……ん……」
あっという間に木の魔族の本体も細切れになり、消滅してしまったのだ。
「風を生み出せるのよね。それも対魔族の風を」
一部始終を目の当たりにして、残った亀と狼の魔族はわなわなと震えている。
ここまで来れば最早形勢は逆転したと言っていいだろう。
予想以上だ。まさかここまでとは。
圧倒的な力の差をまざまざと見せつけられて、味方である私ですらも戦慄を覚えたほどであった。
そこには消える前の彼女からは想像もつかないほどに確かな自信が見て取れる。
だがそれでも、ダメージも疲労も回復したわけではない。体の傷は消えてはいない。限界はとうに越えている。それは確かなのではないだろうか。
ただ、今の彼女にそれを毛ほども感じさせない充足感を感じるのは何故だろうか。
「おまえ!? さっき消滅したはずじゃ!?」
狼の魔族が驚きの声を上げる。それに椎名は大袈裟にため息をつく。
「あのねえ、私を勝手にこの世から消さないでくれる? そんな簡単にやられてたまるもんですか。まだまだこの先やりたいことはたっくさんあるんだから」
椎名の挑発な笑み。こういう彼女の素振りを見ていると、それでこそ椎名と思わなくもない。
からかい半分で目の前の者を相手取るような。いつだって余裕を持ち、相手を翻弄する。
「……けっ、まあいい。どのみちお前らはもうここまでだよ。ククク……」
狼の魔族は下卑た笑みを張り付けて、その突き出た顎先から涎を滴らせる。
まるで逃がした獲物が自分の元へと帰って来て喜んでいるようにすら思える。それだけ自分の力に自信があるのだろう。
それに、結局のところ魔族の言うとおりだ。
私と椎名は満身創痍。かくいう私は最早まともに戦えるだけの力を残していない。というか立っているのもやっとなのだ。
対する魔族はというとまだその数を半数近く残している。
鷲の魔族を一瞬で細切れにした事で、何かしらのパワーアップは出来たのかもしれないが、この後実質コイツらを椎名が一人で退けられなければ状況の打破は難しいのだ。
「――それはどうかしらね。とにかくかかってきなさいよ」
そんな私の思惑とは裏腹に、椎名は相変わらず余裕な態度を示し続ける。
更に指先をクイクイと自分の方へ向けて、あくまで挑発的な姿勢を取ったのだ。
何か策でもあるというのか。
今ここで相手を逆上させても火に油を注ぐだけ。メリットは全くなさそうに思えるのだが。
そうこうしている内に案の定、動揺を見せない椎名の態度に狼の魔族は苛立ちを覚えたようであった。
「ククク……いいぜ。このクソアマが……もっかい死んどけやあっ!!」
狼の魔族の叫びと共に一斉に残りのレッサーデーモンがヒートブレスを放つ。
十数匹のヒートブレスの一斉照射。
熱線の帯は幾重にも重なり合い、これまでの比ではない熱量を帯びる。
こんなもの、どうしようも無いではないか。二人とも、露と消える。
私は逃げる事も忘れ、目の前の光を立ち竦んで眺めてしまっていた。
というかもう、逃げる力すら残されていないのだ。
まるでこの世の終わりとも思える一瞬の煌めきに、もう恐れを抱くどころか美しさすら感じてしまっていたのかもしれない。
私達に光が降り注ぐ直前。
椎名はというと徐に、ゆっくりとした動きで手を前にかざした。
――――ドンッ!!
するとどうだろう。ヒートブレスの光の帯は彼女の目の前で豪快な爆発音を立て、見えない壁に阻まれたように破裂した。
――いや、違う。
椎名が放った風のエネルギーでブレスの流れは畝りを加え、その場に揺蕩うように止まった。
直進するブレスのエネルギーを流動的に回転させ、往なしているのだ。
やがてブレスは流されるままに、巨大な回転する炎の塊を形成した。
「なっ!? ……何だこれはっ」
狼の魔族が瞳孔を大きく見開き、震えながら後退っていく。
「返すわね」
椎名が手を前に突き出すと、火球はレッサーデーモンの群れの中へと放たれた。
直撃と共に火柱が立ち上り、残っていた全てのレッサーデーモンを消滅させてしまったのだ。
「なんだとっ!?」
驚愕する四級魔族達。
私自身もこれには驚きを隠せなかった。
あれ程の熱量の光線を全て往なして返してしまうなど。風の扱いが今までとは比べ物にならない。段違いだ。
「おおおおぉ……ん」
木の魔族が動いた。
自身の枝を無数に伸ばし、椎名の回りを取り囲むように檻を形成する。
中に閉じ込めて動きを封じるつもりだろう。
だがそんな事は椎名も承知しているはずだ。
それが分かっていながらも、彼女はその場から動くことはない。
「確かにさっきまでだったらあっさりと捕まってたでしょうけどね」
静かにそう呟きながら椎名は両手を左右に開いた。
「かまいたちっ!」
椎名がそう言葉を発した瞬間、彼女の指から無数の風の刃が生み出された。
先程鷲の魔族をやった時もこの技だったのだろう。全ての枝が細切れになり、カラカラと乾いた音を立てながら地に落ちる。
「今までの私だったら風を練って刃を造り出すのは難しくて、せいぜい一つが限界だったんだけどね」
椎名は枝が落ちて丸裸になった木の魔族に両手をかざした。
「何せ今の私は風を操れるだけじゃなくて――」
翳した手から再び無数の風の刃が出現する。
「う……おおおぉぉぉ……ん……」
あっという間に木の魔族の本体も細切れになり、消滅してしまったのだ。
「風を生み出せるのよね。それも対魔族の風を」
一部始終を目の当たりにして、残った亀と狼の魔族はわなわなと震えている。
ここまで来れば最早形勢は逆転したと言っていいだろう。
予想以上だ。まさかここまでとは。
圧倒的な力の差をまざまざと見せつけられて、味方である私ですらも戦慄を覚えたほどであった。
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