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2章 城下編
10. 国外逃亡
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日本の記憶があると言う女性の話は、理沙が浄化の旅に行っているので未だできないでいる。
そんなある日の夕方、談話室でお客さんと話をしていたところに、ドレスのままの理沙が駆け込んできた。しかも泣いている。
「理沙!どうしたの?!」
「ハイド殿下が自分の妃になれって襲ってきて……。もうやだ、お城にいたくない!」
「大丈夫なの?!」
無理やり迫ってきたので、あそこを蹴り上げて逃げてきたらしい。理沙についてきたローズを見ると頷かれたので、無事だったようだ。よかった。
騒然としてしまった談話室はミュラに任せて、とりあえず理沙を理沙の部屋に連れていくと、レイ君も部屋までついてきた。
「レイ君」
「今は緊急事態です。そのお姿を見られたのですから、早急に王城へお戻りください。外で待機しています」
いつもは下町に溶け込む服装をしているけど、今日は明らかに庶民ではないと分かるドレスだったのだ。
けれど王太子に襲われたと言っているのに、お城に戻るなんてありえない。
「理沙、隣のトルゴードに行きましょう」
「トルゴード?」
「この前、日本の記憶があるっていうトルゴードの女の人が泊まったの。困ってたら助けてくれるって。その人が信用できるか分からないけど、過去の聖女たちはトルゴードに派遣されていたから、協力する代わりに保護してほしいって言えばなんとかなるかもしれない」
仲良くなった冒険者に頼めば、護衛はしてくれるだろう。けれど、ここにいる護衛たちからどうやって逃げ出そうか。出し抜ける気が全くしない。
必要な荷物をバッグに詰めて、準備をしながら考えているが、方法が思いつかない。
意を決して、扉の外のレイ君に呼び掛けた。
「レイ君、私たちトルゴードに行きたいんだけど」
「お母さん!」
理沙とふたりで、レイ君たちの目をかいくぐって逃げ出すなど不可能だ。理沙だけなら何とかなるかもしれないが、私にそんな体力はない。
トルゴードの人からもらったハンカチは、いざという時のために理沙に渡してある。
けれど、ここで理沙をひとりにさせたくない。何かあれば見捨てて逃げるようには言ってみたけど、きっと理沙は見捨てられない。
だから、見逃してほしい。
「聖女様、護衛騎士に命令を」
「え?」
そうだ。理沙の命令が最上位だと宰相は言っていた。レイ君は見逃すだけでなく、護衛もしてくれると言っているのだ。
王様に逆らってレイ君の将来が心配だが、今は他人のことまで気にしていられる状況じゃない。
理沙は戸惑いながらも命令を下した。
「トルゴードに向かうので、トルゴードまで護衛してください」
「畏まりました。体制を整えますので、少々お待ちください」
出たら王様が待っていた、なんてことになるかもしれない。けれど、他に方法がないのだ。
出発の前にミュラに謝らなければ。こんなことになってしまって、後は全てミュラに任せるしかない。
エルちゃんに頼むと、レイ君の代わりに扉の外にいた騎士が、ミュラを連れて来てくれた。
「マーサ、あんた、お貴族様の愛人じゃなかったのね」
「ミュラがミュラで安心したわ。迷惑かけてごめんね。私はもう続けられないから、この宿は貴女にあげる。これがお店の権利書。よろしくね」
第一声がいかにもミュラだった。こんな時でも重要なのはそこなのかと、安心するような力が抜けるような。
こんな棚ぼたでいいのかしら、と言っているが、正直この先この宿が続けられるのかは分からない。取り上げられることはないと思うけど。
「リーザちゃん大丈夫?王子様がご無体なさったって噂だけど」
「大丈夫よ。でももう噂になってるの?」
「商人の情報網であっという間に広がるでしょうね」
「貴女も広げるんじゃないの?」
「だってリーザちゃん、あんなにいい子なのに許せないでしょう」
そんな風に言ってくれる人がいて救われる。
「お待たせいたしました。出発の準備が整いました」
「ありがとう。理沙、行きましょう」
「ミュラさん、ありがとうございました」
「気を付けてね」
「レイ君、ミュラがこの宿を続けられるように、偉い人に言っておいてもらえる?」
最後まで、聖女としてではなく私の娘として理沙に接してくれた。
この世界のことを分かっていない私に、世間知らずなのねえと言いながらいろいろ教えてくれたこの世界での友人に、心からの感謝を込めてハグをした。
外に出ると、理沙がお城から乗ってきたお忍びの馬車が用意されていて、その周りには大勢の騎士がいた。隣の詰め所にしている建物に、こんなにも騎士がいたのか。
遠くに何が始まるのかと集まっている野次馬が見えるが、騎士に阻まれて近づけないでいる。でもこの後、理沙のことがあの野次馬から一気に広まるだろう。人の口に戸は立てられない。
私たちが乗り込むと、レイ君の合図で馬車が動き出した。この馬車が向かうのは果たしてどこなのか。
しばらくして、わずかに開けた窓から外を見ていた理沙が、安堵のため息をついた。
「お城から離れて、門のほうへ向かってる。レイさん、本当にトルゴードまで送ってくれるみたい」
「よかったわ」
けれど、しばらく進んで馬車が止まった。王都の門を出ることろで止められているようだ。
聖女様を通せというレイ君と、王城から通すなと連絡が来ているという門番で言い合いをしているのが聞こえる。
「お母さん、私行ってくる」
「理沙」
「大丈夫」
そう言うと自分で馬車の扉を開けて外へ出た。いきなり馬車から降りてきた理沙に、護衛騎士が戻るように言っているけど、気にせず堂々と門の前へ進んでいく。
「ここを通しなさい!」
「しかし……」
「私の命令が聞けないのですか?ここを通しなさい!」
理沙がここまで高圧的に振る舞うのを初めて見る。
聖女の顔は知らなくても、警護についている騎士から聖女だと判断した見物の人たちが、王様が聖女様を止めているらしいと噂し始める。
そのざわめきに背中を押されるように、理沙が再度通しなさいと言ったところで、門番が折れた。
「初めてだったけど、聞いてもらえてよかった」
「立派だったよ。聖女様みたいだった」
「だって私、本物の聖女よ?」
そうだったわね、理沙と笑い合う。
「王太子とのことは大丈夫?」
「うん。ちょっとショックだったけど、でもローズが助けてくれたから。俺の妃になれば面倒見てやるって言われたの、すっごいムカついた。面倒なんて見てくれなんて頼んでないし。舐めてるでしょ」
常識が違うのだと言い続けたのに、最後まで分かってもらえなかった。
まあこのまま無事トルゴードへ出国できれば、もう関わらない人だ。それよりも、理沙の心のケアを優先しよう。
ローズは今も別の馬車で付いてきてくれている。
国境までは一日ではたどり着けないので、途中でどこかに泊まらないといけない。その時の身の回りの世話をします、と自主的に付いてきてくれたのだ。
この国に対してはいい感情はないけど、この国の人に助けられている。
途中でどうかこの国に留まってくださいと懇願してくる人たちを無視して進み、トルゴード王国との国境に着いた。
すでに連絡がなされているそうで、そこからはトルゴードの騎士が護衛してくれるらしい。
「一般人でよかったんだけど」
「まあ仕方がないわよ」
「浄化が終わったら自由にさせてって、今度は私が交渉する」
理沙がやる気になっている。
この世界に来てから、矢面に立たなくていいように私が全てやってきたけど、今回のことで自信をつけたようだ。
もう成人したのにあれこれ口を出すとヘリコプターペアレントになりそうだ。
ちょっと寂しいけど、辛い経験も乗り越えて自分の足で立とうとしている理沙のお母さんとして、巣立ちを応援してあげよう。
祐也が家を出た時は鳥の巣症候群になりそうだったけど、今回はなにせ異世界にいるのだ。きっと抜け殻になっている暇などないに違いない。
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「トルゴード?」
「この前、日本の記憶があるっていうトルゴードの女の人が泊まったの。困ってたら助けてくれるって。その人が信用できるか分からないけど、過去の聖女たちはトルゴードに派遣されていたから、協力する代わりに保護してほしいって言えばなんとかなるかもしれない」
仲良くなった冒険者に頼めば、護衛はしてくれるだろう。けれど、ここにいる護衛たちからどうやって逃げ出そうか。出し抜ける気が全くしない。
必要な荷物をバッグに詰めて、準備をしながら考えているが、方法が思いつかない。
意を決して、扉の外のレイ君に呼び掛けた。
「レイ君、私たちトルゴードに行きたいんだけど」
「お母さん!」
理沙とふたりで、レイ君たちの目をかいくぐって逃げ出すなど不可能だ。理沙だけなら何とかなるかもしれないが、私にそんな体力はない。
トルゴードの人からもらったハンカチは、いざという時のために理沙に渡してある。
けれど、ここで理沙をひとりにさせたくない。何かあれば見捨てて逃げるようには言ってみたけど、きっと理沙は見捨てられない。
だから、見逃してほしい。
「聖女様、護衛騎士に命令を」
「え?」
そうだ。理沙の命令が最上位だと宰相は言っていた。レイ君は見逃すだけでなく、護衛もしてくれると言っているのだ。
王様に逆らってレイ君の将来が心配だが、今は他人のことまで気にしていられる状況じゃない。
理沙は戸惑いながらも命令を下した。
「トルゴードに向かうので、トルゴードまで護衛してください」
「畏まりました。体制を整えますので、少々お待ちください」
出たら王様が待っていた、なんてことになるかもしれない。けれど、他に方法がないのだ。
出発の前にミュラに謝らなければ。こんなことになってしまって、後は全てミュラに任せるしかない。
エルちゃんに頼むと、レイ君の代わりに扉の外にいた騎士が、ミュラを連れて来てくれた。
「マーサ、あんた、お貴族様の愛人じゃなかったのね」
「ミュラがミュラで安心したわ。迷惑かけてごめんね。私はもう続けられないから、この宿は貴女にあげる。これがお店の権利書。よろしくね」
第一声がいかにもミュラだった。こんな時でも重要なのはそこなのかと、安心するような力が抜けるような。
こんな棚ぼたでいいのかしら、と言っているが、正直この先この宿が続けられるのかは分からない。取り上げられることはないと思うけど。
「リーザちゃん大丈夫?王子様がご無体なさったって噂だけど」
「大丈夫よ。でももう噂になってるの?」
「商人の情報網であっという間に広がるでしょうね」
「貴女も広げるんじゃないの?」
「だってリーザちゃん、あんなにいい子なのに許せないでしょう」
そんな風に言ってくれる人がいて救われる。
「お待たせいたしました。出発の準備が整いました」
「ありがとう。理沙、行きましょう」
「ミュラさん、ありがとうございました」
「気を付けてね」
「レイ君、ミュラがこの宿を続けられるように、偉い人に言っておいてもらえる?」
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この世界のことを分かっていない私に、世間知らずなのねえと言いながらいろいろ教えてくれたこの世界での友人に、心からの感謝を込めてハグをした。
外に出ると、理沙がお城から乗ってきたお忍びの馬車が用意されていて、その周りには大勢の騎士がいた。隣の詰め所にしている建物に、こんなにも騎士がいたのか。
遠くに何が始まるのかと集まっている野次馬が見えるが、騎士に阻まれて近づけないでいる。でもこの後、理沙のことがあの野次馬から一気に広まるだろう。人の口に戸は立てられない。
私たちが乗り込むと、レイ君の合図で馬車が動き出した。この馬車が向かうのは果たしてどこなのか。
しばらくして、わずかに開けた窓から外を見ていた理沙が、安堵のため息をついた。
「お城から離れて、門のほうへ向かってる。レイさん、本当にトルゴードまで送ってくれるみたい」
「よかったわ」
けれど、しばらく進んで馬車が止まった。王都の門を出ることろで止められているようだ。
聖女様を通せというレイ君と、王城から通すなと連絡が来ているという門番で言い合いをしているのが聞こえる。
「お母さん、私行ってくる」
「理沙」
「大丈夫」
そう言うと自分で馬車の扉を開けて外へ出た。いきなり馬車から降りてきた理沙に、護衛騎士が戻るように言っているけど、気にせず堂々と門の前へ進んでいく。
「ここを通しなさい!」
「しかし……」
「私の命令が聞けないのですか?ここを通しなさい!」
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聖女の顔は知らなくても、警護についている騎士から聖女だと判断した見物の人たちが、王様が聖女様を止めているらしいと噂し始める。
そのざわめきに背中を押されるように、理沙が再度通しなさいと言ったところで、門番が折れた。
「初めてだったけど、聞いてもらえてよかった」
「立派だったよ。聖女様みたいだった」
「だって私、本物の聖女よ?」
そうだったわね、理沙と笑い合う。
「王太子とのことは大丈夫?」
「うん。ちょっとショックだったけど、でもローズが助けてくれたから。俺の妃になれば面倒見てやるって言われたの、すっごいムカついた。面倒なんて見てくれなんて頼んでないし。舐めてるでしょ」
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