51 / 135
第4章 戦いを終えて
46
しおりを挟む
それは若干照れているようにも見えるが、頬が少し赤いくらいで表情は硬いように感じられた。美奈のこの反応は不思議に思う。
違和感がありまくりなのだ。
「美奈? どうかしたのか?」
そう訊ねると、美奈は視線を逸らしつつ黙り込んでいた。
言い難い事なのか、逡巡しているように見える。
「美奈?」
もう一度名前を呼ぶとスッとこちらを伺うように見つめる美奈。
それから少しだけ言いにくそうに口を開いた。
「あの……ね? 私、隼人くんに無理してほしくない。それって危険だと思うから、出来ればその力はもう使わないでほしいなって思った。あの時の隼人くん、すごく怖かったから」
その言葉を聞いて私はハッとする。
確かにあの時美奈の助けがなければ実際どうなっていたか分からない。
もしかしたら皆に襲い掛かっていてもおかしくはなかったのだ。
美奈がそう言うのも無理はない。
私は自分の浅はかさを反省した。
一体何を浮き足だっていたのかと。
「そうだな。それに関しては私も今回で懲りている。二度と使うまい」
「うん、お願い」
美奈はそこで口の端は弛めてくれたものの、瞳の輝きだけは真摯で真剣そのものだった。
彼女にしてはすごく珍しい反応だ。
「……分かった」
「――うんっ!」
私はもう一度こくりと頷き肯定の意を示した。
そしたらようやく彼女は花のような笑顔を見せてくれた。
それに私は安堵する。
――にしても、だ。
魔族に対抗し得る手段が現状これしかないというのであれば、どうしようもない時が来たらこの攻撃方法に頼るしかないのだろうとも思う。
もちろんそんな事はおくびにも出さないが。
「あのさ、アツアツのところ悪いんだけどさ」
そこで椎名が再び口を開く。
アツアツの言い方が妙に刺々しい。見ればちらちらと私達二人を見ながら大袈裟に咳払いなどもしつつ。そこで少し距離が近すぎたかと気づく。
この時ばかりは私も美奈もびくんと体を跳ねさせ互いに距離を取った。
「おほんっ! ……えっと、何だ椎名」
「ま――まあいいけどさ……あのさっ。その攻撃って、プラマイゼロってわけにはいかないわけ?」
「ん?」
「いやさ、隼人くんが今言った、相手にぶつける力って私的に精神っていうか感情に近い気がするのよね。精神力ってさ、もっとこう透明っていうか、クリアな澱みないものだと思うのよ。別に何色にも染めなくていいんじゃないかなって。まあ言うだけじゃただの言葉遊びみたいなもんなんだけど……」
椎名も自信はなさげではあったが、私は素直に一理あるなと思う。
能力を使える私だから感じる。何となくではあるがそれはあながち間違っていないように思えた。
少なくとも諦めて力を使う事をやめてしまうよりはずっといい。
これから試してみる価値はありそうだ。
「ふむ……分かった。善処してみよう」
「うん、何も対策しないよりはいいでしょ? どうせ隼人くんのことだから……あ、まあいいわ。とにかく頑張ってみてよ」
「……そうだな」
そう言う彼女の言葉尻に何もかも見透かされている気がしつつ、彼女の心遣いにも感謝する。
ウインクしつつサムズアップをしてくる椎名はやはり誰よりも聡明で、理解のある女の子だ。
それにしても魔族に対する対抗手段はこれからの一番の課題だ。
グリアモールは撃退したとはいえ、この先魔族がこれ以上私達を狙って来ないとは到底思えない。
そうなれば戦いは避けられないだろう。
私はグリアモールのあの醜悪な姿を思いだしながら身震いしてしまう。
やはり私達にとって魔族との戦いというのは、全く以て自身の中で御しきれるような経験ではなかったのだから。
――――その後。
工藤と椎名の話もしようか持ちかけたが、大した話にはならなかった。
椎名からすると風と土の能力をそれぞれ得た、以上という事らしい。
まあ二人の能力は分かりやすいので説明は無用だろう。
更にこの先どうしていくかの話もしなければならなかったが、全員ここまで話すと最早お腹一杯という感じになった。
工藤に至っては少し前から完全に会話に入る事を諦めていたし、皆何となく真面目な話はこれ以上したくないなという雰囲気が漂っていた。
一旦休憩にしようかという時、部屋のドアを誰かがノックした。
小気味よい音が部屋の中に響く。
「はい」
返事をすると現れたのは村長のネムルさんだった。
相好を崩し私達四人を見回し口を開く。
「皆さま、少しお時間よろしいですかな?」
私達は顔を見合せつつ、村長を部屋に招き入れた。
違和感がありまくりなのだ。
「美奈? どうかしたのか?」
そう訊ねると、美奈は視線を逸らしつつ黙り込んでいた。
言い難い事なのか、逡巡しているように見える。
「美奈?」
もう一度名前を呼ぶとスッとこちらを伺うように見つめる美奈。
それから少しだけ言いにくそうに口を開いた。
「あの……ね? 私、隼人くんに無理してほしくない。それって危険だと思うから、出来ればその力はもう使わないでほしいなって思った。あの時の隼人くん、すごく怖かったから」
その言葉を聞いて私はハッとする。
確かにあの時美奈の助けがなければ実際どうなっていたか分からない。
もしかしたら皆に襲い掛かっていてもおかしくはなかったのだ。
美奈がそう言うのも無理はない。
私は自分の浅はかさを反省した。
一体何を浮き足だっていたのかと。
「そうだな。それに関しては私も今回で懲りている。二度と使うまい」
「うん、お願い」
美奈はそこで口の端は弛めてくれたものの、瞳の輝きだけは真摯で真剣そのものだった。
彼女にしてはすごく珍しい反応だ。
「……分かった」
「――うんっ!」
私はもう一度こくりと頷き肯定の意を示した。
そしたらようやく彼女は花のような笑顔を見せてくれた。
それに私は安堵する。
――にしても、だ。
魔族に対抗し得る手段が現状これしかないというのであれば、どうしようもない時が来たらこの攻撃方法に頼るしかないのだろうとも思う。
もちろんそんな事はおくびにも出さないが。
「あのさ、アツアツのところ悪いんだけどさ」
そこで椎名が再び口を開く。
アツアツの言い方が妙に刺々しい。見ればちらちらと私達二人を見ながら大袈裟に咳払いなどもしつつ。そこで少し距離が近すぎたかと気づく。
この時ばかりは私も美奈もびくんと体を跳ねさせ互いに距離を取った。
「おほんっ! ……えっと、何だ椎名」
「ま――まあいいけどさ……あのさっ。その攻撃って、プラマイゼロってわけにはいかないわけ?」
「ん?」
「いやさ、隼人くんが今言った、相手にぶつける力って私的に精神っていうか感情に近い気がするのよね。精神力ってさ、もっとこう透明っていうか、クリアな澱みないものだと思うのよ。別に何色にも染めなくていいんじゃないかなって。まあ言うだけじゃただの言葉遊びみたいなもんなんだけど……」
椎名も自信はなさげではあったが、私は素直に一理あるなと思う。
能力を使える私だから感じる。何となくではあるがそれはあながち間違っていないように思えた。
少なくとも諦めて力を使う事をやめてしまうよりはずっといい。
これから試してみる価値はありそうだ。
「ふむ……分かった。善処してみよう」
「うん、何も対策しないよりはいいでしょ? どうせ隼人くんのことだから……あ、まあいいわ。とにかく頑張ってみてよ」
「……そうだな」
そう言う彼女の言葉尻に何もかも見透かされている気がしつつ、彼女の心遣いにも感謝する。
ウインクしつつサムズアップをしてくる椎名はやはり誰よりも聡明で、理解のある女の子だ。
それにしても魔族に対する対抗手段はこれからの一番の課題だ。
グリアモールは撃退したとはいえ、この先魔族がこれ以上私達を狙って来ないとは到底思えない。
そうなれば戦いは避けられないだろう。
私はグリアモールのあの醜悪な姿を思いだしながら身震いしてしまう。
やはり私達にとって魔族との戦いというのは、全く以て自身の中で御しきれるような経験ではなかったのだから。
――――その後。
工藤と椎名の話もしようか持ちかけたが、大した話にはならなかった。
椎名からすると風と土の能力をそれぞれ得た、以上という事らしい。
まあ二人の能力は分かりやすいので説明は無用だろう。
更にこの先どうしていくかの話もしなければならなかったが、全員ここまで話すと最早お腹一杯という感じになった。
工藤に至っては少し前から完全に会話に入る事を諦めていたし、皆何となく真面目な話はこれ以上したくないなという雰囲気が漂っていた。
一旦休憩にしようかという時、部屋のドアを誰かがノックした。
小気味よい音が部屋の中に響く。
「はい」
返事をすると現れたのは村長のネムルさんだった。
相好を崩し私達四人を見回し口を開く。
「皆さま、少しお時間よろしいですかな?」
私達は顔を見合せつつ、村長を部屋に招き入れた。
0
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる