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2章 城下編
9. 思わぬ出会い
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理沙はしばらく宿に泊まり、また浄化の旅に行く決心をした。
「ありがたいって思ってくれている人のほうが多いんだなって。だからさっさと終わらせて、私も宿を手伝うわ。看板娘になるの」
「理沙が看板娘をしてくれたら、お客さんがたくさん来るわね」
「でも、次の浄化の旅は、一緒に行ってくれる?」
「もちろんよ」
行く先々で歓迎の言葉は聞いても、具体的にどう感謝されているかは知らなかった。そこに来るのが遅いと言う恨みの言葉を聞いて、自分の行っていることが本当に歓迎されているのか分からなくなってしまったのだと、教えてくれた。
そうやって口に出せるようになったということは、だいぶ回復してきていると見ていいのだろうか。
お城に戻った理沙は大歓迎された。わざわざ王様と宰相が出迎えに来たくらいだ。
けれど理沙は、ローズが笑顔で迎えてくれたことが一番嬉しかったようだ。
「お元気になられてよろしゅうございました」
「心配かけてごめんなさい」
私がお城を出てから、理沙の身の回りのことはローズがしているので、理沙はローズを姉のように慕っている。
下町で何をした、何が楽しかったと報告している理沙の話を優しく聞いているローズは、少し年の離れた姉妹に見えなくもない。
浄化の旅にはその後2回ついて行ったが、3回目からは理沙がひとりで大丈夫だと言うので、ローズに任せた。
「お母さんは宿のことちゃんとやっといて。浄化が終わった時に宿が潰れてたとか嫌だからね」
「はいはい。頑張るわ」
理沙の体調を考えてか、一度にたくさんの街を周るようなことはせず、浄化しては王城に戻って、という移動を繰り返している。辺境の浄化は終えて、残りが王都に近いところばかりだからなのだろう。
王都に戻っている間は宿に泊まりに来ているので、理沙の変化にも気付けるだろう。
理沙はこの宿ではリーザとして、掃除や洗濯などの手伝いをしている。宿泊客の前には出ないけど、普通の女の子として楽しそうに生活している。
理沙が宿に来るようになってから、私はほとんど王城へ足を運ばなくなった。
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
「2名用を1部屋お願い」
「はい。寝巻の貸し出しがありますが、お使いになれますか?おひとり520バークで、ご使用後に返していただいたら500バークお返しします」
「へえ、面白い取り組みね。2人分お願い」
パジャマの貸し出しは好評だった。みんな持って来ているのだが、自前のものを洗濯するために借りる人が多い。この人たちもそうだろう。
珍しく若い女性とおそらくお付きの女性の2人組だが、服装からこの国の人じゃないようだと思いながら、部屋に案内した時だった。
「ニホンジンデスカ?」
「え?」
「フリソデト、キコエマシタ」
まじまじと顔を見てしまうが、日本人らしき特徴を見出せない。
「日本語、分かるの?」
「ハイ。ワタシ、ニホンノキオクガ、アリマス」
理沙と話すとき、日本語を話そうと思って話すと日本語になるようなのだ。彼女にもそう思いながら話しかけてみたら、返事が返ってきた。
「日本語はずっと話してないから忘れてるのでこちらの言葉で。私はターシャ。隣国トルゴード王国に住んでいます。多分前世の昭和と平成の記憶があります。地震や台風などの自然災害が多くて火山も噴火するけど魔物はいない。刃物を持ち歩けば捕まる。この寝巻の貸し出しはホテルのバスローブや旅館の浴衣がヒントじゃないかしら?」
「そうです。え、どういうこと?」
「聖女様が黒目黒髪と聞いて、もしかして日本人かと思って来てみたら、お店の前で振袖と言う言葉が聞こえて少し調べさせてもらったの。貴女は聖女様の乳母と言われているみたいだけど、21世紀の日本に乳母はいないから時代が違うのかしら」
本当に日本人だったようだ。
ゆっくり話を聞きたい。けれど、あまり長居しているとレイ君が来てしまう。
「寝巻のサイズが間違っているみたいなので、替えてきますね」
「お願いね」
いったん部屋を出て、深呼吸する。落ち着こう。まずはあの人の話が聞きたい。でもレイ君には聞かれたくない。
「マーサ、どうしたの?」
「寝巻のサイズ間違えちゃって。ミュラ、そのお水もらっていい?お詫びに出すから」
「いいわよ。あの人たちトルゴードの人でしょう。国に帰ったら宣伝してくれるかしら」
「お願いしてみるわ」
これで少し時間がとれるだろう。
「お待たせしました。お詫びにお水をどうぞ」
「ありがとう」
「お話を聞きたくて。まず、貴女の目的は何ですか?」
「同郷の人がいるかもと思って来ただけよ。もし何か困っているなら手助けはするわ。一応トルゴードの貴族だから、トルゴードに来るときは声をかけて」
信用していいのか分からない。いずれ理沙はトルゴードに派遣されるはずだから、その時に連絡を取ってみようか。
そう迷っていたら、女性が紋章の入ったハンカチを渡してくれた。
「トルゴードでこの紋章を見せれば、私のところに連絡が来るから」
「ありがとうございます」
「さあ行って。あの若い男性は、貴女の護衛でしょう?私のことは内密にお願いね」
部屋を出るように促されて、空になったコップを受け取って、受付に戻った。
どうしようか。トルゴードについては、この国ほどではないけれど瘴気の影響を受ける隣国ということくらいしか知らない。でもいきなり調べ始めると警戒されるかもしれない。
今度理沙に会った時に相談してみよう。
「レイ君、トルゴードってどんな国?」
「女性も官吏になっている珍しい国です。女性だけでの旅もあちらでは普通なのかもしれません」
「女性だけってこの国だと見ないわよね」
交通手段も発達していないし、魔物もいるので、女性だけの旅は危険なのだろう。
わざわざ会いに来てくれたようなので、彼女たちが危ない目に合わないことを祈ろう。
---------
(ターシャが現地語で話している際、固有名詞は翻訳されないで音のまま聞こえていますが、政子さんは理解できるので違和感を感じない、という設定です)
「ありがたいって思ってくれている人のほうが多いんだなって。だからさっさと終わらせて、私も宿を手伝うわ。看板娘になるの」
「理沙が看板娘をしてくれたら、お客さんがたくさん来るわね」
「でも、次の浄化の旅は、一緒に行ってくれる?」
「もちろんよ」
行く先々で歓迎の言葉は聞いても、具体的にどう感謝されているかは知らなかった。そこに来るのが遅いと言う恨みの言葉を聞いて、自分の行っていることが本当に歓迎されているのか分からなくなってしまったのだと、教えてくれた。
そうやって口に出せるようになったということは、だいぶ回復してきていると見ていいのだろうか。
お城に戻った理沙は大歓迎された。わざわざ王様と宰相が出迎えに来たくらいだ。
けれど理沙は、ローズが笑顔で迎えてくれたことが一番嬉しかったようだ。
「お元気になられてよろしゅうございました」
「心配かけてごめんなさい」
私がお城を出てから、理沙の身の回りのことはローズがしているので、理沙はローズを姉のように慕っている。
下町で何をした、何が楽しかったと報告している理沙の話を優しく聞いているローズは、少し年の離れた姉妹に見えなくもない。
浄化の旅にはその後2回ついて行ったが、3回目からは理沙がひとりで大丈夫だと言うので、ローズに任せた。
「お母さんは宿のことちゃんとやっといて。浄化が終わった時に宿が潰れてたとか嫌だからね」
「はいはい。頑張るわ」
理沙の体調を考えてか、一度にたくさんの街を周るようなことはせず、浄化しては王城に戻って、という移動を繰り返している。辺境の浄化は終えて、残りが王都に近いところばかりだからなのだろう。
王都に戻っている間は宿に泊まりに来ているので、理沙の変化にも気付けるだろう。
理沙はこの宿ではリーザとして、掃除や洗濯などの手伝いをしている。宿泊客の前には出ないけど、普通の女の子として楽しそうに生活している。
理沙が宿に来るようになってから、私はほとんど王城へ足を運ばなくなった。
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
「2名用を1部屋お願い」
「はい。寝巻の貸し出しがありますが、お使いになれますか?おひとり520バークで、ご使用後に返していただいたら500バークお返しします」
「へえ、面白い取り組みね。2人分お願い」
パジャマの貸し出しは好評だった。みんな持って来ているのだが、自前のものを洗濯するために借りる人が多い。この人たちもそうだろう。
珍しく若い女性とおそらくお付きの女性の2人組だが、服装からこの国の人じゃないようだと思いながら、部屋に案内した時だった。
「ニホンジンデスカ?」
「え?」
「フリソデト、キコエマシタ」
まじまじと顔を見てしまうが、日本人らしき特徴を見出せない。
「日本語、分かるの?」
「ハイ。ワタシ、ニホンノキオクガ、アリマス」
理沙と話すとき、日本語を話そうと思って話すと日本語になるようなのだ。彼女にもそう思いながら話しかけてみたら、返事が返ってきた。
「日本語はずっと話してないから忘れてるのでこちらの言葉で。私はターシャ。隣国トルゴード王国に住んでいます。多分前世の昭和と平成の記憶があります。地震や台風などの自然災害が多くて火山も噴火するけど魔物はいない。刃物を持ち歩けば捕まる。この寝巻の貸し出しはホテルのバスローブや旅館の浴衣がヒントじゃないかしら?」
「そうです。え、どういうこと?」
「聖女様が黒目黒髪と聞いて、もしかして日本人かと思って来てみたら、お店の前で振袖と言う言葉が聞こえて少し調べさせてもらったの。貴女は聖女様の乳母と言われているみたいだけど、21世紀の日本に乳母はいないから時代が違うのかしら」
本当に日本人だったようだ。
ゆっくり話を聞きたい。けれど、あまり長居しているとレイ君が来てしまう。
「寝巻のサイズが間違っているみたいなので、替えてきますね」
「お願いね」
いったん部屋を出て、深呼吸する。落ち着こう。まずはあの人の話が聞きたい。でもレイ君には聞かれたくない。
「マーサ、どうしたの?」
「寝巻のサイズ間違えちゃって。ミュラ、そのお水もらっていい?お詫びに出すから」
「いいわよ。あの人たちトルゴードの人でしょう。国に帰ったら宣伝してくれるかしら」
「お願いしてみるわ」
これで少し時間がとれるだろう。
「お待たせしました。お詫びにお水をどうぞ」
「ありがとう」
「お話を聞きたくて。まず、貴女の目的は何ですか?」
「同郷の人がいるかもと思って来ただけよ。もし何か困っているなら手助けはするわ。一応トルゴードの貴族だから、トルゴードに来るときは声をかけて」
信用していいのか分からない。いずれ理沙はトルゴードに派遣されるはずだから、その時に連絡を取ってみようか。
そう迷っていたら、女性が紋章の入ったハンカチを渡してくれた。
「トルゴードでこの紋章を見せれば、私のところに連絡が来るから」
「ありがとうございます」
「さあ行って。あの若い男性は、貴女の護衛でしょう?私のことは内密にお願いね」
部屋を出るように促されて、空になったコップを受け取って、受付に戻った。
どうしようか。トルゴードについては、この国ほどではないけれど瘴気の影響を受ける隣国ということくらいしか知らない。でもいきなり調べ始めると警戒されるかもしれない。
今度理沙に会った時に相談してみよう。
「レイ君、トルゴードってどんな国?」
「女性も官吏になっている珍しい国です。女性だけでの旅もあちらでは普通なのかもしれません」
「女性だけってこの国だと見ないわよね」
交通手段も発達していないし、魔物もいるので、女性だけの旅は危険なのだろう。
わざわざ会いに来てくれたようなので、彼女たちが危ない目に合わないことを祈ろう。
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