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5章 浄化の旅編

2. 野営

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 浄化の旅は順調に進んでいる。
 クインスからこの国に来て、王都に向かう途中でも浄化したけれど、あの時は移動のついでだった。
 今回は事前に予定を立てて、道順も一番効率が良くなるように泊まる場所も考慮して練り上げられた計画なので、無駄なく進んでいく。
 しかも理沙のために事前にお城の料理人が先回りしてくれて、行った先の名物料理だけでなく理沙の好きな食事を作ってくれたり、至れり尽くせりである。

「理沙さん、お城に泊まって何度も往復するのと野営、どちらがいいですか?」
「野営?」
「外でテントで寝る、いわゆるキャンプです。この次の浄化ですが、森の周りの特に瘴気の濃い5か所で浄化を予定していますが、近くに理沙さんに泊まってもらえるような場所がありません」

 近くには宿泊施設もない小さな村しかない。そこに泊まるなら2泊か3泊キャンプになるが、それが嫌なら一番近い街から5往復になる。

「村でも安全なのよね?」
「はい。村の場合は領兵も借りて、万全の体制を整えます」
「カエルがいないならキャンプで」

 何度も往復するよりキャンプを選ぶだろうと思っていたけど、馬車で疲れるのよりもカエルのほうが嫌いなのか。この時期カエルはいないらしいので、キャンプに決まった。
 ターシャちゃんも多分キャンプだろうと思っていたようで、護衛にもその予定で準備をしてもらっているそうだ。


 森の近くで浄化を終えて、その日泊まらせてもらう予定の村に行くと、すでに村の周りにテントが張られて、たくさんの兵士が警戒していた。
 馬車から降りた理沙に、村を代表して村長さんがゆっくり休んでくださいと挨拶してくれているけど、可哀想なくらい緊張でガチガチだ。

 今回村からは、村長の家を空けるので、聖女様に使ってほしいと申し出があったそうだ。
 でもそれはターシャちゃんが断ってくれた。申し訳ないというのもあるけど、理沙がキャンプを楽しみにしているからだ。
 手厚くいろいろ世話をしてもらえて、すでに村の中心部にある広場に用意されているテントに泊まるだけだ。こんなことで浮かれるのは不謹慎かもしれないけど、私もちょっとワクワクする。
 この世界の貴族の人は地面に寝るというのはあり得ないことらしいけど、私たちは庶民だ。

 寝袋なんてワクワクするわね、と言いながら用意されたテントの中を見てみると、ベッドがあった。

「お母さん、ベッドが見えるんだけど」
「奇遇ね。私もよ」

 キャンプって何だっけ。テントがモンゴルあたりで見るような大きいものだとは思っていたけど、これって日本で流行っていたグランピングじゃないかしら。行ったことないから詳しくは知らないけど。

「リサ様、何か問題でも?」
「えーっと、思っていたテントじゃなかったというか」
「やはり今から村長の家に」
「リリーちゃん待って、そっちじゃないわ。豪華すぎて驚いているだけよ」

 テントの中にベッドがあるなんて思わないでしょう。
 リリーちゃんたち護衛騎士は、寝袋で寝るそうだ。むしろいざとなったら戦う彼女たちのほうがちゃんと寝る必要がありそうだけど、騎士は遠征に出るとみんな寝袋だそうだ。
 公爵家の若奥様であるターシャちゃんも寝袋だそうだ。本来貴族の奥様ではありえないらしいけど、むしろ楽しみにしている様子に周りの人たちが戸惑っているらしい。
 それを聞くと、私たちも実は寝袋を楽しみにしていたとは言いだせない。

 テントの中で食事を済ませ、寝るまでにすることもないので、休憩している騎士さんのところを訪ねてみることになった。
 騎士の人たちの寝袋がどんなものかを気にしている私たちに、護衛についてくれているリリーちゃんが、案内を買って出てくれた。

「カーラ、入るわよ」
「リリー、何かあった?」
「リサ様が普通のテントをご覧になりたいそうよ」

 カーラちゃんがいるテントは、私たちが想像するテントで、2人で使用していた。中は2人分の寝袋を敷いたら、あとは荷物でスペースが埋まってしまうくらいの狭さだ。
 人数分のテントを運ぶだけで馬車が1台は埋まってしまうので、ぎりぎりの大きさのものを使うらしい。

「私たちもこういうのだと思ってたので、広くて驚きました」
「リサ様にこのテントに泊まっていただくわけにはいきませんよ」
「でもターシャさんは普通のテントだって聞きました」
「あの方は、まあ……」

 そういえばこの村に着いてテントに入る前に分かれてからターシャちゃんを見ていない。どうしているのかと思ったら、せっかくだからと第二騎士団の騎士たちに魔物に関する聞き取り調査に行っているらしい。さすがだわ。きっとジェン君を振り回しているんでしょうね。

 休憩中の邪魔をしてもいけないので、目的の物を見終わってすぐにカーラちゃんのテントを出る。
 聖女様だ、という囁きが聞こえる中、自分たちのテントに戻っている途中で、火を囲んで食事をしている騎士たちの中に、見覚えのある顔を見つけた。

「シーダ君、元気だった?」
「マサコ様、お久しぶりです」
「地図見たわよ。すごいわね」
「自分は感じるだけです」

 童顔の平民騎士、シーダ君だ。
 相変わらずピシッと直立不動で答えてくれるけど、そんなに緊張しなくていいのに。

「シーダさん、浄化後に瘴気が薄くなっているのって分かりますか?」
「分かります!」
「よかった」

 自分以外の人に浄化の成果が出ていると言われて、理沙も安心したようで、ホッとした顔をした。

 理沙に話しかけられて、シーダ君が逃げ出したそうにしているのを、周りに騎士たちが笑っている。
 言葉遣いがなってないと特別授業を受けさせられていたんですよ、と隣にいたイケメンの護衛騎士さんが教えてくれた。

「頑張ってね」
「ありがとうございます」

 泣きそうな顔するなんて、そんなに大変なのかしら。
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