33 / 135
第3章 隼人の力、美奈の力
30
しおりを挟む
村に辿り着くと、そこにグリアモールの姿は未だなかった。
平穏な空気が流れていることと、穏やかな小鳥のさえずりがそれを物語っている。
ともすればグリアモールの襲撃を受けて家屋から火の手が上がっていてもおかしくはないとすら思っていたのだ。
私達の方が早かった?
その事にふと頭の中に違和感が駆け巡る。
私はあの魔族の消える能力は空間を移動するようなものだと思っていた。
なので一瞬にして村へとテレポートしたのかと思い、急いだのだがどうやら検討違いだったようだ。
とはいえこれはただの好機でしかない。
まだ着いていないとなれば、更に状況を有利に出来る可能性を得る。
「あ!? あなた方は、無事に戻られたのですね!?」
村の門番の一人が私達に気づいて駆け寄っそのまま私達は村の中へと足を踏み入れる。
「つーかアイツ来てねーじゃねーか!」
「そうね。でも必ず現れるはず。今のうちに美奈の毒をを治しちゃいましょう?」
「うむ、そうだな。それと念のために村の人達を一ヶ所に避難させておくとしよう。工藤、出来ればそれを頼みたい。無駄な犠牲は出ないようにしたいのだ。何かあればすぐに知らせてくれ。地の能力で大きな音でも出してくれればいい」
「ああ、わかってるよ」
私は門番に事情を説明し、工藤と共に村の人達に声を掛けてもらうよう頼んだ。
門番は疑う事なく二つ返事で協力してくれるようだ。
本当に常に思うのだが、この村の人達は素直で親切すぎる。
外から来た私達の言葉を何故そこまで信用し、言うことを聞き入れてくれるのか。
それにも私は違和感を覚えていた。今はそれが助かってはいるのだが。
次に私達はネムルさんの元へと向かった。
彼は私達を見るなり破顔して帰還を喜んでくれた。
「おおっ、よくぞご無事で戻られましたなっ!」
ネムルさんは帰還を破顔して喜んでくれた
私達も彼の笑顔に少しホッとした気持ちになる。
だがゆっくりしている場合でもない。
そんな事を考えていた矢先、ネムルさんの方が神妙な表情を作ったのだ。ことりと杖を鳴らし、俯いた。
「実は……あなた方に後でお話があります。――ですが、まずはミナ殿を助けるのが先ですな」
「はい」
ネムルさんの物言いは引っ掛かるが、今は美奈のいる部屋へと向かう。
彼女の容態が心配で正直気が気ではない。
部屋に着くと、美奈は眠っているというよりうなされていると形容した方がしっくりくるような状態だった。
私達が出発する時よりもさらに息が荒く、汗だくだ。
「美奈!」
私は彼女に駆け寄り、手を握りしめる。
掌はねっとりと汗ばんでおり、火でも吹くのではないかというくらい熱かった。
まだ二日目だというのにこの苦しみよう。
早く戻って来ることが出来て、本当に良かった。
「はあっ……、はあっ……」
「美奈、かなり苦しそう。早く、薬を!」
「出来ました! どうぞ!」
メリーさんが丁度、先程渡していたココナの花びらを煎じた薬を持ってきてくれた。仕事が早くて助かる。
陶器の器に入ったそれは白濁色の液体であった。
それを受け取った私は美奈の体を支えつつ、体を斜めに起こす。
「隼人……くん?」
気がついた美奈が弱々しく、掠れた声を上げた。胸が締めつけられる。
「美奈、薬だ。ゆっくり飲むんだ」
私は手にした薬の容器をゆっくりと彼女の口の中へと注ぎ込む。
「けほっ……けほっ……」
薬が思ったよりも苦かったのか、喉を通すのが辛いのか、すぐに咳き込む美奈。
「大丈夫だ美奈、焦らなくていい」
黙って頷き、そこからはこくこくと喉を鳴らしながら少しずつ、少しずつ飲み込んでいく。
ゆっくりと時間を掛けて全てを飲み干した頃、荒い息づかいは落ち着き、最後には穏やかな表情で目を閉じていた。
「……すう」
「また眠ったみたいね」
「……ああ、本当に良かった」
安堵したのか、美奈は再び眠りについたようだ。
安らかな寝息を立てて、呼吸も落ちついた。これでもう大丈夫だろう。
「……良かったのだ。美奈を――救えて」
「うん。本当に良かった」
胸に熱いものが込み上げてきた。椎名の手が肩にぽんと乗せられて、彼女の声も若干震えていた。
美奈の手からは確かな温もりが伝わり、緊張の糸が切れそうになってしまう。
『ドガァンッ!!!!』
「――っ!!」
外で岩が物にぶつかる音が響き、ネムルさんが顔を上げる。
「今の音は……」
ようやくその時が来たのだ。
感傷に浸っている暇はない。
「椎名、美奈の事は頼んだのだ」
「うん。すぐに二人で駆けつけるから」
私達は互いに目配せするとパチンッと手を合わせた。
彼女の瞳からは一筋涙が零れていたが、それは言わないでおく。
私は顔を上げ、前を向く。
二人をその場に残したまま、私は扉を開き外へと駆けていったのだ。
平穏な空気が流れていることと、穏やかな小鳥のさえずりがそれを物語っている。
ともすればグリアモールの襲撃を受けて家屋から火の手が上がっていてもおかしくはないとすら思っていたのだ。
私達の方が早かった?
その事にふと頭の中に違和感が駆け巡る。
私はあの魔族の消える能力は空間を移動するようなものだと思っていた。
なので一瞬にして村へとテレポートしたのかと思い、急いだのだがどうやら検討違いだったようだ。
とはいえこれはただの好機でしかない。
まだ着いていないとなれば、更に状況を有利に出来る可能性を得る。
「あ!? あなた方は、無事に戻られたのですね!?」
村の門番の一人が私達に気づいて駆け寄っそのまま私達は村の中へと足を踏み入れる。
「つーかアイツ来てねーじゃねーか!」
「そうね。でも必ず現れるはず。今のうちに美奈の毒をを治しちゃいましょう?」
「うむ、そうだな。それと念のために村の人達を一ヶ所に避難させておくとしよう。工藤、出来ればそれを頼みたい。無駄な犠牲は出ないようにしたいのだ。何かあればすぐに知らせてくれ。地の能力で大きな音でも出してくれればいい」
「ああ、わかってるよ」
私は門番に事情を説明し、工藤と共に村の人達に声を掛けてもらうよう頼んだ。
門番は疑う事なく二つ返事で協力してくれるようだ。
本当に常に思うのだが、この村の人達は素直で親切すぎる。
外から来た私達の言葉を何故そこまで信用し、言うことを聞き入れてくれるのか。
それにも私は違和感を覚えていた。今はそれが助かってはいるのだが。
次に私達はネムルさんの元へと向かった。
彼は私達を見るなり破顔して帰還を喜んでくれた。
「おおっ、よくぞご無事で戻られましたなっ!」
ネムルさんは帰還を破顔して喜んでくれた
私達も彼の笑顔に少しホッとした気持ちになる。
だがゆっくりしている場合でもない。
そんな事を考えていた矢先、ネムルさんの方が神妙な表情を作ったのだ。ことりと杖を鳴らし、俯いた。
「実は……あなた方に後でお話があります。――ですが、まずはミナ殿を助けるのが先ですな」
「はい」
ネムルさんの物言いは引っ掛かるが、今は美奈のいる部屋へと向かう。
彼女の容態が心配で正直気が気ではない。
部屋に着くと、美奈は眠っているというよりうなされていると形容した方がしっくりくるような状態だった。
私達が出発する時よりもさらに息が荒く、汗だくだ。
「美奈!」
私は彼女に駆け寄り、手を握りしめる。
掌はねっとりと汗ばんでおり、火でも吹くのではないかというくらい熱かった。
まだ二日目だというのにこの苦しみよう。
早く戻って来ることが出来て、本当に良かった。
「はあっ……、はあっ……」
「美奈、かなり苦しそう。早く、薬を!」
「出来ました! どうぞ!」
メリーさんが丁度、先程渡していたココナの花びらを煎じた薬を持ってきてくれた。仕事が早くて助かる。
陶器の器に入ったそれは白濁色の液体であった。
それを受け取った私は美奈の体を支えつつ、体を斜めに起こす。
「隼人……くん?」
気がついた美奈が弱々しく、掠れた声を上げた。胸が締めつけられる。
「美奈、薬だ。ゆっくり飲むんだ」
私は手にした薬の容器をゆっくりと彼女の口の中へと注ぎ込む。
「けほっ……けほっ……」
薬が思ったよりも苦かったのか、喉を通すのが辛いのか、すぐに咳き込む美奈。
「大丈夫だ美奈、焦らなくていい」
黙って頷き、そこからはこくこくと喉を鳴らしながら少しずつ、少しずつ飲み込んでいく。
ゆっくりと時間を掛けて全てを飲み干した頃、荒い息づかいは落ち着き、最後には穏やかな表情で目を閉じていた。
「……すう」
「また眠ったみたいね」
「……ああ、本当に良かった」
安堵したのか、美奈は再び眠りについたようだ。
安らかな寝息を立てて、呼吸も落ちついた。これでもう大丈夫だろう。
「……良かったのだ。美奈を――救えて」
「うん。本当に良かった」
胸に熱いものが込み上げてきた。椎名の手が肩にぽんと乗せられて、彼女の声も若干震えていた。
美奈の手からは確かな温もりが伝わり、緊張の糸が切れそうになってしまう。
『ドガァンッ!!!!』
「――っ!!」
外で岩が物にぶつかる音が響き、ネムルさんが顔を上げる。
「今の音は……」
ようやくその時が来たのだ。
感傷に浸っている暇はない。
「椎名、美奈の事は頼んだのだ」
「うん。すぐに二人で駆けつけるから」
私達は互いに目配せするとパチンッと手を合わせた。
彼女の瞳からは一筋涙が零れていたが、それは言わないでおく。
私は顔を上げ、前を向く。
二人をその場に残したまま、私は扉を開き外へと駆けていったのだ。
0
小説家になろうにて4年以上連載中の作品です。https://ncode.syosetu.com/n2034ey/続きが気になる方はこちらでも読めますのでどうぞ。ブクマや感想などしていただけるととても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

望んでいないのに転生してしまいました。
ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。
折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。
・・と、思っていたんだけど。
そう上手くはいかないもんだね。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

戦国記 因幡に転移した男
山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。
カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる