私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
34 / 135
第3章 隼人の力、美奈の力

31

しおりを挟む
  私が工藤の元へ駆けつけると、村人達は教会とも礼拝堂とも言えるような村の大きな建物の中に避難したようであった。
  工藤の目の前には、先程の魔族、グリアモールの姿が。
  奴は私達とは少し離れた場所に置物か石像かというように無機質に佇ずんでいる。
  二度目とはいえ、やはり何度見ても慣れない。
  相変わらず気持ち悪い様相をしている。

「工藤、大丈夫か?」

「おせえよっ!」

  工藤はグリアモールを睨みつけたままぶっきらぼうに答える。
  どうやらまだ戦いが始まったわけではないようだ。
  それに私はほんの少し安堵する。
  だが工藤の肩は少し震えているように見える。
  つい先程の戦いは記憶にまだ新しい。恐れを抱いているのも無理はない。

「フフフ……待っていたヨ。しかし中々早かったねエ。ここまではあの洞窟カラかなりの距離があると思ったんだケド。ちょっとばかり驚いたよ」

「貴様は遅かったのだな。もうとっくに村に着いているものと思っていたが?」

  グリアモールの物言いに違和感を覚えつつ、探るような言葉を返してみる。

「フフフ……。まあいいじゃないか。その方が助かっただろう?  フフフ……」

  けれど奴は不敵に笑うだけ。
  相変わらず不気味な奴だ。
  本当のところは分からないがその物言いから何かあるのではと思わせてくる。
  人の心理を利用するのが上手いのか、何を考えているのか分かりづらい。
  だが先程のような恐怖心はすっかり失せていた。妙に落ち着いているのだ。

「貴様の目的は何なのだ。なぜこんな事をする?」

「フフフ……」

「何がおかしい?」

「おかしいのは君達の方サ。なぜこんなコトをするのかだって?  楽しいからに決まっているじゃナイカ。我々魔族ガ人間ごときと関わるのに、そんな大層な理由などナイよ。君達はサ、おもちゃで遊ぶのにいちいち理由を求メルのかい?  敢えて言うなら暇潰しとカ、そんな所カナ?」

「くっ!  てめえ!  いい加減にしやがれってんだ!  俺達を何だと思ってやがる!」

  工藤が叫ぶがそれは逆効果だ。
  奴はきっとそうやって私達が恐れたり、戦いたりする様を楽しんでいるのだ。
  そんな掠れた声で叫んだりするなど、私は怖がっていますと相手に示すようなものだ。

「フフフ……、だからおもちゃだって言ってるダロう?  本当に君は馬鹿なんダねえ」

「なっ、何おうっ!?」

「やめろ工藤、奴の話に耳を傾けるな」

「くっ……隼人……」

  ヒートアップする工藤を私は一旦手で制する。
  渋々ながらも工藤は一度口をつくんだ。

「グリアモールとやら。貴様の目的がどこにあるのか、その全容は分からない。だが今、貴様は私達を覚醒させ、私達全員の能力を確認しているのだと推測するが、それについてはどうだ?」

  グリアモールがどこまで話せる相手なのかは分からない。
  だがこのまま真っ向から戦っても勝機が無い事は先程の戦いで身を以て実感している。
  私は思いきって一度、冷静にこの魔族と会話をしてみる事にしたのだ。

「フフフ……そうダヨ。だから君の能力と、もう一人いるだロウ? その子の能力を見せてもらってもいいカナ? まだ覚醒していないのナラそうなるように手伝ってあげるケド?」

  グリアモールは自分の腹の内を案外あっさりと吐露した。
  それが何処まで信用出来るのかは分からない。
  だがおおよそ予想通りの返答であったのだ。
  ならば交渉の余地はあると私は確信する。

「そうか、了解した。その心配はいらん。もう一人もじきに覚醒してここへやって来るのだ。待っている間に、どうだ。まずは私の能力を見せようと思うのだが、構わないか?」

「――ナンダ。随分素直じゃないカ」

「…………」

  若干の間。そこから放たれた言葉に凄みを感じる。
  口の中が渇いて心臓がドクドクと脈打っていた。
  私の言葉に少し意表を突かれたか、こちらを警戒したかもしれない。
  だが今更引き下がるつもりはない。
  それに警戒された所でそれは些末なことだ。
  この魔族は自分に相当の自信を持っている。
  結局のところ私達を嘲っているのだ。
  警戒を強めるとはいっても所詮気には留めないだろう。
  私はそれを確信していたのだ。

「貴様とまともにやりあってもどうしようもないのは先程の戦いで分かっている。なので一つ、ゲームをしてはくれまいか?」

「――ゲーム?  ナンダソレハ」

「遊戯だ。遊びということだ」

  グリアモールは相変わらずの無表情。だがかなり訝しんでいる。
  意味不明な言葉が飛び出し、意表をつけたといったところか。
  少しだが、こちらのペースに上手く嵌まったのではないだろうか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに 撥ねられてしまった。そして良太郎 が目覚めると、そこは異世界だった。 さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、 ゴーレムと化していたのだ。良太郎が 目覚めた時、彼の目の前にいたのは 魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は 未知の世界で右も左も分からない状態 の良太郎と共に冒険者生活を営んで いく事を決めた。だがこの世界の裏 では凶悪な影が……良太郎の異世界 でのゴーレムライフが始まる……。 ファンタジーバトル作品、開幕!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女

にせぽに~
ファンタジー
何処にでもいそう………でいない女子高校生「公塚 蓮」《きみづか れん》 家族を亡くし、唯一の肉親のお爺ちゃんに育てられた私は、ある日突然剣と魔法が支配する異世界 【エルシェーダ】に飛ばされる。 そこで出会った少女に何とプロポーズされ!? しかもレベル?ステータス?………だけど私はレベル・ステータスALLゼロ《システムエラー》!? 前途多難な旅立ちの私に、濃いめのキャラをした女の子達が集まって……… 小説家になろうで先行連載中です https://ncode.syosetu.com/n1658gu/

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...