巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

文字の大きさ
54 / 89
5章 浄化の旅編

2. 野営

しおりを挟む
 浄化の旅は順調に進んでいる。
 クインスからこの国に来て、王都に向かう途中でも浄化したけれど、あの時は移動のついでだった。
 今回は事前に予定を立てて、道順も一番効率が良くなるように泊まる場所も考慮して練り上げられた計画なので、無駄なく進んでいく。
 しかも理沙のために事前にお城の料理人が先回りしてくれて、行った先の名物料理だけでなく理沙の好きな食事を作ってくれたり、至れり尽くせりである。

「理沙さん、お城に泊まって何度も往復するのと野営、どちらがいいですか?」
「野営?」
「外でテントで寝る、いわゆるキャンプです。この次の浄化ですが、森の周りの特に瘴気の濃い5か所で浄化を予定していますが、近くに理沙さんに泊まってもらえるような場所がありません」

 近くには宿泊施設もない小さな村しかない。そこに泊まるなら2泊か3泊キャンプになるが、それが嫌なら一番近い街から5往復になる。

「村でも安全なのよね?」
「はい。村の場合は領兵も借りて、万全の体制を整えます」
「カエルがいないならキャンプで」

 何度も往復するよりキャンプを選ぶだろうと思っていたけど、馬車で疲れるのよりもカエルのほうが嫌いなのか。この時期カエルはいないらしいので、キャンプに決まった。
 ターシャちゃんも多分キャンプだろうと思っていたようで、護衛にもその予定で準備をしてもらっているそうだ。


 森の近くで浄化を終えて、その日泊まらせてもらう予定の村に行くと、すでに村の周りにテントが張られて、たくさんの兵士が警戒していた。
 馬車から降りた理沙に、村を代表して村長さんがゆっくり休んでくださいと挨拶してくれているけど、可哀想なくらい緊張でガチガチだ。

 今回村からは、村長の家を空けるので、聖女様に使ってほしいと申し出があったそうだ。
 でもそれはターシャちゃんが断ってくれた。申し訳ないというのもあるけど、理沙がキャンプを楽しみにしているからだ。
 手厚くいろいろ世話をしてもらえて、すでに村の中心部にある広場に用意されているテントに泊まるだけだ。こんなことで浮かれるのは不謹慎かもしれないけど、私もちょっとワクワクする。
 この世界の貴族の人は地面に寝るというのはあり得ないことらしいけど、私たちは庶民だ。

 寝袋なんてワクワクするわね、と言いながら用意されたテントの中を見てみると、ベッドがあった。

「お母さん、ベッドが見えるんだけど」
「奇遇ね。私もよ」

 キャンプって何だっけ。テントがモンゴルあたりで見るような大きいものだとは思っていたけど、これって日本で流行っていたグランピングじゃないかしら。行ったことないから詳しくは知らないけど。

「リサ様、何か問題でも?」
「えーっと、思っていたテントじゃなかったというか」
「やはり今から村長の家に」
「リリーちゃん待って、そっちじゃないわ。豪華すぎて驚いているだけよ」

 テントの中にベッドがあるなんて思わないでしょう。
 リリーちゃんたち護衛騎士は、寝袋で寝るそうだ。むしろいざとなったら戦う彼女たちのほうがちゃんと寝る必要がありそうだけど、騎士は遠征に出るとみんな寝袋だそうだ。
 公爵家の若奥様であるターシャちゃんも寝袋だそうだ。本来貴族の奥様ではありえないらしいけど、むしろ楽しみにしている様子に周りの人たちが戸惑っているらしい。
 それを聞くと、私たちも実は寝袋を楽しみにしていたとは言いだせない。

 テントの中で食事を済ませ、寝るまでにすることもないので、休憩している騎士さんのところを訪ねてみることになった。
 騎士の人たちの寝袋がどんなものかを気にしている私たちに、護衛についてくれているリリーちゃんが、案内を買って出てくれた。

「カーラ、入るわよ」
「リリー、何かあった?」
「リサ様が普通のテントをご覧になりたいそうよ」

 カーラちゃんがいるテントは、私たちが想像するテントで、2人で使用していた。中は2人分の寝袋を敷いたら、あとは荷物でスペースが埋まってしまうくらいの狭さだ。
 人数分のテントを運ぶだけで馬車が1台は埋まってしまうので、ぎりぎりの大きさのものを使うらしい。

「私たちもこういうのだと思ってたので、広くて驚きました」
「リサ様にこのテントに泊まっていただくわけにはいきませんよ」
「でもターシャさんは普通のテントだって聞きました」
「あの方は、まあ……」

 そういえばこの村に着いてテントに入る前に分かれてからターシャちゃんを見ていない。どうしているのかと思ったら、せっかくだからと第二騎士団の騎士たちに魔物に関する聞き取り調査に行っているらしい。さすがだわ。きっとジェン君を振り回しているんでしょうね。

 休憩中の邪魔をしてもいけないので、目的の物を見終わってすぐにカーラちゃんのテントを出る。
 聖女様だ、という囁きが聞こえる中、自分たちのテントに戻っている途中で、火を囲んで食事をしている騎士たちの中に、見覚えのある顔を見つけた。

「シーダ君、元気だった?」
「マサコ様、お久しぶりです」
「地図見たわよ。すごいわね」
「自分は感じるだけです」

 童顔の平民騎士、シーダ君だ。
 相変わらずピシッと直立不動で答えてくれるけど、そんなに緊張しなくていいのに。

「シーダさん、浄化後に瘴気が薄くなっているのって分かりますか?」
「分かります!」
「よかった」

 自分以外の人に浄化の成果が出ていると言われて、理沙も安心したようで、ホッとした顔をした。

 理沙に話しかけられて、シーダ君が逃げ出したそうにしているのを、周りに騎士たちが笑っている。
 言葉遣いがなってないと特別授業を受けさせられていたんですよ、と隣にいたイケメンの護衛騎士さんが教えてくれた。

「頑張ってね」
「ありがとうございます」

 泣きそうな顔するなんて、そんなに大変なのかしら。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

処理中です...